第4話 死闘!

「な、なにがあった?ベネディクト!」

大公陛下が両手で耳を押さえ、お尋ねに。

「お、恐らく、ローが奥義を放った物かと!」


暫くして、闘技場の土煙は次第に収まっていく。

だが、耳の方はまだ、耳鳴りが収まらない。


闘技場の中では、双方が吹き飛ばされ、倒れている。

しかも、今のでエクベルトの戦斧の柄が半ばで折れてしまっている。


「ベネディクト、詳しく説明せい」

落ち着かれたのか、大公陛下が改めて、お尋ねに成る。

「はっ!しからば……」


一旦息を整えて、先ほどの状況を御説明する。

「エクベルトがバーストを込めた戦斧を振り下ろしたその刹那、そのやいばを受け止める為、恐らくローが爆竜功ばくりゅうこうを使ったものかと」

爆竜功ばくりゅうこうとは、これ程の爆発を生み出す技だと言う事か?」

「いいえ、そうでは御座いません。確かに爆竜功ばくりゅうこうは両手に炎を集め、てのひらで爆発させて敵の攻撃を爆風で受け止める技。ですが、これは瞬炎歩しゅんえんほの応用技として生み出されたと聞き及んでおります。ですから、奥義とは言え、これ程の威力は無い筈」


「ならば、まさかエクベルトのバーストに寄るものと?」

「いいえ、大公陛下もバーストの威力がこれ程では無いのは御存じの筈。恐らくその両方の相乗効果かと」

「そうか!魔力と気功が混ざったと言う事か!」

「恐らく、御推察通りかと」


魔法と気功術は元来相性が悪い。

魔力と気が混ざり合うと、強大な力と成って暴走し、爆発を起こす。

歴史上、何人もの人物が、その強大な力に魅せられ、魔法と気功術の融合を試みたが、結局、皆命を落とす事に成ったと云う。


エクベルトのバーストとローの爆竜功ばくりゅうこうの力が拮抗し、魔力と気が混ざり合った結果あの様な爆発につながったに違いない。

実際、戦場でも、魔導士と気功術の使い手が相まみえた場合、極々希にでは在るがこの様な爆発が起こる事が在る。


土煙の収まった闘技場の中では、両者がよろめきつつも立ち上がる。

エクベルトはボロボロに成った盾と、柄が折れ短く成った戦斧を構える。

フルプレートに全身を覆われている故、ダメージの程は見て取れないが、あれ程の爆発の中心部に居た以上無傷でいられるわけはない。


ローの方は見るからに満身創痍。

ファランクスの攻撃で負傷した脇腹は、まとった炎に傷口を焼かれ、出血は止まっている様だが、見るからに痛々しい。

そして、ローはおもむろに、人には到底無理な構えを取る。


「ほう、これは何とも、面白い構えではないか」

ローは尻尾のみで体を支えて立ち、四肢を前に爪を立てる様に構えている。

「あれは、構えた四肢を、ギカン帝国に伝わる四海に住まう伝説の竜王になぞらえた構え。竜王の構えに御座います」


再び爆音!

ローは竜王の構えのまま、瞬炎歩しゅんえんほで飛び掛かる。

ローの猛攻が始まる。

尻尾のみで体を支え、四肢を駆使してエクベルトの盾を粉砕せんと殴り続ける。

エクベルトはその攻撃を盾で耐えるのみ。


「うん?妙では無いか。何故、エクベルトはカウンターを使わんのだ?」

「考えられることは二つに御座います。一つは、残念ながらエクベルトの魔力が底を付いたと言う事……。もう一つは、何か仕掛ける機を見計らってるのかも知れません」

「ほう、で、けい何方どちらだと思う?」

「エクベルトは、最後の最後まで切り札を幾つも隠し持つ男。この試合においても未だ一つ、見せていない切り札が御座いますゆえ、恐らく後者かと」

「ほう、最後の切り札とな。面白い」


そして、その時が訪れる。

「シールド!」

シールドの魔法は、見えない障壁を出現させ、攻撃を防ぐ魔法。

ただし、単に物理的に攻撃を受け止めると言う物では無い。

シールドに触れた物の動きを止める事によって、攻撃を防ぐ魔法なのだ。

すなわち、触れたその部位が一瞬凍り付いたかの様に、その動きを止める。


エクベルト程の達人に置いても、止める事の出来る時間は、瞬きする程度の一瞬、だがその一瞬が勝負を決める。


ローがエクベルトの盾を両断しようと、炎龍脚えんりゅきゃくを放ったその右足が、一瞬、シールドに張り付く様にピタリと止まる。

「バースト!」

短く成った戦斧にバーストを込め、動きの止まったローに向かって振り下ろされる。


刹那、ローの左腕がまばゆいばかりに赤く輝く。

「あっ、あれは!」

再び、耳を劈く爆音!

そうか……あれは、そう云う技……だとすれば、ローは……。


「ベ、ベネディクト!今度は何が起こった!」

再び、耳鳴りと砂煙が支配する中、大公陛下が私を呼ぶ。

「まさか、また魔力と気功が混ざったとは言うまいな!その様な事、何度も起こるものか!」


「い、いえ、恐れながらその通りかと。ただし、今回の物は、エクベルトとローの魔力と気功が混ざった物では御座いません。御覧下さい、大公陛下」

「な、なにぃ!?」

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