第3話 激戦!

「ですが、大公陛下。此処までは、まだまだ前哨戦。本番はこれからに御座います」

「ほう、これからが本番とな?」

「ローはまだ、炎をまとってはおりません」

「おー、そうで在った。確か炎龍神掌えんりゅうしんしょうと申すものであったな」

「それに、エクベルトもまた、奥の手を見せてはおりません」

「ふふふ、エクベルトの奥の手とやらにも興味を引かれるな。だが、未だ申すなよ。先に知ってしまえば興醒きょうざめと言う物だからな」


闘技場の中で睨み合っていた二人が、再び動き出す。

ローが双竜の構えを解き、両足を肩幅に広げ中腰に、そして、両手を合わせる。

「あっ、あの構えは!」

「どうした、ベネディクト?」

「失礼つかまつりました。しかし、大公陛下、ご覧ください。ローが炎を」

「うむ、なんと!確かに、炎をまとっておる!」


ローはあの構えのまま気を燃焼させる事で、炎をまとう。

最初は、普段から赤い鱗が更に赤みを増し、熱で周囲の風景が歪んで見える。

まとう炎はしだいに大きく成り、そして火柱の如く。


刹那、爆音が轟き、ローの姿が消える。

いや、エクベルトの目の前。

そして、エクベルトの盾に、連打の嵐。

「ん、今何が起こった?」

「あれは、瞬炎歩しゅんえんほに御座います。纏った炎を足元に集め、圧縮解放することで爆発させ、その勢いを駆って瞬時に移動する技に御座います」

「うむ、しかし、自分の足元で爆発させれば、自身が怪我をするのではないか?」

「只の人で有れば、自殺行為ですが、あの者は竜人ドラゴニュート、強靭な鱗で全身を覆っていますゆえ、可能な業かと。もっとも、人であれば炎を纏った時点で、焼け死ぬ事でしょう」

「成るほど、竜人ドラゴニュートだからこそとな」


エクベルトに間合いを詰めたローの連打が続く。

だが、それでは……。


パンッ!

と空気が弾ける様な音。

そして、ローの体が弾き飛ばされ、宙を舞う。

エクベルトのカウンターだ。

当然そうなる。


だが、再び瞬炎歩しゅんえんほで接近し、連打を繰り出す。

また、壁に押し付ける作戦か?

いや、それが不可能なのは、ローも承知の筈。

何かを仕掛ける積りか?


「うん?今、気付いたのだが、ローの連打はどれも掌打しょうだで在るな。こぶしは使わんのか?」

「それには、二つ理由が御座います。一つは、単純に拳を痛めてしまうから。そして、もう一つは、当てた掌打しょうだを上下左右、どの方向に滑らせても、その鋭い鍵爪で敵を切り裂く事が出来るからかと」

「成るほどな、これもまた、竜人ドラゴニュートならではの闘い方と言う事か」


ローは何度弾き飛ばされても、瞬炎歩しゅんえんほで近付き連打、の繰り返し。

これで、何度目か……。


ん?あれは……そうかローの狙いはそう言う事か。

「大公陛下、御覧下さい。エクベルトの盾が変形してきております」

大公陛下は懐の遠眼鏡を取り出し、御確認される。

「うむ、確かに。では、ローのあの執拗な攻撃は、エクベルトの盾を破壊する為か」


どうするエクベルト?


そして、エクベルトが動いた。

ローの瞬炎歩しゅんえんほにタイミングを合わせて戦斧を振り下ろす。

瞬炎歩しゅんえんほは爆風を利用した技、確かに素早い動きだが、直線的な動きに成る。

そこを、エクベルトが狙ったのだ。


エクベルトの戦斧がローを捉えたと思った、その刹那。

爆音。

ローの姿が消え、戦斧が空を切り、地面に突き刺さる。


瞬炎歩しゅんえんほ

空中で、瞬炎歩しゅんえんほを使って、自らの軌道を変えたのだ。

しかも、爆音は何度も繰り返される。

つまりは……。

「なんと!あの者は宙を舞っているではないか!」


ローは地に足を付ける事無く、瞬炎歩しゅんえんほを繰り返し、エクベルトの頭上を舞っている。

そして、その空中から炎をまとった蹴りを繰り出す。

スパン!

エクベルトのタワーシールドの右角が斜めに切断される。


「む、どうなった?」

炎龍脚えんりゅきゃくに御座います。足にまとった炎を薄く刃に変えて、蹴りと共に放ち、対象を焼き切る技に御座います」


度重なる炎をまとった連打で強度が落ちているとは言え、あの盾を切断出来ると言う事は、首や手足に当たれば、切断できると言う事。


「うむ、これは……勝負有ったやも知れんな」

「いいえ、大公陛下。敵が空中に居るあの間合いこそ、エクベルトの間合いに御座います」

「なんと!それは、どういう事か?」

「もう、そろそろ、エクベルトが仕掛けるかと」


再び炎龍脚えんりゅきゃくを放とうと、その間合いに捕らえる。

刹那。

「ファランクス!」

無数の槍が空中に一瞬だけだが出現する。

爆音!

突如目の前に現れた槍を避けようと、ローが不自然な格好のまま瞬炎歩しゅんえんほ使ったのだ。

ローは致命傷は免れたが、槍の一本はそのわき腹を捉え、不自然な体制での瞬炎歩しゅんえんほによって地面に強く打ち付けられる。


ファランクスは本来、飛んでくる弓矢をその槍で叩き落す、防御の魔法。

だが、飛来してくる敵には攻撃にも流用可能だ。

ただし、この魔法は間合いが難しい、自身の目線の斜め上二メートル。

この間合いに敵や弓矢を捉えねばならない、しかも、槍が実体化するのはほんの一瞬。


「ほう、ファランクスとはさすがだな。ベネディクト、けいが申しておったエクベルトの奥の手とはこのことか?」

「その一つに御座います」

大公陛下は、興奮されたのか身を乗り出してご覧に成られる。


度重なる瞬炎歩しゅんえんほの連続使用だけでも、相当体力を使った筈、そこに、ファランクスの一撃、さらには瞬炎歩しゅんえんほの自爆。

さすがのローも満身創痍。


この好機を見逃すエクベルトではない。

「ヘイスト!」

ふらふらと起き上がろうとするローの元へ間合いを詰める。


「ウォール!」「ウォール!」「ウォール!」

逃げ場を塞ぐように、ローの左右と後方に壁が立ちはだかる。


「バースト!」

戦斧に魔力が込められる。

バーストは、武器の威力を一瞬強化する魔法。

エクベルト程のものがバーストを込めた、この刃に触れた者は、例外なく粉砕される。


そして、エクベルトの戦斧がローに振り下ろされる。

刹那、耳をつんざく爆音!

土煙が闘技場を覆う。

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