第2話 いざ、始め!
大公陛下により、戦いの火ぶたは切られた。
だが、両者は十分な間合いを取ったまま睨み合う。
「プロテクション」
エクベルトが魔法で、防御力を高める。
「ファイヤー・レジスト」
そして、さらに炎耐性の魔法を唱える。
ローは特段、エクベルトの邪魔をするわけでは無い。
敢えて、エクベルトの準備が終わるのを待っているのだ。
それは、武人としての矜持で有り、エクベルトに対する敬意でもあるのだろう。
エクベルトがその気なら、この手の魔法は入場前に自身に掛ける事も出来たのだから。
エクベルトの準備が整ったのを見て、ローはおもむろに左足を前にし、半身に構える。
そして、掌を開いて爪を立てる様にし、左手は目線より少し高い位置、右手は、あごの辺りに構える。
「うん?今、エクベルトがファイヤー・レジストを唱えておったが?」
「はい、エグベルトが二つ名を持つ様に、ローもまた二つ名を」
「して、その二つ名とは?」
「灼熱の炎龍と」
「ほう、それはまた、熱そうな二つ名であるな。で、在るならば、あの者は炎でも操ると?」
「御推察通りに御座います。ローは炎をその体に
「
「気功術の一つに御座います。体内に巡る気を燃焼して炎に変え、その身に
「余も、気功術の事は熟知しておる。生命の源たる気を術に変える技。使えば使うほど、体力をすり減らす事に成る。対して、エクベルトは魔法を使っておる。魔法は魔力、すなわちマギを消費して魔術を発動させる。マギは生まれ持っての才能ゆえ、扱えるものは少ないが、気とは違いマギはいくら使ったとて、疲れることは無い。もっとも、使い果たせば、立ち眩みぐらいはするかも知れんがな。と、成ると、消耗戦に成ればエグベルトが有利と言う分けか」
「如何にもにあらせられます」
「して、ローのあの構えは、その
「いいえ、あの構えは、かの者が使う
「うむ、成るほどな」
止まった時が動き出したかの様に、ローが歩き出す。
エクベルトの左に回り込む様に、しかし十分な間合いを取って、ゆっくりと。
エクベルトもまた、それに合わせて、ローを正面に捕らえる様にその場で回る。
「ローの歩みに、若干の強弱が付き出しました。そろそろ、仕掛けるかと」
「うむ」と大公陛下は身を乗り出す。
刹那、ローが飛び出し瞬時に間合いを詰め、エクベルトの盾のさらに左に回り込み、左わき腹に掌打を叩き込む。
恐らく、エクベルトからは、一瞬盾の死角に入ったローが、瞬間移動したかの様に見えただろう。
だが、エクベルトにダメージは見えない。
先ほど掛けたプロテクションが効いている以上、あの強固な鎧を貫いて、掌打の衝撃が内部に伝わったとは思えない。
エクベルトはすぐさま体制を立て直し、ローの続く攻撃を盾で受け止める。
だが、それでも、ローの連打は止まらない。
ダメージは通ってはいないが、その連打の圧力で、ジリジリとエクベルトの巨躯が後ろに下がっていく。
それにしても、ローの狙いはいったい……。
ダメージの通らない打撃を永遠と続けたとしても、自身の体力を奪うばかり。
だが、何か考えが有る筈。
ん?ローの連打に時折、大ぶりの強打が混じりだす。
その強打が盾に直撃する度に、エクベルトが吹き飛ばされる様に後退する。
中央で、始まった筈の闘いが、徐々に壁際へと戦場を移していく。
そういうことか……。
「成るほどな。闘技場の壁に貼り付けにして、打撃を浴びせかける気だな」
ローの狙いは大公陛下の仰る通り。
壁を背にして、強打の連打を浴びれば、さすがに、その逃げ場を失った衝撃は内部へ伝わる筈。
だが、そう上手く行くかな。
パンッ!
と空気が弾ける様な音と共に、ローの体が闘技場の中央まで飛ばされる。
「まさか、カウンターだと!!」
大公陛下は驚愕の声を上げる。
大公陛下の仰るカウンターとは、武術のワザとしての物の事ではない。
カウンター魔法の事だ。
敵が仕掛ける攻撃に合わせて、カウンター魔法を発動する事で、その攻撃に数倍する衝撃を返す魔法。
ただし、この魔法は、カウンター魔法を仕掛けると敵に悟らせる訳にもいかない為、無詠唱で発動せねばならず、またタイミング自体かなりシビアなものだ。
実力差の有る者同士ならいざ知らず、ロー程の武術者を相手にしてのけるのは至難の業。
大公陛下が驚愕されるのも無理は無い。
すかさず、今度はエクベルトが攻勢に出る。
「ヘイスト!」
一瞬だけ、自身の瞬発力を高める魔法。
その、詠唱と同時に、エクベルトが態勢を崩したローに突進する。
そして、その巨大な盾でローの体を跳ね上げる。
再び弾き飛ばされたローに向かって、さらに「ヘイスト」で間合いを詰め、今度は右手に持った巨大な戦斧を振り下ろす。
だが、ローも素早く態勢を立て直し、バックステップで
「ウォール!」
ローの背後の土が、瞬時に盛り上がる様に壁を形成し、ローの退路を断つ。
そして、エクベルトの戦斧がローに迫る。
ローは、飛び上がり、壁を蹴ってさらにジャンプ。
体を空中で捻って振り下ろさせる戦斧を紙一重で
標的を失った戦斧は、そのまま壁を打ち砕く。
エクベルトの背後に回ったローが、そのスキを見逃す筈も無く、エクベルトの無防備な頭部に回し蹴り。
「ウォール!」
今度は、エクベルトの背後に壁が現れ、ローの蹴りを阻み砕け散る。
両者は一旦間合いを開け、再び睨み合う。
「ほう、エクベルトが魔道戦術の達人だとは聞いておったが、此処までの物とはな」
魔道戦術とは、武術に戦術として魔法を組み入れる事で、論理的に敵を追い詰めていくと言う、技術であり武術でもある。
その考え方自体は、比較的一般的なものだが、エクベルト程に使いこなせる者はそうは居ない。
「だが、この膠着した状態、あの者達はこの後どう戦うつもりだ……ふふふ。見ものであるな」
「如何にもに御座います」
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