◆ 2022年2月
〔くた字 2月〕コビトさんの夢
みらーい、みらい。あるところにとても小さな〈コビトさん〉が住んでいます。田舎での暮らしは悪くないけれど、そこはそれ。刺激のほしくなるお年頃なので退屈な日々を過ごしています。
ある日のこと。いつものように夜空を眺めていたコビトさんは思い立ちます。
「そうだ、月へ行こう!」
目標ができたそれからの日々は、やっとかかった青春エフェクトで何もかもが輝いて見えます。
どうしたら月まで行けるだろう? とガラクタ山を散策すれば、扇風機を見つけて閃きの神が降り立ちます。
「この羽根を使えば、きっと飛べるに違いない」
さっそく解体してトンカン工作します。
月に行きたい、えんやこらトンテン。
空飛んで行きたい、トンカラカン。
そうして完成する一号機〈ハネコプター〉をかぶり、コビトさんは空へ――飛べるのは一瞬だけ。急転直下、しりもちドタリ。羽根は確かに頭上で回るものの、自分自身も一緒に回ってしまうのではそれも当然です。
逆回転する羽根がもう一つあれば飛べるのですが、田舎者のコビトさんはそのことを知りませんし、気付いたとしても羽根は一つしかありません。
これじゃあ空を自由に飛べないなぁ。とガラクタ山を散策すれば、自転車を見つけて閃きの神が降り立ちます。
「これと羽根を組み合わせれば、きっと飛べるに違いない」
そうしてまたトンカン工作します。
月に行きたい、えんやこらトンテン。
空飛んで行きたい、トンカラカン。
そうして完成する二号機〈トンボンチャリ〉にまたがり、コビトさんは空へ――浮き上がることなくガラクタ山をスイスイ二周して終わります。推進力を浮力に変える
右翼・左翼があって、進路を操る
カゴに何か乗せていれば飛べたかも。とガラクタ山を散策すれば、何かを掲げたスタチューを見つけて閃きの神が降り立ちます。
「ここにあるもの全部を使えば、きっと届くに違いない」
そうしてまたトンカン工作します。
月に行きたい、えんやこらトンテン。
空のぼって行きたい、トンカラカン。
そうして完成する三号機〈バベレーター〉に乗り込みスイッチを押すと、コビトさんは空へ――飛ぶがごとき勢いでグングン昇っていきます。予想外の出来事に少しだけ驚いて、あとはワクワクしながら近付く月を眺めます。
ポーン、という音とともに弾き出されるそこは、目指した月の上です。たどり着いてみれば、月は凪いだ海のように静かで、どれだけ見回しても何もない寂しげな場所です。
『ナンジ、ニンジンをアイしますか?』
『はい。アイさずにはイられません』
ふいに聞こえる声に振り向くと、そこには伝承の生き物〈赤目の白いフワフワ〉が。そしてカイブツたちのゲッシにかかり、コビトさんは食べられてしまうのです。
「――となる夢を見たから、行くのやめたら?」
「お前のへっぽこ予知夢なんて誰が信じるんだよ。あと少しなんだからジャマするな。あと、コビト呼ばわりもやめろ」
「いいじゃないか
お前だって小さい大根のくせに。そう言って笑った彼はその日、月に行ったきり帰らなかった。私が見た夢のとおり、きっとカイブツに食べられてしまったのだ。
人参ではない私がついて行ったなら、帰還することもあっただろうか。彼の夢に私を見たことは一度もないから、願いでしかない想いを
だから毎日、私は月に祈る。コビトさんの
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コビトさんの夢
〔2022.03.21 作〕
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「人参・扇風機・月」で三題噺。2月11日のTwitterスペースにて『くたびれた字幕』と命名した企画の〝真の初回作〟です。個人的に気に入ったので、年始の「芯が星になった日」も含めたら初回作じゃなくなってしまいましたが…。
★ お題の提供者
人参:来海周 さん
扇風機:さくらとうこ さん
月:露崎里奈 さん
――ありがとうございました!
〔短編集〕インプロ!~遅筆家が即興創作はじめました あずま八重 @toumori80
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