最終話 虚空に満ちる怨念

 ケルベロスは巨体でありながらも、ユメクイ達の攻撃を巧みに回避して反撃を行う。火力の高い火炎弾を振り撒き、その三つ首で噛み砕こうと突進をかける。


「しかし、これだけ近寄れれば!」


 明里の大剣がケルベロスの前足を裂いた。斬り飛ばすほどのダメージにはならなかったが、それでも機動力を減衰させるには充分な一撃だ。


「今です!皆で一気に!」


 敵の動きが鈍ったのを見逃さない美月が集中攻撃の指示を出し、広奈達が霊器を構えてケルベロスへと突っ込む。


「五人に勝てるわけないだろ!」


 ケルベロスの負傷した前足に追撃をかける乃愛。横薙ぎに振られた斧が直撃し、足は完全に切断された。

 更になだれ込むように広奈、月飛の強烈な攻撃が炸裂。ケルベロスは完全に姿勢を崩して倒れ込んだ。


「トドメを!」


 跳躍した明里が力任せに大剣を振り下ろし、頭部を一つ破壊する。


「成敗っ!」


 もう一つの頭部も美月によって真っ二つに両断される。


「美月!」


「はい!」


 着地した二人はもう一度、今度は同時に跳躍して最後の頭部に霊器を突き刺した。

 咆哮を上げる暇すらなく三つ首は消滅し、それに伴って体も霧散していく。


「早くケリがついてよかったぜ」


「私達の連携プレーと成長の賜物ですね」


「そうだな。そんじゃあ敵のアジト突入といきますか。クイーンのヤツもさっさと倒しちまおうぜ」


 ケルベロスが守護していた唯一の彩なる木と呼称されるナゾの木、そこにクイーンの本拠地となる結界が存在している。街を覆うほどの巨大結界の中に更に結界があるというこれまでにない状況であるが、元々ユメクイやナイトメアレヴナントそのものが超常現象の塊であり、今さら特に驚くこともなく明里達は侵入していく。






「これがクイーンのアジト・・・・・・」


 唯一の彩なる木の内部、そこにはいつもの結界のように廃村が広がっている。薄暗い空には太陽も月もなく、ただ暗黒だ。


「イズル、クイーンはどこにいるんだ?」


「奥にあるボロい城が見えますか?」


「あのデカい城か?」


 戦国時代に建築されたような巨大な城が遠くにそびえ建っていた。これまでの結界では見たことない建築物で、外壁が崩れてボロボロに見えるがどっしりと構えて威圧感を感じさせる。


「あんなもんアタシの大技でフッ飛ばしてしまおうか」


「そんな簡単には破壊できませんよ。それにクイーンと異世界への扉を開くために用意した魔結晶などの破壊を確実に確認しないと安心できないでしょう?」


「確かに。てか、すっかりアタシ達の味方みたいになってるなイズルな」


「別に味方をしているのではありません。私はただクイーンの破滅を見たいだけです。あのゴミカスパワハラモラル欠如上司めが・・・・・・」


「ソルシエールにもパワハラとかモラルの概念があるのか。世知辛いな・・・・・・で、その後はどうするの?」


「さて・・・考えていません」


 囚われの身になった今、イズルは未来を考えることを放棄していた。これまでの努力は全て無に帰し、上司に裏切られた彼女の心の傷はとても大きく、言葉通りにクイーンの破滅だけが最後に残った願望なのだ。だからこそ憎かった敵にも協力するし、なんならイズルの敗退の直接原因はユメクイなのだが、そのユメクイへの怒りは不思議と収まっていた。


「私のことはいいですから、早くヤツを」


「はいよ。頼まれなくたって倒してやる」


 周囲にワラワラと出現したナイトメアレヴナントを薙ぎ払いながら城目掛けて突き進むユメクイ達。月飛の加勢もあって、もはや通常のイービルゴーストやモルトスクレットタイプなど敵ではない。




「城はもう近いな!」


 遠いと感じた城ももう少しという距離まで近づき、まるで見下すかのように明里達に影を落とす。


「中に入っちまえばコッチのもんさね!」


 一番乗りで侵入したのは乃愛だ。斧で門を破壊し、残骸が飛び散るのに乗じて転がり込む。


「討ち入りじゃあ!ってうわっ!?」


 直後、待ち受けていたナイトメアレヴナントの集中攻撃で弾き飛ばされ、今度は外に転がり出てくる。


「何やってるんですか。足並みを揃えてくださいよまったく」


「す、すまねぇ広奈・・・少しはしゃいでしまった」


「私がタナカさんを構えて前に出ますから、皆さんは私の後ろに」


 タナカさんを前方に構え、その背後にユメクイ達が並び、再び城内部への侵入を試みる。

 モルトスクレットが槍を投擲してくるが、タナカさんの厚い装甲がそれらを全て弾いていく。


「各員、散開!」


 城の敷居を超え、タナカさんの背後から一斉にユメクイ達が飛び出し、手近な敵から叩き潰す。乱戦に持ち込めれば連携力の高いユメクイの方が有利となり、指揮官のいないナイトメアレヴナントは烏合の衆と変わりない。


「最上階にクイーンはいるはずです」


「おうさ。おあつらえ向きに階段があるんだから駆け上ってやる」


 ソルシエールもわざわざ階段を昇ってクイーンに会いに行っていたのかと思うと何故か親近感も湧く。人間社会でも偉い者気取りしているヤツというのは上階で傲慢にふんぞり返っているもので、部下がそこまで労して昇ってくるのを愉快そうに眺めているものだ。高い場所にいるから自分が偉いと錯覚しているのかは知らないが、そういうヤツらは地に足を付けて己を省みるべきだろう。

 そんなどうでもいい事を考えつつ、着々とクイーンのいる天守閣へと歩を進めていく。


「ン・・・?敵の数が少なくなったな・・・・・・」


 階を昇るにつれてナイトメアレヴナントの配置数が目に見えて減り、抵抗が小さくなってきた。これはこれで進みやすいが、先ほどまでの猛攻から一転していて気味が悪く感じる。


「単に敵の戦力がもう無いってんならそれでいいけど・・・・・・」


 と言っているそばから敵に動きがあった。間もなく天守閣というところまで迫った明里達の前に新手が現れる。


「デカいイービルゴースト!融合タイプか!」


 以前戦った複数体が融合して大型化したイービルゴーストが三体も現れたのだ。一体相手でもかなり苦戦したのだが、それが同時に三体となればさすがに厳しい。

 しかも異変はそれだけではない。


「揺れて・・・?」


 城全体が激震に見舞われ、明里は姿勢を崩す。


「明里さん!空に!」


「なんだ?」


 美月の指さす先、窓から見える空に朱色の閃光が迸った。どうやら城の真上から放たれているらしく、四方に拡散して結界全体を照らす。


「異世界への扉が開き始めたようですね」


「間に合わなかったのか!?」


「まだ間に合います。しかし目の前のイービルゴーストをどうにかしないと」


「チッ・・・!どうする・・・?」


 時間をかけてしまってはクイーンの目論見が成功してしまう。異界の魔素を取り込んだクイーンがどれほど強化されるかは知らないが、勝てる相手ではなくなってしまうかもしれない。


「ここは私に任せ、お前達は上へ行け!」


「月飛お姉様!?ですがいくらお姉様でも・・・」


「案ずるな。この程度凌いでみせる。だから行けっ!」


 相当の覚悟で月飛はそう叫んだのだろう。でなければ融合タイプ三体と一人で対峙しようなど思わないし、美月や明里達ならクイーンをも倒してくれるという信頼を寄せているのだ。


「・・・分かりました。行きましょう、皆さん」


 ここは月飛に任せることにし、美月達は敵を避けながら次の階を目指す。


「追わせるものか!」


 クイーンの守護のために出撃してきた融合タイプは美月を足止めしようと触手を伸ばすが、月飛が割って入って触手を切断する。


「お前達の相手は私だ」


 取り囲む敵に物怖じせず霊器を向け、繰り出される触手をすり抜けて斬撃を与えていく。美月達に全てを託し、ただひたすらに戦う。






「ここが・・・・・・」


 最上階まで昇りつめたが、その異様な景色に明里はゾッとした。

 天井は半分以上が吹き飛んでいて空が見えるのだが、上空には異世界へのゲートとなる巨大な真紅の魔法陣が揺らめいていたのだ。


「よく辿り着いた。しかしもう遅いな。間もなく扉は開かれ、異世界のエネルギーである魔素は我のものとなる」


「させるかよ!ここでアンタは倒す!!」


 大剣の刃先を向けてクイーンに叫ぶ明里。もう、ここまで来たら命を懸けてでも立ち向かうのみだ。


「あの奥にある魔結晶を破壊してください!アレさえなければ異世界への扉を開くことはできません」


「イズル貴様!寝返ったか!」


「寝返りもする!というより、先に私を見捨てはのは貴様でしょうに!」


「貴様達は我の駒なのだ。使えなくなれば替えを用意すればいいし、そんな駒の一つに過ぎない貴様の反抗は許さん!」


 典型的な反社会的企業の言い分である。


「そう言っていられるのも今のうちだ!」


 明里は魔結晶目掛けて吶喊。しかし上空からクイーンが急降下してのしかかろうとする。霊体に近いイービルゴーストに質量があるかは不明だが、直撃するわけにはいかず横に逸れて回避し、大剣を振るった。


「甘いな!」


 右腕を剣へと変化させ、明里の大剣を受け止めた挙句に弾く。エネルギーを多量に得たためかパワーが上がっているのだ。


「力ある者こそ正義!敗者はただ散るのみだ!」


「そーゆーのは中学生で卒業しなさいよ!」


「なんだそれは!」


 互いの霊器がぶつかり、火花が両者の腕を焼く。

 その隙に美月達が魔結晶へと向かうが、


「させるものか!」


 左手に握ったプロイビートロッドで魔結晶を囲う防壁を展開する。これでは簡単に破壊することはできなくなった。


「そりゃあ対策はしてくるよな・・・・・・」


「クイーンを倒すか、アナタの大技で破壊できるやもしれません」


「なる。ケド、どうするか・・・・・・」


 大技にはチャージ時間が必要で無防備となる。そこを狙われては対処のしようもない。

 ならクイーンを倒せばいいのだが、恐ろしいまでの乱舞攻撃でユメクイ四人を圧倒している。


「あの金ぴかの杖を破壊するのも手か・・・」


「させん!我の夢は誰にも邪魔はな!」


「こっちにはそんな夢迷惑以外のなにもんでもないんだよ!」


「知ったことか!」


 こうして戦っている間にも異世界へ続く魔法陣は色味を増していき、時間は刻一刻と迫っている。


「埒が明かないな・・・・・・」


「ふはははは!!手も足もでまい!!」


 クイーンは今絶頂期にいると言ってもよい。鬱屈とした隠居生活から解放されて思う存分に暴れまわることができているのだから。


「時は満ちる・・・さあ異界への扉が開かれるぞ」


 乃愛を触手で振り払い、クイーンはプロイビートロッドを魔法陣に向けて掲げる。


「なんかヤバそう・・・!!」


 魔法陣の中心部で光が収束し始めた。それがユメクイにとってなにか良からぬことが起きる前触れなのであろうことは分かる。


「クイーンは魔素を得ようとしているのです!アイツが更にパワーアップしてしまいますよ!」


 魔法陣は魔素を収斂させているらしい。これを取り込んで自身を強化するというのがクイーンの計画なのだ。


「そいつぁ阻止しないとな!広奈!」


 近くに居た広奈に声をかけ、クイーンへと共に突っ込む。当然ながらクイーンは迎撃を行うが、広奈のタナカさんで弾き、その隙にプロイビートロッド目掛けて明里が跳躍した。


「くっ・・・!貴様!!」


「へへっ、邪魔してやったぜ・・・って、うわっ!?」


 明里の体が杖と魔法陣の間に挟まる位置となり、魔法陣から放たれた魔素が明里の体に直撃してしまった。

 

「あ、明里さん!?」


 魔素の塊が明里の体へと吸収され、眩く発光している。


「明里さん!大丈夫なのですか!?」


「うおおお!!なんか漲ってきたぜ!!」


 光が収まり、そこにいたのは確かに明里なのだが少し様子が違っていた。身長が少し伸び、顔つきも更に凛々しくなっている。まるで成人バージョンとも言うべき状態なのだ。


「バカなっ!?魔素を奪ったというのか!?」


「そうみたいだぜ。めっちゃ力が湧いてくるんだわ」


「それは我のものなのだぞ!!」


「返してくれって言っても無理だぜ。これでお前とも対等にやれそうだ!」


 オーラを纏う大剣は禍禍しく、まさに魔の者をも屠れそうなデザインとなった。その大剣をブン回し、オーラだけでクイーンの触手を振り払う。


「明里さん、ステキ・・・・・・」

 

 戦場だというのに、麗しく佇む明里に見惚れる美月。完全に動きが止まっているが、クイーンは明里に意識を集中させていて放置されている。


「今度はこっちの番だ!」


 明里が目にもとまらぬスピードで斬りかかった。それをかろうじて防御したクイーンだが、押し負けてよろけてしまう。


「ユメクイ如きが、我と張り合うなど・・・!」


 非力なユメクイがこれほどまでに能力アップしたことでクイーンは怖気づいていた。これまではパワーで圧倒できていたのに、一転して逆況に追い込まれている。

 しかもクイーンにとって不利なのは人数差だ。もはやクイーンにアドバンテージは無く、このままでは狩られて御終いだろう。


「これまでだな!」


 明里によってクイーンの右腕が斬り落とされた。そこに美月達の攻撃も加わり、クイーンの巨体が大きく傾ぐ。


「いい気になるなよ・・・・・・」


 クイーンは一旦上昇して距離を取り、プロイビートロッドでエネルギータンクとなっていた魔結晶を引き寄せる。


「まだ終わってはいない!貴様達全員、一人残らず我が直々に殺してやる!」


 魔結晶を胸へと押し込んで体内に取り込み、そのエネルギーを使って傷口を修復する。


「また厄介なことを!」


「しかしヤツは魔結晶から全てのエネルギーを吸ったわけではありません。そうしたら異世界への扉を維持できなくなりますから」


「つまり・・・・・・」


「今のアナタなら押し勝てます」


 怒りで一杯になりながらもそういう冷静さはあるようだ。


「仕留める!!」


 クイーンが急降下し、広奈を押し倒す。


「お前の命、貰った!」


「広奈を死なせるものかよ!」


 触手が振り下ろされる直前、乃愛が割って入ってクイーンと鍔迫り合いを演じ、美月もまた背後から斬りかかる。


「ええい!ゴミムシどもがまとわり付くな!!」


 ヤケになったように触手を振り回して応戦し、広奈へのトドメは諦めて距離をとった。これで一時的に凌いだが、しかし手遅れであることにクイーンは気がついていなかった。

 クイーンから少し離れた場所で全エネルギーを大剣に流し込み、大技の準備をしているのは明里だ。美月達が敵を引きつけてくれたおかげで後は技を打つだけとなっている。


「よし・・・いくぜ」


 大剣を頭上に構え、それを見た美月達はクイーンと明里との射線上から退避。その時になってようやくクイーンはハッと我に返って自身のピンチに気がつく。


「貴様はっ!!」


 触手を伸ばして明里を止めようとするがもう遅い。


「仕留める・・・夢幻斬りっ!!!!」


 振り下ろされた大剣から閃光が迸り、迫る触手を消し去る。そして光の奔流はクイーンをも包み込まんと広がっていく。


「バカなっ・・・!我は、ナイトメアレヴナントのっ・・・!?」


 プロイビートロッドで障壁を展開して攻撃を必死に防御するクイーンだが、異世界の魔素を取り込んだ明里の一撃を完全に防ぐことなどできない。体の各部が剥離し、消えていく。

 そうして大火力の夢幻斬りを受けたクイーンはバラバラとなってほぼ無力化され、吸収した魔結晶も粉々に砕けた。


「勝ったか・・・!?」


 明里はもはや戦闘力のないクイーンに最後の攻撃を行おうとするが、先ほどの夢幻斬りによって足場の崩落が始まり明里達も巻き込まれてしまう。

 更には魔結晶を破壊したことで異世界へと続く魔法陣が歪み始めて、まるでブラックホールのように周囲の物を吸い込みはじめた。


「なんて吸引力・・・!」


 美月は崩れた床から下の階層へと落ち、手近な柵に掴まって上の様子を見上げる。すると、明里が崩落した床のへりに掴まっているのが見えた。しかも太もも付近にクイーンがしがみ付いており、今にも両者共に魔法陣へと吸い込まれそうになっていた。


「我を負かすとは大したものだ・・・だが、しかし我だけが消えるものか!貴様も道連れにしてやる!」


「しつこいんだよお前!」


 なんとかクイーンを蹴ろうとするも、両足に絡みつかれてうまく動かすことができない。すでに保有エネルギーも少なく、異世界の魔素も失っていて容姿は元に戻っている。


「幸崎、あたしと乃愛を踏み台にして稲田のところへ!」


「お願いします!」


 近くにいた広奈と乃愛の肩に乗り、そこから明里の近くへとジャンプを行う。下手すれば魔法陣にそのまま吸われそうであるが、明里を救いたい一心の美月に恐怖などなく、しかも的確に狙った場所へとしがみ付くことができた。


「明里さんを離しなさい!」


 張り付いた場所から明里の腕をつたってクイーンへと近づき、刀を突き刺した。


「ぐあっ!貴様ぁあ!」


 それでも執念で明里の足を離さない。

 

「おのれ・・・おのれえええ!!」


 怨念をまき散らすような叫びはまるで悪霊そのもの。醜く歪んだ顔に浮かぶのは、ただ恨みだけだ。

 が、クイーンの命運は尽きていた。美月の一撃で力が緩み、明里に反撃の隙を与えてしまったのだ。


「逝っちゃえよ!!」


 自由になった右脚でクイーンの顔面を思い切り蹴り上げた。その衝撃で太ももから手が離れ、クイーンとプロイビートロッドは魔法陣へと呑み込まれていく。

 断末魔に似た悲鳴と共にクイーンが消えた直後、魔法陣はバッと稲妻のような光を放って霧散。これでようやく辺りは静かになり、危険は去った。


「結界が・・・・・・」


 それに伴って結界も崩れ始め、ユメクイ達は互いの無事に安堵しながら元の世界へと帰還する。


「月飛お姉様も無事だったのですね!」


「ああ。可愛い妹を残して死ぬわけにはいかないからな。それより、お前達も敵に打ち勝てたのだな」


 結界内のナイトメアレヴナントが全滅したからこそ結界が解けたわけで、つまり月飛は融合タイプのイービルゴーストを単独で撃破したことになる。以前戦った時は苦戦していたのに、凄まじい成長であるといえよう。

 ちなみにイズルはまだ生きているのだが、キューブ内部にいることで外界と遮断された状態にあり、結界を維持するパワーを流せないので結界は崩壊したのだ。


「なあイズル、クイーンはどうなったんだ?」


「さあ?歪んだ魔法陣が正常に機能していたとは思えませんし、ヘンな異世界か、どこかの虚数空間にでもつまみ出されたんじゃないですか?とにかくもうヤツはこの世界にはいません。めでたしめでたしですね」


「そうか・・・終わったんだな」


 ここ最近、この街を恐怖に陥れていたクイーン・イービルゴーストは跡形も無く消滅した。増加傾向にあった敵の数も減り、少しは平和になることだろう。

 街を覆っていた霧も晴れ、日常が戻って来た。






 決戦から数日後、明里と美月はいつも通りに夜の街をパトロールしていた。いくらクイーンを倒したと言っても全てのナイトメアレヴナントを消したわけではなく、敵は散発的に現れては人々を襲うのだ。それを退治するのがユメクイの仕事であり、彼女達の戦いは終わることはない。


「美月、今日も宜しくお願いするぜ」


「ふふ、こちらこそ」


 いつの間にか日課となっているこの仕事を明里は苦痛だとは感じない。一人だったら確かにキツイかもしれないが、美月が一緒なら悪くないと思えた。


「って、早速結界の気配がするな。イズル、サポートを頼むぞ」


「私は別にアナタ達の味方ではないと言ったはずです。それに、こんなキューブの中にいては何も・・・・・・」


「ナイトメアレヴナントの情報を教えてくれればいいのさ。それじゃあ後でまた呼ぶから」


「あっ、ちょ・・・!」


 キューブを仕舞いこみ、気配のする方角へと向き直る。


「さあ美月行こうか。アタシから離れるなよ?」


「はい。どこまでもあなたについて行きます、明里さん」


 悪夢祓いの使命を帯びた少女達は、月明かりに照らされながら飛び立ち戦場に舞う。


 暁の光が闇夜を消し去る、その時まで。



           -完-


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ユメクイ ~悪夢祓いの少女達は月明かりと舞う~ ヤマタ @YAYM8685

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ