グライド・レーンと謎の集落



「……改めて、ご挨拶を。私の名前はグライド・レーン。出身国はアメリカ。元は医者をしていて、日本には仕事でやって来た。何年か前に勤務していた病院ごとこの大和国に呼び寄せられ、色々あった後に今の生活に行き着いたといったところですかね」


 通された質素な家の中で、グライドから自己紹介を受けた蒼天武士団の面々が彼をじっと見つめる。

 自分たちとは大きく違うその姿に唖然とする栞桜たちであったが、異国の人間というものに慣れている燈は団を代表してグライドとの会話を始めた。


「一応、俺たちのことも話しておく。俺の名前は虎藤燈。あんたと同じ異世界人で、通ってた学校ごと異世界に召喚された。あんたと同じで色々なことがあって、学校から離れて仲間たちと結成した武士団の一員として活動している」


「この集落を訪れた理由は、学校から逃げ出したお友達を探しに来た……ということですね?」


「ああ、そうだ。あんたも知っての通り、俺たち異世界人はこの世界の人間よりも遥かに優れた戦闘の素質がある。五体満足な上に武神刀まで持って幕府の監視下から逃げ出したあいつらを放置は出来ねえ。俺たちは友人から依頼を受け、あいつらの行方を捜してここに来た。あいつらがここに来るまでに罪を犯したっていうんだったら……それなりの対処をしなくちゃならねえ」


「そう慌てないで、大丈夫ですよ。彼らは皆、あなたが思うような大それた真似はしていませんから」


 柔和に、落ち着いて、燈の言葉を受け流しつつ彼を宥めるグライド。

 先も同じように脱走者たちの肩を持ち、彼らが人を傷つけてはいないと言い切る彼へ、燈が視線でその根拠はどこにあるのかと尋ねる。

 そんな燈からの問いかけに対して、ふっと柔らかな笑みを浮かべたグライドはこう答えた。


「私は元は医者でした。何千、何万という患者を見続けてきた私には、人を見る目があると自負しています。……とまあ、そんな格好の良いことを言ってもなんの根拠にもならないということはわかっていますのでね、医者としての診断をお伝えさせていただきましょう」


「診断? 医者としての?」


「ええ。ここに辿り着いた時、彼らは空腹で非常に衰弱していました。そして、体に争ったような痕跡もなかった。つまり彼らは村を襲って食料を奪ったりしたことはなく、ただ必死にここまで逃げて来たということになるでしょう」


「信じられねえな。あんたがあいつらを庇って嘘を吐いている可能性だってある」


「まあ、そうでしょうね。ですが、逆にあなた方には彼らが何らかの罪を犯したという証拠があるのでしょうか? あなたたちは証拠も無しに彼らを捕縛し、強引に連れ帰るような人間ではないと……私はそう、思っています。違いますか?」


 グライドからの問いかけに無言で彼を見つめ返す燈。

 それを肯定だと判断した彼は、満足気に頷くと蒼天武士団の面々に向け、この集落を統治する者としての対処を告げる。


「無論、こんな口先三寸の言葉だけで信じてもらおうとは思っていません。蒼天武士団の皆様方には、この集落を好きに見ていただきたい。必要があれば、私が君たちの友人たちとの面談を取り持ちましょう。なんだったら数日ここに宿泊してみるといい。きっと、あなた方にも我々がどんな人間であるかがご理解いただけるはずだ」


「……自分たちには何もやましいことはないと? そう、仰りたいのですね?」


「勿論ですとも! 我々は、幕府に利用されることや浮世のしがらみに疲れ、ただただ平和に暮らしたいと願っているだけの集団です。いくら困っている人間とはいえ、犯罪者を匿うだなんてとんでもない! ただ平穏に、無事に、この世界で生きていきたいと願うからこそ、その辺のルールはしっかりと弁えています」


 蒼からの質問に力強く頷いたグライドが、堂々と胸を張って言う。

 そうした後、腕を大きく広げたポーズを取った彼は、満面の笑みを浮かべながら訝し気に自分を見つめる若者たちへと歓迎の言葉を告げた。


「私たちはあなた方を一切拒みません。どうぞ、隅から隅まで、気が済むまでこの集落をお調べになってください。歓迎しますよ、蒼天武士団御一行様」


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