集落の入り口にて
翌日、朝早くに漁村を出発した蒼天武士団の面々は、村人から教えてもらった先生なる人物が長として治める集落へと向かった。
行き場を無くした者たちが集まる集落という話だが、別に治安が悪いということはなく、行こうと思えば誰でも辿り着ける場所にあるようだ。
数刻もあれば余裕で到着するだろうという村人の言葉を信じるならば、もうそろそろだろうと考えながら教えられた仲間たちと道をひた歩く燈。
どこか浮かない表情をしている栞桜のことを気に掛けつつも、やはり彼が気になっているのは学校から逃げ出した生徒たちのことだった。
この大和国の平均を遥かに超える気力を持つ彼らは、幕府から与えられた強力な武神刀を持ったまま学校から脱走した。
強大な力を誇る彼らがその力を悪しきことに振るっていないという保証はなく、もしかすると自分たちを追ってきた燈の姿を見て、抵抗しようと考えるかもしれない。
燈は彼らを殺すつもりはない。怪我をさせるつもりも、驚かせるつもりすらない。
やろうと思えば一瞬で彼らを制圧出来るだけの実力はあるだろうし、蒼たちの力を借りればなんの憂いもありはしない。
だが、しかし……顔馴染みの仲間と争うというのは、やはり避けたいことでもある。
圧倒的な実力差があるとはいえ、必死に抵抗するであろう相手からの殺気を浴びるというのは決していい気分ではない。
あちらが平和的な解決を求めてくれればいいのだが……と、燈が間近に迫った級友たちとの再会に緊張感を高める中、先頭を進んでいた蒼が仲間たちへと告げる。
「目的地が見えてきた。どうやら、あそこが先生や燈の友人たちがいるらしき集落みたいだ」
そう言いながら彼が指差した先を見てみれば、決して壮大とは言えないながらも複数の家屋が立ち並ぶ小さな里のような集落の光景が見て取れる。
まばらに見える人影が、畑仕事をしているような人たちの姿が、彼らが確かな生活基盤を有していることを示していた。
「見た感じ、あまり住民は多くなさそうね。はっきりとしたことはわからないけれど……」
「漁や狩りに出るって感じの雰囲気でもなさそうだし、やっぱり食料は農作物が中心なのかな?」
遠巻きに集落に住まう人々の様子を観察しながら、燈たちが口々に感想を言い合う。
彼らの生活を覗き見るようで趣味が悪いと思いながらもじっと観察を続けていた彼は、畑で働く人々の中に見知った顔を見つけてはっと息を飲んだ。
「学校の連中……!! やっぱりここに居やがったのか……!!」
まだ若く、子供といって差し支えない年齢の人間たちが、精力的に畑仕事に取り組んでいる姿を目にした燈が安堵と怒りを入り混じらせた呟きを漏らす。
彼らが追い剥ぎや野盗のような犯罪者になっていなくてよかったという安心と、学校から逃げ出して王毅たちに迷惑を掛けているのにも関わらず幸せそうに暮らしていることへの憤りを半々にした感情を抱いた彼を落ち着かせるように、蒼が声を掛けた。
「燈、よかったじゃないか。君が心配していたようなことはなかった。学校から逃げ出した君の友人たちは無事に生きていて、誰にも迷惑を掛けずに過ごしている。まずは、この事実を喜ぼう」
「……ああ、そうだな」
蒼の言う通り、自分の不安が現実のものとなっていなかったことを喜ぶべきだと判断した燈が、大きく頷くと共に自身の気持ちを整理する。
そうして、冷静さを取り戻した彼は、集落で畑仕事をしている級友たちの姿をじっと見つめながら、仲間たちへと言った。
「このまま遠巻きに見て、それで終わりにするつもりはないんだろ? 行こうぜ、あの集落へ。あいつらに話を聞くためにも、先生って野郎の面を拝むためにもな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます