第二回の召喚実験についての追記
――零元四十八年、冬の月
第一回の召喚実験からおよそ一年の月日を経て、第二回の召喚実験が行われる日が決定した。
陰陽師たちの気力回復も十分に完了し、鋭気が満ち満ちる中、研究部の人員も実験に際しての準備を進め、様々な成果を挙げていたようだ。
まず、情報収集で得た日本なる国の存在であるが、それらしき地域が見つかったとのことである。
どうやって特定を済ませたのかは不明だが、流石は我が大和国が誇る優秀な研究員といったところであろうか。
しかも研究の結果によれば、その地域に住まう人々の平均気力は他地域と比べても比較的高い方らしい。
やはり、我々と同じ文化や風土を持つ地域の人間は、気力の適応性が高いのだろうか?
……もしかしたら、研究部の連中は気力保有量の平均が高い国を適当に日本だとでっち上げている可能性も無きにしも非ずではあるが、そんな不躾な意見は口にしないようにしておこう。
とにかく、第二回の召喚実験で使用する大まかな目標地点は決まった。
あとは、詳しく場所を設定するだけだ。
出来る限り人が多く集まる場所を目標とし、多くの英雄候補を呼び出すことが出来れば、第一回で得た教訓を無駄にしなくて済む。
異世界人たちの話を聞く限り、日本という国は平和な土地であるようだから、前回のように戦場から人を呼び寄せてしまうだなんてことにはならないだろう。
ただ、現場の意見に反して、上層部が弱腰な意見を出して対立している部分もある。
今回はある程度、召喚する人数を減らすべきなのではないか? というのが上層部の意見だ。
前回の乱戦において有力な陰陽師や若い武士たちが命を落としてしまったことを顧みての提案なのだろうが、多大な労力を支払って得るものが僅かな戦力というのはあまりにも無駄が多過ぎる。
しかし、悲しいことに実権を握っているのは現場ではなく命令を出す上の人間たちであり、このままでは彼らの意見が第二回の召喚実験に反映されることとなるだろう。
前回は百名ほどの人間を召喚することを目標としていたが、今回の実験ではその半分程度の人数に抑えられてしまう可能性が高い状況だ。
確かにその数ならば万が一にも暴動が起きたとしても簡単に鎮圧出来るだろうが、それだけの人数で拡大する妖の被害を抑えきれるとは、私には到底思えない。
だが、前回の大量の人数を召喚しようとした結果、異世界人の生き残りが僅か数名しか得られず、しかもこちらの人員に被害が出てしまったという明確な失敗がある以上は、強く出られないのが現状である。
こういう時、下っ端は辛い。こうして人知れず手記に愚痴を書くことしか出来ないのだから。
お上の言うことを聞き、言われるがままに仕事をするしかないのが下々の者の運命だと割り切って、従うしかないだろう。
しかし、ここで私は予言しておく。まず間違いなく、異世界召喚の儀式は二回では終わらないはずだ。
少なくともあと一回は召喚を行い、戦力を補充する必要があると私は考えている。
先に述べたように、拡大する妖の被害を抑えるためには少なくとも百名の英雄の力が必要だ。
無論、その中には戦の中で死ぬ頭数も考えており、そういった犠牲も踏まえてそれだけの数の戦力が必要であると、私だけでなく多くの者たちが考え、結論として上層部に提出している。
確かに異世界人は我々を遥かに超える気力を有しているが、それでもせいぜい十倍から三十倍がいいところであり、彼らは武神刀を使った戦いに慣れていない者たちであるということも考えなければいけない。
どれだけ個の力が強くとも、結局のところ、戦いは数なのだ。
……まあ、仮に桁外れの気力を持つ異世界人の中でも更に桁外れの気力の持ち主がいたとしたら話は別だろうが……そんな人間がいるはずもないし、いたとしても偶然に異世界召喚に引っかかる可能性も低い。
奇跡など期待せず、優秀な英雄の登場を待つべきだ。
次に召喚する英雄の中にそんな優等生が紛れ込んでいることを祈って、私も準備を進めていこうと思う。
追記
以前に不安視していた第一回の実験の際に召喚した異世界人たちのことだが、七星刀匠の一人である幽仙さまが食客として迎えたいと申し出てくれたため、喜んでそちらへと送り出した。
幽仙さまの領地は遠く、異世界からの英雄召喚のために奔走する私が会いに行くことは難しそうだが、幽仙さまの話を聞く限りは楽しく暮らしているようだ。
この仕事が落ち着いたら、会いに行くのも悪くないかもしれない。
そのためにもまず、目の前の仕事を片付けるとしよう。
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