第二回召喚実験の指針(第一回の反省点や得られた情報について)

 ――零元四十七年、秋の月


 前回の召喚実験からおよそ三か月の月日が過ぎた。

 その間、我々は更なる準備と精査を重ね、第二回の実験に備えての準備をしてきたつもりだ。


 我々はまず、第一回の召喚で異世界から呼び出すことが出来た人間たちからの情報収集、異世界のことについて調べ上げるということに着手した。 

 前回は人数の多い場所を指定して召喚を行った結果、それが戦場という危険極まりない地帯だったが故の失敗だったのだから、その反省点は活かさねばならない。


 尊い犠牲を無駄にせぬためにも、召喚時に選択するより相応しい地域というものを詳しく調べるべきだ。


 異世界人との会話が可能になるよう、召喚時に彼らに翻訳機能を付与する術式を組み上げてあったから、話自体は問題なく進んだ。

 ただ、この三か月の間に負傷していた数名の異世界人が死亡したことや、仲間を殺した我々に対する憎しみからか黙秘を続ける者がいたことで、ほんの数名からしか話を聞くことが出来なかったことが残念である。


 彼らとの会話の結果、興味深いことが判った。

 どうやらあちらの世界には、大和国と似たような文化があるということが判明したのである。


 我々との会話に応じてくれた異世界人は皆、我々のことを「日本人のようだ」と口を揃えて言っていた。

 どうやら、日本人というのは言葉の通り、日本という国に住まう人間のことを指すらしい。

 そして、その日本人は我々と同じような文化を有しているというのだ。


 今回召喚した異世界人たちは顔立ちも背丈も我々と大きく違うが、日本人というのはどうも我々とよく似た風貌をしているらしい。

 腰に刀を差したり、侍や武士という身分があったり、漢字を用いた文章を書いたり……と、本当に我々と文化が似通っているのだ。


 これは大きな収穫だ。予想外の僥倖といって差し支えない。

 我々と似た文化を持つ国から人を呼び寄せることが出来れば、前回のような混乱を招くことはまずないだろう。加えて、既に刀の扱いを習熟している者も多数召喚出来るかもしれない。


 ただ、思った以上の収穫を得ることが出来た事情聴取であったが、不安点もあるといえばある。


 今回、話を聞いた数名の男たちが知る日本という国に関する情報は、彼らが以前に出会った「ものずきなせんじょうかめらまん」という長い名前の男から聞いた話であるようだ。

 その人物が話す情報に間違いがあるかもしれないし、そもそもが嘘かもしれない。

 召喚した異世界人たちにはほぼほぼ学がなく、戦場で戦うことしか知らない野蛮な人間であったこともその懸念に拍車をかけていた。


 しかし、全てを疑っていてはきりがない。まずはこの情報を上に提出し、あちら側の世界に日本という国が存在しているかを調査してもらうことにしよう。

 まだ陰陽師たちは回復し切っていないし、次の召喚実験を確実に成功させるためにも必要な行為であると、私は思っている。

 第二回の実験では戦力になる異世界人を召喚したいところであるし、それが失敗したとしても今回のように次に繋がる何かを得られることを期待しよう。


 ……と、ここまでは前回の実験に関する反省点と次回の召喚にかけての意気込みを記したが、ここからはちょっとした愚痴というか、問題についてこっそりと書かせてもらいたい。

 召喚した異世界人たちの扱いについて、どうすればいいのかが判らずに困っているということだ。


 少なくとも、これまでは彼らから情報を引き出したり、身体検査を行ったりと、彼らから得られる何かがあった。

 そのおかげで次回の実験の指針を立てられたし、異世界人たちが我々の期待通りの高い気力を持つことも判明したわけであるが……それら全てが終わった今、彼らをどうするべきかで自分たちも幕府の高官も頭を悩ませている。


 僅か数名ならばこのまま食客として幕府が抱えていてもいいが、ここに第二回の召喚で呼び寄せた異世界人たちが加わるとそういうわけにはいかない。

 もしも戦力にならない人間を多数召喚してしまった場合、我々はただ飯食らいを大勢抱えることになり、そのために必要な出費も跳ね上がるからだ。


 厄介なのは、彼らは皆、我々より高い気力を有しているということ。

 武神刀がなくともそこそこ素手で戦えてしまうから、無理に放逐して野盗にでもなられたら民草の大きな脅威になりかねない。


 かといって、このまま役目を失った異世界人を幕府が抱えておくことは不安材料にもなり得るし、どうにかして彼らを東平京から排除したいところだ。


 暗殺や謀殺も視野に入れるべきだと文官たちは言っていたが、彼らと深く関わった身としてはそういったことはしたくないというのが本音である。

 彼らは我々の身勝手に巻き込まれてこちらの世界に強引に呼び寄せられてしまった人間たちだ。その上、我々が彼らを殺すというのはあまりにも残酷というものではないだろうか。


 彼らのためにも、私自身のためにも、双方が損をしない良案を探る必要がある。

 異世界人の召喚実験だけでも難題なのに、他にもこんな面倒な仕事を抱えることになるとは困ったものだ。

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