第二回英雄召喚実験結果報告書(愚痴)
――零元四十八年、夏の月
第一回召喚実験からおよそ一年、そこから更に数か月の延期を経て、遂に第二回英雄召喚の儀式が行われた。
本来ならば春先に実施予定であった実験が秋の手前までずれ込んだのも、全ては口だけ出して面倒な部分ではなにも手を出そうとしない上層部のせいだ。
現場の判断を無視し、自分たちの意見を強引に捻じ込もうとする上層部の説得に時間を費やした結果、本来の予定よりも数か月もの遅れが出てしまった。
しかも、ここまで努力したのにも関わらず、一切我々の話に耳を貸そうとしない上層部の意見が大いに反映された内容での実施だというのだから、こちらとしては笑えもしない。
安定性と安全を優先し、五十名程度の高い気力反応がある地点を選び、そこを召喚の対象とする。
こちらも色々と提言はしたが、上の連中はそんなものを無視して自分たちの考えだけで全てを決定してしまった。
それで、上層部主導で行われた今回の英雄召喚実験がどういった結果になったかといえば……それはもう、見事なまでに大失敗というほかない有様だ。
第一回と同様、指定地点がズレることもなく、その場に在る生物や建造物をそのままこちら側へと転移させること自体は成功した。
だがしかし、その場所が問題だったのである。
よりにもよって、上層部が選択した地点は、怪我や病に苦しむ人々がそれを癒すための施設……あちらの世界で『病院』と呼ばれている施設であった。
つまりは、今回召喚した人間の大半が怪我人や病人だったというわけで、しかもその七割が老人という有様だ。
今回の召喚で呼び出した異世界人たちの数はおよそ五十名。その大半が老人、怪我人、病人で、残りは彼らの看病をする医師たちのみ。
平均年齢は軽く五十代を超えており、完全に肉体的な絶頂期は過ぎ去ってしまっている人々ばかりだ。
そんな人間を英雄として祭り上げ、武神刀を渡した上で一から戦い方を仕込むことなんて出来るはずがない。
そもそも、突如として異世界に召喚された彼らは状況を飲み込めずに錯乱して精神を病んでしまったり、元々の病状を悪化させてしまったりと、日常生活を送ることすら困難な状態だ。
せめて病院の中にある医療設備を用いることが出来れば僅かばかりでも成果はあったのだろうが、こちらとあちらでは医療器具の構造が根本から違い過ぎる。
気力による肉体活性によって人間の治癒能力を引き出すことを目的としている大和国に対して、あちらの世界では病原の切除や投薬での排除を主とした治療方針を取っているからだ。
要するに、だ……上層部主導による第二回英雄召喚実験は、戦いの役に立たない老いた病人や怪我人ばかりを召喚しただけという何とも情けない結果に終わってしまったということである。
これを大失敗といわずしてなんというのか? これだから現場を知らない連中は頼りにならんのだ。
まあ、これで上層部の連中も我々に対して強くは出られなくなるだろうし、次からの実験の主導は現場側に託されることになるだろう。
上の連中には、せいぜい今回呼び寄せてしまったボケ老人たちの看病や世話に関する方針を整えてもらうために頑張ってもらいたい。
ついでに莫大な費用と労力を費やしてこんな無駄な成果した挙げられなかったことに対する責任を取って、何名かの首を落としてもらってもいいくらいだ。
あまり大きな声……というか、普通にこんなことを言うわけにはいかないので、せめてこの手記の中だけでも私の本心を書き記しておこうと思う。
ざまあみろ! 馬鹿どもが!!
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