五日目・朝
「……暇だなあ。本当に暇だ」
翌日、蒼は自室と化したやよいの部屋の中で退屈そうに文句を漏らしていた。
本来の主が出掛けている部屋の中には静寂だけが残っており、普段の賑やかさがまるで感じられない。
そんな部屋に一人残っている蒼は、机に頬杖を付きながらほぅと深い溜息を吐き出した。
本当に、非常に、実に……暇だ。やることが何もないといっても過言ではない。
事務仕事はやよいの手助けのお陰で滞りなく完了してしまったし、昨日の燈を見習って『時雨』の手入れをしてみたが、几帳面に定期的な武神刀の調整を行っているが故に大した問題も見つからず、手早くそれも終わらせてしまった。
読書に関しても大半が内容を読み漁ってしまったものだし、二日続けて昼寝で時間を潰すというのも怠惰が過ぎていただけないだろう。
こういう時、普通ならば修練でもするか……という話になるのだろうが、生憎と本日は蒼天武士団全員がばらばらに行動をしているせいで単独での基礎訓練しか出来ない。
やよいは昨日言ったとおりに外出し、燈と栞桜は前々からの約束であった逢引に出掛け、涼音はそんな二人の予定に心がささくれ立っているのか苛立って修行どころではないし、こころは普段通りに家事を行っている真っ最中だ。
一人で時間を潰すことも、仲間と共に時間を過ごすことも出来ない今日という日に思いを馳せた蒼は、改めてとても大きな溜息を吐く。
仕事ばかりにかまけてプライベートが充実していない人間というのは、こういう寂しい時間を過ごすものなのかな……と、現代日本に生きる社畜のような暗い考えに浸りながら机に突っ伏した彼は、またしても溜息を吐いてから独り言を呟いた。
「本当に僕ってば趣味というか、自分だけの楽しみってものがないよなぁ……仕事と修行だけで構成された生活って、こんなにも味気ないものなのか……」
蒼天武士団を結成してからは忙しさにかまけて見て見ぬふりをしていたが、実際にこうして自分の根幹にある二つのものが消え失せた日を過ごしてみると本当に自分の空虚さを実感させられる。
趣味もなく、武士団の仲間たち以外に共に過ごす友もなく、暇が出来たらこうして部屋でぐだぐだと管を巻くことしか出来ない自分自身には、ちょっとした嫌気を感じてしまうものだ。
それでも普段は……そう、普段は、こんな風に思うことはなかった。
大概にして、こういう暇が出来そうな時にはやよいがちょっかいをかけてくれたりして、なんだかんだで彼女と話したりすることが多かったからだ。
やよいは仕事の面でも自分を支えてくれていただけではなく、自分の無味無臭な日々にも彩りを与えてくれていたんだなあと、彼女がいない時間を過ごしてそのありがたみを理解する蒼。
しかして、そんなことを考えているとまた燈や宗正にからかわれかねないと考えた彼は、ぐったりと机に突っ伏しながら窓の外に見える青い空を見上げながら、本日何度目かも判らない台詞を繰り返し口にした。
「暇だなあ……今頃やよいさんやみんなは何をしてるのかなぁ……?」
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