蒼、言ってしまう



「そもそも君は自分のことを大事にしなさ過ぎるんだよ。僕を成長させるとか、武士団全員のためだとか、そんなことなんてどうだっていいんだからもっと自分を大切にしなって。若い女の子が平然と肌を曝け出すだなんて、どうかしてるとしか思えないよ」


「う~……なんか怖いんですけど~……」


 心の内ではどうして自分がこんなに不機嫌になっているのかも判らないまま、やよいへと説教を続ける蒼。

 少し引き気味になっている彼女の様子に心を痛めながらも、口から発せられる言葉が止まる気配は未だにない。


「大体ね、僕だって聖人君子ってわけじゃないんだからね? やよいさんは襲われても構わないって思ってるのかもしれないけど、こっちはこっちで色々と考えることがあるんだって」


「……とかなんとか言って、結局どんな状況でも襲わないくせに。はいはい、どうせあたしはおっぱいとお尻が大きいだけの小娘ですよ~だ! ばいんばいんな栞桜ちゃんの下位互換だし、こころちゃんみたいなお淑やかな性格もしてなくてごめんね~!」


「だから……! 誰も君に魅力がないとか、可愛くないとか、好きじゃないだなんて言ってないでしょ!?」


 自分を卑下し、文句をぶー垂れるやよいへと、蒼が一際荒げた声をあげた。

 その剣幕に驚き、完全に口を閉ざした彼女へと向け、蒼がまくし立てるようにして言葉をぶつけていく。


「やよいさんには本当に感謝してるし、本当に素敵な女の子だとも思っているよ! 行動はちょっとあれだけど、大事な時に僕の背中を押してくれるし、色んな面から自然に手助けをしてくれる部分とかもありがたく思ってる! 十人の男がいたら十人が君を求めるだろうし、そんな君に迫られて手を出さない僕が異質なのであって、君に魅力がないとかそういう話じゃあないの!」


「わ、わかったって、だからそんなに怒らないで――」


「大体ね! 僕が女の子を胸とかお尻の大きさで好きになったりすると思う!? 性格面を重視してることについては否定しないし、椿さんにも心から感謝してることも認めるけど、僕が一番信頼してるのはやよいさんだってことを忘れないでほしいんだけど!!」


 ぐわーっ、と叫ぶようにして、蒼がやよいへと自らの心境を伝えていく。

 怒っているようにしか見えないその様子におっかなびっくりしていたやよいであったが、彼の言葉の大半が自分に対する賞賛と感謝であることを理解すると、先程とは違った意味で口を閉ざし、何も言えなくなってしまった。


「何度も言ってるけど、君は十分に魅力的な女の子なの! 僕も理性で欲を抑えてるだけであって、君のことをどうこうしたいって感情を抱いてないわけじゃないの! わかる!? この辺の事情!!」


「あ、その、えっと……」


「君はそういったことに慣れてるのかもしれないけど、男としてはこういう大事なことは段階を踏んでから辿り着きたい行為なわけ! 僕が君に手を出さないのは、君のことを何の魅力もないどうだっていい女の子だと思ってるからじゃないの! そうだったら一晩限りの相手として気軽に手を出すでしょうが! むしろその逆!! 君のことを大切に想っているからこそ、軽々しくそういったことをしたくないってことなの!」


「えっ……!?」


「僕だってやよいさんが誰にだってあんな風な態度を取る女の子だとは思ってないけどね、それにしたって限度ってものがあるよ!? 男と二人っきりの状況で下着姿で布団の中に包まるだなんて、桔梗さんが聞いたら怒るに決まってるでしょ! そもそも禁止されてるお酒を飲んでまでそういうことをしようとするだなんて――」


「まま、待って! ちょっと、ちょっと待って!」


「なに!? 言っておくけどまだまだお説教は続くよ!! 適当に誤魔化して逃げようたって、そうはいかないからね!」


 珍しく、言い聞かせる蒼と言い聞かされるやよいという普段とは逆の立場になった二人の間には、何とも言えない微妙な空気が流れていた。

 もっとも、感情のままに喚き散らす蒼にはその空気を察知出来ておらず、やよいのみがその雰囲気を感じ取っているのだが……そんな中で、もごもごと口を動かしていた彼女が、恐る恐るといった様子で彼にこう問いかける。


「……今、何て言った?」


「限度があるって話をしてるの! 君のことは信用してるけど、そんなんじゃいつか痛い目に遭うかも……」


「そ、その前! あ、あたしに手を出さない理由! どうでもいい存在だったら気軽に手を出すって言った、その後!」


「だから! 僕が君に手を出さない理由は――理由、は……?」


 話を巻き戻して時間を稼ぐつもりか、と苛立ちを覚えながらもやよいの質問に丁寧に返答をしようとした蒼は、先の自分の発言を振り返り……そこで、我に返った。

 感情のまま、特に考えも無しに発言を繰り返していたが……自分は今、なにかとんでもない発言をしてしまってはいなかっただろうか?


 少しずつ、自分が発した言葉の意味を理解していった蒼の表情が驚きの色に染まっていく。

 自分でも信じられないと、何を言っているんだと、そんな感情と共に口元を抑え、愕然とする彼に向け、震える声のやよいが確信に迫る質問を投げかけてきた。


「あ、あたしのこと……大切に想ってくれてる、の? 蒼くん、今そう言った、よね……?」

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