勘違いの末に彼女は色々と覚悟するようです
(そうだよね……蒼くんがあんな変態さんな趣味を持っちゃったのは、間違いなくあたしが原因だもんにゃ~……)
お尻だの、低身長だの、生意気少女だの……どう考えても自分のことを指しているとしか思えない属性が勢揃いした春画を所持していた蒼のことを思いながら、大きめの溜息を一つ。
多少はヘタレが治ってくれればいいなと思いながらあれやこれやと積極的にセクハラを行っていたやよいだが、そのせいで蒼が変な方向に成長してしまったことは完全に予想外だった。
真面目で健全な男の子に思いっきり負荷をかけたら、性癖にも歪みが出てしまうんだなぁ……と、改めて春画の内容を思い出して顔を赤らめるやよい。
蒼が変な趣味を得てしまったことは残念ではあるが、その欲求というものが自分に向けられているということに関してのみならば、実のところはちょっぴり嬉しいというのが本音だ。
今まで散々ちょっかいをかけてきた甲斐がようやく実ったかと、胸の奥ではそんな素直な想いが芽を出しているわけなのだが……でもやっぱり、あの春画の内容を思い出すと怖いと思ってしまっている自分もいる。
なにより、やよい自身は認めてはいないが、彼女もこれで結構ヘタレなのだ。
蒼に対しておふざけでお尻をどーんしたり、胸やら尻やらを押し付けてからかったり出来るのも、何を隠そう彼がそういった自分の行いを許してくれるという信頼があってのことであり、万が一にも堪忍袋の緒が切れて自分に手を出さないという確信のようなものがあるからなのである。
ある意味では深い信頼であり、ある意味では物凄く失礼な感情を蒼に抱いているやよいとしては、その大前提が崩れかねないこの状況は喜ばしくあると同時に恐ろしくもあった。
これでもし、自身の趣味をやよいに知られた蒼が、これから先の彼女のおふざけに対して開き直った態度を取ったりしたら……そこで自分は、彼にわからされてしまうかもしれない。
耳年増で小悪魔めいた振る舞いをしている彼女だが、実のところは経験など全くない初心な乙女。
要するに、蒼や燈と根本は何も違いはしないのだ。
仮にわぁっと蒼に襲い掛かられた場合、力も速さも間違いなく彼の方が上なので、どう足掻いたって逃げることは出来ない。
そういった展開から始まる交わりならば、主導権も向こうの方にあって然るべきであるし……欲望を全開にした野獣のような男の本能を、この小さな体に全て叩き込まれることになるかもしれないのだ。
猛りに猛った蒼が自分を押し倒し、組み敷き、徹底的に上下関係を叩き込んだり、おしおきと称してお尻を打ったり、他にも口では言えないようなことをどしどしと行って、やよいの心をめろめろにする。
一晩明けた頃には立場が逆転していて、どっしり構えた団長の蒼と、そんな彼に従順な副団長のやよいという、今の自分たちからすると違和感がありありな関係性に仕上げられているかもしれない。
(……あり、だね。ああ、でもそうなると優しい蒼くんがいなくなっちゃうのかなぁ? それはそれで嫌かも……)
武士団の団長や、自分たちを率いる者としては理想的なのだが、何だかんだで甘くてからかい甲斐のある蒼を気に入っているやよいは、そんな彼が亭主関白じみた人間になってしまうことにちょっとした迷いを抱く。
彼方立てれば此方が立たぬ、武士としての理想と自分の好みが両立出来ないことに悩むやよいは、小さく唇を鳴らした後にその前に至る根本的な問題に目を向けた。
(す、するのか、あたし……この後、蒼くんと……!!)
ごくり、と喉を鳴らして息を飲み、この後に待ち受けているであろう出来事へと思いを馳せる。
そうすれば、自分の不用意な行動を切っ掛けとして己を解放した蒼との、甘いんだか熱いんだか判らない男女の交わりというものがむくむくとやよいの頭の中で膨らんでいった。
本当に、これから自分がそんなことをするのだろうか?
色々と情報やら知識を仕入れたりはしているが、本物の本番というものを体験するのは勿論初めてだ。
というより、蒼に任せて大丈夫なのだろうか?
彼のせいで自分にまで妙な趣味を植え付けられてしまったりしないだろうか?
とまあ、そんな無用な心配を抱えるやよいもまた、激しく動揺しつつも覚悟を決めつつある栞桜と共にむむむと唸り、降って湧いた受難兼ちょっとした幸運に頭を悩ませている。
この二人、会話が噛み合っているようで絶妙に根本がずれているのではあるが……幸か不幸か、この話し合いの中で双方が覚悟を固めつつあるということだけは共通していた。
栞桜は思い込みの強い性格が災い(幸運?)し、自分の不用意な行いが燈の欲情を煽ってしまったのだと責任感を感じ――
やよいは偶然ながらも蒼の秘密(彼のものではない)を知ってしまい、そのことについて理解を示しつつ、己の行動を顧みて――
双方が同時に下した結論は、『自分が責任を取らなければならない』というもので一致していた。
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