中身検めちょっと笑う
「……結局預かっちまったな。ったく、どうすっかねぇ?」
「師匠も師匠だよ。自分の欲が原因で起きた騒動の収拾のために、僕たちまで引っ張り出すなんてさ」
数分後、宗正から合計十冊ほどの春画を受け取った二人は、燈の部屋で師匠から預かった爆弾とにらめっこをしていた。
本当にとんだ問題に巻き込んでくれたものだと思いつつも、あれでも自分たちにとっては父親のような人間である宗正の頼みを無下には出来なかったし……と、悶々としていた蒼であったが、燈の方は既に割り切れているようだ。
「にしても、こっちにもエロ本は存在してるんだな。やっぱどの世界でも人間の三大欲求は変わらないってことかねぇ?」
「……まあ、人間なんてそんなものだよ。性欲っていうのは子孫を残したいっていう生物の本能に働きかける部分でもあるし、生き物である以上はその欲求が重要視されるのは当然のこと……って、燈!? なにしてるの!?」
「え? いや、せっかくの機会だし、中身を確認しようと思ってよ」
「駄目でしょ!? そんな、破廉恥な本を読むだなんて……!!」
「硬いこと言うなよ。ちろっと見て、どんなもんか確かめるだけだからさ」
そう、軽く蒼に言ってから春画の最初の数ページを捲り、中を見聞する燈。
相棒が信じられないといった様子で顔を赤らめる中、ぺらぺらと宗正秘蔵の春画を読み進めた燈は、大きく頷くと共にそれを閉じた。
「……どうだった? 何か、得るものはあった?」
「う~ん……なんつーか、多分なんだけど、俺たちの世界のエロ本の方が優秀……だと思う」
やや興味を示しながら質問を投げかけてきた蒼へと首を捻りながら燈が答える。
率直に申し上げて、燈はこの春画では興奮ような性欲を覚えることは出来なかった。
確かにこの本にも女の裸や不埒な姿が描かれてはいるが、それはあくまで絵。現実の一瞬を切り取った写真とは、リアルさが段違いである。
加えて、大和国特有の古めかしい絵柄が合わなかった燈には、その良さというか、エロさというものがまるで理解出来なかったようだ。
十八歳未満の自分が実際に読んだことはないが、恐らくは自分たちの世界のエロ本の方が性欲を煽るという部分においては優秀だと思う。
少なくとも、これと比べれば少年誌に乗っているラブコメ漫画のちょっとえっちなシーンの方がクるなと判断した燈は、つまらなそうに春画を床に置くと、大きな溜息を吐いた。
「お、思ったよりも冷静だね? もっと興奮したり、騒ぐと思ってたよ」
「あぁ? そんなもん今更じゃねえか。お互い、こんな絵より刺激的なモンを経験済みだろ」
「あ~、うん。言われてみれば、そうだね……」
燈の言葉を受けた蒼が、言いにくそうに言葉を濁しながら同意する。
確かに、自分たちは今更春画の一冊や二冊では動じなくなる程の女性経験というか、絵よりも現実的な女性の裸体を何度も目にしたことがあった。
燈は三人娘との混浴を何度も経験しているし、なんだったら彼女たちから全力の誘惑を受けたこともある。
巨乳から美乳、ひいては貧乳までを取り揃えたこころたちの誘惑と、三つ並んだ桃尻を跳ね除けた彼にとっては、趣味に合致しない絵などで興奮する要素はない。
蒼に関しては燈よりも耐性は低いが、何だかんだで事あるごとにセクハラを仕掛けてくるやよいがいる。
胸を押し付けられた回数は数え切れず、それ以上にお尻での突っ込みを受け続けている彼からしてみれば、感触も温度も伝わらない春画なぞ恐れるに足りない相手だ。
「師匠はこういうのに興奮すんのかね? やっぱ年齢と育ちの違いか?」
「もしかしたら、本当は遊郭に行きたいけどお金がないからこれで自分を慰めてるのかもね。あとは、思い入れがあるからそれがこみこみで考えられてる、とか……」
デジタルや写真に慣れてしまった現代っ子の燈と、副長によるスパルタ教育によって女性に慣れつつある蒼。
宗正から預かった春画についての評価をそこそこ低く設定した両名は、そこで気が大きくなってきたようだ。
なんだかんだでこんな本よりも凄い経験をしてきた自分たちだ、今更エロ本の一冊や二冊で動じる必要はない。
明日には桔梗の警戒も解けるだろうし、そうしたら師匠に春画を返して、この一件はそれで終わりでいいだろう。
とまあ、時代錯誤な物とはいえ、エロ本といえばエロ本である春画を目の当たりにしながらも非常にドライな反応を見せる燈と蒼の様子は、本当に健全な青少年かと疑いたくなるくらいの冷静さを有していた。(まあ、だから多分、この二人は童貞なのだと思う)
「なんか一気に肩の力が抜けたな。こいつは部屋に置いておくとして、とっとと今日の鍛錬を始めようぜ」
「ああ、そうだね。それじゃあ、着替えてから修練場で合流しようか」
既にこの春画たちから興味を失った二人が、いつも通りの日常へと戻っていく。
燈は布団をしまっている押し入れの奥にそれをねじ込み、蒼は仕事で用いている書類入れ用の箱の中へと収納した後、本日の修行をこなすべく修練場へと向かった。
既にこの時点で頭の中からは春画のことは消えかけており、忘れないように宗正に返さないといけないな~、くらいの意識しか持っていなかったのであるが……彼らは知らない。
この春画が原因で、例にもよってちょっとした大騒動が起きるということを……!!
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