突貫

2020年も残るところあと僅かとなりました。

およそ半年の間、この『和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員となる!』を応援してくださった皆さまには、本当に感謝しかありません。


年末のご挨拶も兼ねて、今年の感謝をお伝えさせてください。

本当に、ありがとうございました。


年内の更新はこれで最後となりますが、来年も変わらず頑張って更新を続けていきたいと思っています。

また、1月の間に新作を投稿出来たらな~、とも思っておりますので、そちらも楽しみにしていてください。


では皆さん、良いお年を!!


――――――――――――――――――――



 三国時代の名馬、赤兎馬を思わせる赤毛の騎馬に跨った彼の一言を耳にした蒼は、少し慌てた様子でその行動を制止する。


「降りちゃ駄目だよ、燈。この戦いは長期戦になる。少しでも体力を残せるようにした方がいい」


「いや、でもよ……俺、乗馬なんて初めてだぜ? 牧場での体験ならともかく、いきなり実戦でこれをやる方がヤバいと思うんだが?」


 慣れない、というか初めて乗った馬の背から見える景色と、思ったよりも高いその視点に一種の困惑を抱きながら燈が言う。

 てっきり、自分たちは徒歩で移動すると思っていた彼は、こうして自分が初めての乗馬を体験していることに違和感を拭えずにいるようだ。


「なあ、やっぱ俺だけでも徒歩じゃ駄目か? 体力の方は何とかするからよ」


「そんなに不安がらなくても大丈夫だよ。実際、騎乗も簡単に出来たじゃない」


「……まあ、それはそうだけどなあ」


 すっと、目の前に見える馬の首筋を撫でてやれば、赤毛の馬は嬉しそうに首を振り、全身を震わせる。

 単純な乗馬のスキルとしてはまだまだどころか何一つとして理解していない燈だが、気力を通じて馬と交信し、意思疎通を図ることで彼を操るという技術については天性のものを持っているようだ。


 もしかして自分は、人間よりも動物の方が相性がいいのでは……? と、自分自身が人間ではなく獣に近い性根をしているのではないかと訝しむ燈。

 そんな彼に対して、戦況を見極めていた蒼は、落ち着いた口調で声をかけてきた。


「燈、そろそろ出番だ。妖たちは駕籠の退路を塞ぎ始めてる。僕たちはそこを突っ切って、そのまま馬車の護衛にあたる者と、敵陣を突破して進路を切り開く者の二手に分かれよう」


「最初は俺が護衛で、お前が突っ込む役だったよな? んで、折を見て役目を交代する、と」


「ああ。燈の言う通り、初めて馬に乗る君に無茶はさせられないからね。僕が敵を蹴散らして、後続の負担を減らしてくるよ」


「馬に乗って敵を蹴散らす時点で十分に無茶させられてるんだけどなぁ……」


 やや無茶ぶりともいえる蒼の発案に苦笑しながらも、燈はもうやるしかないと覚悟を決めたようだ。

 少しずつ、行進する駕籠の退路を塞ぐように動く妖たちを見ながら、蒼は燈へと言う。


「そうだ、大切なことを言い忘れてた。あんまり気張って、馬に気力を注ぎ過ぎちゃ駄目だよ?」


 その気力と、燈自身の闘志に呼応した馬が、奮起して突っ走るようになってしまうから……と、続けて忠告を口にしようとした蒼であったが、その耳にけたたましく勇ましい馬のいななきが響いた。

 その直後に、軽快な蹄の音に紛れて響き渡る燈の叫びを耳にした蒼は、敵軍団へと突っ込んでいく赤い影を見ながら目を丸くする。


「あっれぇ……?」


「蒼っ! お前、そういう大事なことこそもったいぶってないでとっとと言えってのーーっ!!」


 どうやら……自分の忠告は、一歩遅かったようだ。

 一直線に敵陣を突破し、駕籠を引く馬すらも追い越して、まるで炎の弾丸のように妖を蹴散らす馬の背中から聞こえてきた燈の叫びを耳にした蒼は、自分の悪癖のせいでとんでもない目に遭っている親友へと心の中で謝罪しながらその後を追う。


 こうなったら、最初に決めていた役目を交換するしかない。

 燈が敵を蹴散らし、その間に蒼が駕籠を護衛を引き受ける。やや不安は残るが、あの勢いの騎馬はそう簡単には止まらないはずだ。


「こころさま! 燈さまが、敵陣の中に突っ込んでいきました!!」


「ええ。私たちのために、進路を切り開こうとしてくれているんです」


 一方その頃、響き渡る悲鳴が聞こえない駕籠の中では、一瞬の内に自分たちを抜き去り、妖の大軍へと突進していく燈の姿を目にした面々がその雄姿に感激の声を漏らしていた。

 実際は、初めての乗馬に加えて暴走状態になった騎馬の愚直な突貫に付き合わされているだけなのだが……そんなことなど知る由もない百合姫の目には、燈が危険を顧みず、敵を打ち倒すために勇猛果敢に突っ込んでいったようにしか見えていないのである。


「頑張ってください、燈さま。百合姫は何も出来ませぬが、ここであなた様の無事を懸命にお祈りさせていただきます」


 御神体を握り締め、無垢に、懸命に、燈の無事を祈る百合姫。

 その願いの甲斐あってか、何とか馬に振り落とされずに体勢を立て直すことに成功した燈は、もう目の前にまで迫った妖の大群を目にしながら、ヤケクソ気味に叫んだ。


「ちくしょう!! こうなったらヤケだっ! 跳べっ、馬っ!!」


 声と、気力による伝達で騎馬に跳躍を命令し、同時に『紅龍』を抜き放つ燈。

 刀身と馬の全身を覆うように炎を発し、そこに落下の勢いを乗せながら、彗星のように敵陣に突進した彼の叫びが戦場にこだまする。


「うおおおおおおおおっっ!!」


 着地、からの爆発。

 周囲に敵しかいないこの場では、遠慮など無用。全力で、叩き潰すことだけを考えればいい。


 大分ヤケになっている燈のご挨拶の一発は、見て判る通りに強烈な威力を有していた。

 さながら、隕石の落下地点のように、その衝撃で周囲の物が吹き飛んだ様を見ながら馬を操る涼音は、ぐっと親指を立ててサムズアップをして、一人呟く。


「なにはともあれ、終わり良ければ総て良し……!」

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