二人乗り騎馬戦

新年、明けましておめでとうございます!

2021年もこの作品をよろしくお願いします!!


というわけで、新年一発目の投稿、行きます!!

楽しんでいってください!

―――――――――――






「いや、流石にあれは張り切り過ぎじゃない? 燈くんの気力なら大丈夫かもだけど、必要以上に暴れてるでしょ」


「た、確かに……ぼ、僕、ちょっと行って交代してくるよ!!」


 涼音の意見に物申したやよいに同調し、慌てた様子の蒼が馬を走らせて最前線で暴れる燈の下へと駆け寄っていく。

 当初の計画と役割が逆になったことに焦っているのか、親友に大事なことを伝え遅れたせいであんなヤケクソ気味な活躍をさせてしまっていることを悪く思っているのかは判らないが、兎にも角にも蒼は事態を収拾しようとしているようだ。


「な~んか大事なところで締まらないよね、うちの男連中ってさ」


「言えてるな。本当にしょうがない奴らだ」


 まあ、そういうところも何だかんだで好きなのだが……という本心を胸の中に押し止め、会話を行う駕籠の上の二人。

 燈が敵を蹴散らしてくれたお陰で少しは楽が出来ると、臨戦態勢を取り続けていた気を少しだけ緩めた栞桜とやよいは、大きく安堵の息を吐いたのだが――


「グロォォォォォォォ……!!」


「……なんだ、今の唸り声は?」


「方向は……上っ!?」


 不意に、黒い妖たちが上げていた声と同じような唸りが鳴り響き、それが自分たちの上方向から聞こえたことに驚いた彼女たちが視線を夜空へと跳ね上げる。

 瞬く星と、黄金に輝く月に照らされる漆黒の空へと目を凝らせば、地を這っていた妖たちと同じ黒い靄のような物体が、束になって上空から襲い掛かって来る様が見て取れた。


「冗談だろう!? 奴ら、空を飛べるのか!?」


「そりゃ、煙なんだから何でもありだって!! 涼音ちゃん、思いっきり速度上げちゃって!!」


「もう、やってる……!!」


 翼と人魂が融合したようなその妖たちの速度は、地面を這うように動く同類の緩慢さとは打って変わって非常に迅速だ。

 涼音が手綱を取り、駕籠を引く馬たちの走る速度を上げるも、お構いなしといった様子で距離を詰めてきている。


「くそっ! 蝙蝠の群れか、こいつらっ!?」


 羽音と唸りを上げ、馬車へと迫る黒い妖の姿は、確かに栞桜の言う通りに蝙蝠にも見えなくはない。

 不快極まりないその姿と声に苛立ちを覚えながら、懸命に結弦を引いて対空防御を行っていた栞桜であったが、その攻撃を擦り抜けた一体の妖が彼女へと体当たりを仕掛けてきた。


「くっ、あっ!?」


「栞桜ちゃんっ!!」


 攻撃が当たる寸前で身を躱し、気力で作り出した矢で妖の体を貫いて安堵したのも束の間、予想以上の妖の接近に怯えた馬が調子を崩したことで、彼らが引く駕籠が大きく揺れた。

 がたんっ、という音と共に跳ね上がった駕籠の上から、運悪く不安定な体勢になっていた栞桜の体が飛び出す。


 やよいの叫びを耳にしながら、彼女が伸ばす手と駕籠が離れていく様をスローモーションの世界で見ていた栞桜が、自身の不覚に歯を食いしばりながら落下の衝撃に備えようとした時、その体を何かが掬い上げた。


「おおっと! ギリギリセーフっ!! 危なかったな、栞桜」


「あ、燈! すまん、助かった!」


 蒼と交代し、駕籠の警備に戻ってきた燈に救われた栞桜は、馬を駆る彼にお姫さま抱っこのような体勢で抱えられたことに気恥しさを感じ、顔を赤く染めながら感謝の言葉を述べた。


 すぐ傍にある燈の顔と、密着している体の感触がその羞恥心を掻き立てると共に、まるで囚われの姫君を救い出した武士が、敵陣を駆けているような雰囲気だな……と、今の自分たちのシチュエーションに乙女チックな妄想を抱いてしまった栞桜は、思わぬ僥倖に心臓の鼓動をどきどきと逸らせていたのだが――


「ん? ちょっと待て。お前、駕籠の進行方向と逆に進んでないか!?」


 ――ふと、視線を上げ、燈の背後を見てしまった栞桜は、そこに護衛対象である駕籠の姿を目にして、自分たちがどんどんそこから離れていっているということに気が付いてしまった。

 甘い妄想はここまでにして、武士としての思考に戻った彼女から突っ込みを入れられた燈は、半ギレ状態のままに同じように叫ぶ。


「しょうがねえだろ! この馬、言うこと聞かねえんだよっ!!」


「お前、どれだけの気力を注いだんだ!? こいつ、活力が有り余ってるじゃないか!!」


「ほんのちょっとだけだっつーの! それでこんな風になるとか、予想出来ねえだろ!?」


「自分の気力の量を考えて言え! お前のちょっとは、他の大多数からすれば相当多いだっ!!」


「だぁぁっ! 耳元で叫ぶな! 顔近付けんな! 体くっつけんなっ! こっちは初めて乗る馬の操作でいっぱいいっぱいなんだから、集中を乱すような真似すんじゃねーっ!!」


 戦場でも、馬上でも、いつもと変わらぬやり取りを繰り広げる燈と栞桜。

 そんな二人を乗せて走る馬の前方には、つい先ほど燈に蹴散らされたばかりの妖たちが体勢を立て直して作り上げた包囲陣が出来上がっており、後方上空からは駕籠から落ちた栞桜を狙って殺到する飛行妖たちの大群が迫っていた。


「とにかく反転すっぞ!! このままじゃ、蒼たちとの距離が広がるばかりだ!」


「待てっ! 後ろから妖が来てる!! 今のままじゃ、敵の大群に突っ込むことになるぞ!!」


「このままこうしてても同じことだろうが! なら、本隊に近付く方がまだマシだろうがよーーっ!!」


 ヤケクソムード漂う二人の間には、いい雰囲気もへったくれもない。

 ちょっと前までにあった仲間の危機を救った格好のいい武士と彼に想いを寄せる少女としての形は崩れ、今ややいのやいのの大騒ぎを続ける落ち着かない二人組の完成だ。


 敵に追われ、仲間たちとの距離も離れ、乗馬という慣れない状況に加え、少なからず意識している異性と密着しているこの状況で、別段クールな性格というわけでもない燈が冷静でいられるはずがない。


 馬の走りに合わせてぽいんぽいんと跳ねる二つの柔らかい山の感触を胸筋に感じながら、とにかくこの状況を脱しなくてはと馬を反転させた燈は、後方から迫っていた妖が予想以上の数を揃えていることに驚くと共に、それを突破するために今一度馬へと気力を注ごうとしたのだが……。


「うひゃあっ!?」


「うぐ……っ!!」


 急な方向転換と加速によってただでさえ不安定な体勢であった栞桜がよろめき、そこから持ち直すために燈に抱き着いたことで、事態は一変してしまった。


 柔らかく張りのあるなんだか温かいものが胸部に押し当てられ、その形を変えながら潰れていく感触やら、袴の下に隠れている引き締まっていながらも女性特有の柔軟さも兼ね備えている太ももやらの感触をばっちりと感じてしまった燈は、当然ながら馬に注ぐ気力の調整を失敗し、そして――

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