仲間に相談(涼音の場合)
「……それで、私の所に来たと? よりにもよって、一番役に立たなそうな私に意見を求めに、わざわざ?」
「涼音さん、流石に自分のことをそこまで卑下する必要はないんじゃないかな……?」
「身の程はわかっている。正直、私も休日の楽しい過ごし方なんて知らないし、こっちが知りたい」
堂々と頼りにならないことを言いながら親指を立ててサムズアップする涼音は、どうしてだか誇らしげにむふーと鼻を膨らませている。
確かに、この予想も出来ない少女に助言を求めるというのは相当な博打だったんじゃないかと思いつつも、ここまで来たら最後まで付き合ってもらおうと、蒼は彼女に意見を求めた。
「で、どうかな? 涼音さんは暇を持て余している時、どうしてた? 性格的には近しいものがあると思うから、是非とも意見を聞かせてほしいんだけど……」
落ち着いた性格をしているという部分に関しては、涼音も蒼も似通っている。
燈や栞桜といった活動的な人間とは違う涼音の方が自分にもしっくりきそうな時間の過ごし方を教えてくれるのではないか、と期待する蒼であったが、暫し上を向いて考えた彼女が答えを口にした瞬間、その目が点になった。
「特に、何も。強いていうなら、虚無」
「きょ、虚無……? え? で、出かけたりとか、美味しいものを食べるとか、そういうのもないの?」
「ない。外に出るのは面倒くさい。わざわざ出かけて食べに行きたいと思うような好物もない。適当に刀の手入れをするくらいが、私の暇の潰し方」
「さ、流石にそれにも限界はあるでしょ? 他に何かやってることは?」
「……ない。剣の修練かぼーっと空を見上げる程度。気が付けば時間が過ぎていて、それで私の休日は終わる。虚無と空虚の極み、それが私の時間の過ごし方」
再び、サムズアップ。
何故だか誇らしげな涼音の様子に頭を抱えつつも、自分だって団長としての業務がなければ彼女と似たような時間の過ごし方をしているじゃないかと自分自身に言い聞かせた蒼は、敢えてその虚無さを逆手に取った提案を涼音へと口にした。
「なら、これから一緒に何か打ち込める趣味を探すかい? さっきも言った通り、僕たちは性格が似ているし、趣味嗜好も似通っているんじゃないかって思うんだけれども」
「……趣味がないならそれを作るために時間を費やせばいい。見事な逆転の発想ね。でも、あなたは大切なことを忘れているわ」
無表情のまま、三度サムズアップする涼音。
とても、非常に、堂々とした様子の彼女は、眉一つ動かさぬ無表情のまま、蒼が失念している重要な事項を彼へと告げる。
「私は、人と関わるのが滅茶苦茶に苦手。無言、口下手、感情の表し方も不器用……そんなダメ人間の役満ともいえる私のことを、あなたは受け入れることが出来るかしらね?」
「……君は、どうしてそうも情けないことを堂々と口に出来るのかな?」
「自分のことをよく理解しているから。そして、自分の欠点を受け入れられる度胸もあるから」
「ああ、そう……」
こいつはとんでもない大物だと思いつつ、将来大成するのは涼音のような人間なのではないかと蒼は思う。
このふてぶてしさというか、自らの欠点を堂々と曝け出せる図太さに関しては本当に見習うべきかもしれないなと考えながら、彼女の問いかけへと返事のようなものを口にした。
「……大丈夫だよ。苦労はしそうだけれど、頑張って受け入れてみるさ」
「……ほう? そんな無理せずとも、一人で打ち込める趣味を探した方が効率的だと思うけど?」
「そうかもしれないね。でも、折角友達のことをよく知れる機会が出来たのなら、それを最大限に活かしとこうかなって。これから同じ武士団の仲間としてやっていくんだもの、涼音さんのことを少しでも知れたら良いと、僕は思うよ」
仲間の中で最も付き合いが短い涼音のことは、彼女の特異な性格も相まって、いまいち理解を深められてはいない。
天才的な剣の才能を持ち、冷静で冷徹な思考を有していることは知っているが、プライベートやどんな趣味嗜好をしているのかという部分に関してはからきしだ。
ならば、その部分を明らかにするためにも、彼女と共に時間を過ごすというのも悪くはないと蒼は思っていた。
人付き合いが苦手で迷惑をかけられるかもしれないが、そこは団長としての包容力というものを自分が見せるべきなのだろう。
涼音自身のためにも、誰かと行動する際に必要なコミュニケーション能力を身につけるいい機会かもしれない……と考えつつ、あとは純粋に友人だと思っている彼女との関係を深めたいという希望を持っていた蒼は、真っ直ぐにその想いを涼音へと告げた。
「涼音さんが迷惑だっていうなら無理強いはしないけど、君にもしその気があるのなら、一緒に時間を過ごすことを考えてみないかい?」
「……ふふっ! 燈もそうだけど、あなたも結構変わってる。この武士団、変人揃いね」
寛容にも程がある、といった様子で頬を綻ばせる涼音の姿に自分自身も笑みを浮かべながら、蒼は彼女と微笑みあった。
割と好感触だし、このまま二人で趣味を見つけるために時間を使うという形で休日の過ごし方は決着しそうだなと考えていた蒼であったが、目の前の涼音は少しだけ愉快さを込めた笑顔を浮かべると、首を左右に振りながら言う。
「でも、残念。今回は遠慮させてもらうわ。修羅場に巻き込まれたくないし……」
「へ? 修羅場? それってどういう……?」
何か意味深な言葉を口にした涼音の態度に、蒼も嫌な予感を感じ始めていた。
視線で自分の背後を指し示し、そこを見るように告げる彼女の行動に従って、ゆっくりと蒼が振り返ってみると――
「……随分と楽しそうなことしてるね。涼音ちゃんとどんな秘密のお話をしてたのかな、蒼くん?」
「ひいっ!?」
僅かに開いた襖の間から顔を半分だけ覗かせたやよいが、低い声で恫喝染みた台詞を口にする様が、目に映った。
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