一方その頃、総大将の匡史は……


「よし! 全軍、あと少しだ! 銀華城前に着いたら陣営を作る! 夜になるまでには設営を終わらせるぞ! 駆け足ーーっ!!」


 目的地である銀華城を目にした匡史が腕を振り上げ、背後に並ぶ兵士たちへと指示を飛ばす。

 その声に従って騎馬も歩兵も駆け足を行う様に自分の持つ力を実感した彼は、王毅に代わって手に入れた地位と名誉ににんまりとほくそ笑み、軍を先に進めていく。


 程なくして、約半日という時間をかけて行われた行軍は終了し、幕府軍は目的地である銀華城前に辿り着くことが出来た。

 つい先日まで戦が行われていた城は、所々に損傷の跡が残り、傷は癒え切っていないように見える。

 この城の中には逃げ遅れた城下町の人々と、この城を陥落させた鬼の軍勢が自分たちを待ち受けていると考えれば、否が応でも緊張感と共に興奮が込み上げてきた。


 その中でも、総大将を任された匡史の意気込みは相当なものだ。

 王毅が狒々との戦で大々的な活躍をしたように、自分も彼を上回る手柄を立て、新たなる英雄たちの長としてこの大和国に君臨する。

 この戦を制することは、自分の真の力を世に知らしめる第一歩。

 聖川匡史と大和国聖徒会の名を天下に轟かせる、記念すべき初陣となるのだ。


「各軍に分かれ、陣を敷け! 一軍は正面、二軍は右翼、三軍は左翼にそれぞれ展開し、銀華城を包囲する陣形を取るぞ!」


 かつて図書室で暇つぶしに読んだ兵法書の中身を思い出しながら、匡史は軍を展開していった。


 攻城戦を行う場合、最も有効的な手段は数の利を活かしての包囲戦だ。

 場外に並ぶ大勢の兵士たちの姿と、自分たちの逃げ場が何処にもない光景を見れば、城に閉じ籠っている敵たちは精神を摩耗させ、士気を低下させる。

 今回の場合は鬼の軍団五百に対して、人間軍は三千。およそ六倍もの人数差があるのだから、これを活かさない手はない。


 真正面に、大きくはためく『大和国聖徒会』の紋章と横断幕を掲げ、本陣を築く。

 その脇を固める二軍、三軍の陣も堅牢に作り上げ、これまで鬼たちが相手していた軍隊とはまるで別物の陣を築き上げた。


 これぞ精鋭。銀華城の守備部隊とは一線を画す、強靭なる軍隊。

 この数と陣形を活かした無言の重圧に、鬼たちも震え上がっている頃だろう。


「聖川殿、幕舎の設営が終わりました。どうぞ、中へ」


「ああ、ありがとう。……これより明日の作戦会議を行い、全軍へと伝達する。今日は行軍の疲れも出ているだろう。迅速に動きを確認し、兵たちを早めに休ませる、良いな?」


「ははっ!!」


 自分の言葉に、聖徒会のメンバーが、大和国の武士たちが、大勢の人間たちが……平伏し、首を垂れる。

 これだ。秩序と規律を順守するこの理想の軍こそが、自分の求めていた力だ。


 王毅の軍のような無造作で纏まりのない軍隊ではない。

 匡史が決めたルールを守り、自身の手足のように自在に動く精鋭部隊こそ、自分が得るべき力なのだ。


「さあ! 明日は決戦だ!! 全身全霊で臨むために、策を練ろうではないか!」


「ははーーっ!!」


 再び、平伏。

 自分を長として絶対の信頼を置いてくれる部下たちの姿に、匡史の心は踊りっぱなしだった。


 この力と秩序こそが、生徒会長として学園の頂点に立っていた自分を象徴する全て。

 大和国聖徒会の名を得た軍隊と共に、この混沌たる世界に秩序と平穏を齎すのは王毅でも他の誰でもない、自分自身だ。


(この戦いの勝利を糧に、僕はより高みに登り詰める! 英雄の座を超え、大和国幕府の一員として、この国の政治に参加するんだ! そして、ゆくゆくは……!!)

  

 目の前の戦いではなく、その先にある未来を夢想しながら、匡史は部下たちと共に明日の作戦を練り上げ、万全の体制を以て戦に臨むのであった。

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