大事な大事な会議(女子編)
「由々しき事態だよ、これは!」
「……いや、何がだ? 話は聞いたが、そんなことに首を突っ込むなとしか言えないんだが……」
それから少しして、栞桜の部屋に集まった女子一同は、先の男たちの会話を聞いていたやよいと涼音からの報告を受けて作戦会議を行っていた。
といっても、部屋の主である栞桜はそういった男女の交わりに関する話が大の苦手であるため、積極的に参加しようとはしておらず、涼音とこころも性格上あまり口数が多い方ではないので、大半がやよいの独壇場であるわけなのだが。
「栞桜ちゃん、何も思わないの!? あの二人の、燈くんの初めてが、どこの馬の骨とも知れない女に奪われちゃうんだよ!?」
「ええい! なんだ、藪から棒に!? 確かにふざけた話だとは思うが、私たちの知った事ではないだろう! 男どもの下劣な話など、放っておけばいいだけだろうに!」
「でもでも、本当にそれでいいの!? すぐ近くにこんなに可愛い女の子たちがいるっていうのに、それに手を出さないで他の女のところのふらふら行かれちゃうんだよ!? なんだかそれ、女として負けた気分にならない!?」
「うっ……!!」
話し合いや作戦会議の存在自体を否定していた栞桜であったが、やよいの言葉に一瞬だけ同意の念を抱いてしまったことは確かだ。
自分たちを放っておいて、煌びやかで艶めかしい雰囲気を纏う女の姿に夢中になる燈の姿を想像すると、どうしてだか胸の奥がむかむかとしてしまう。
どうでもいいと頭では思っているのだが、その苛立ちのような感情はこのままでいいのかと栞桜へと問いかけてきている。
思考と感情の乖離に戸惑う彼女が頭を悩ませて押し黙っていると、無口で無表情な涼音が淡々とした口調で自分の意見を口にした。
「面白くないのは、確か。どうせ女を抱くのなら、私たちが相手でも構わないのではないかと、私は思う」
「い、いや、構うだろうが! 同じ武士団の仲間とそういう関係になったら、本人同士も周囲の人間も、顔を合わせる度に気まずくならないか!? そ、それに、そんなに平然と言ってはいるが、何をするのかお前はわかっているのか? 男女のまぐわいというのは、こう、なんというか……!!」
あまりにも平然としている涼音の態度を見て逆に慌てた栞桜は、気恥ずかしさを押し殺しながら少ない知識で一生懸命に彼女へと説明を行おうとした。
しかして、彼女の言葉を聞き終えるよりも早く(というよりも最初から聞いていなかった節がある)、涼音はあっけらかんとした態度で自分の中での結論を口にする。
「私は、燈になら抱かれても構わない。燈には借りがある。それを返す意味でも、彼が望むのならば一夜を共に過ごすことを拒むつもりはないわ」
「~~っ!?」
はっきりとそう言い切った涼音に対して、栞桜はかける言葉を失ってしまった。
あまり表情や声色に感情を表さない涼音だが、判り難いだけでもしかしたら燈への好感度はかなり高いのかもしれない。
この状況もいい機会と考えて、燈とより親密になるために利用しているのかも……と、考えた栞桜は、胸の内がチクリと痛む感覚に表情を顰めた。
(ま、マズい……! おかしな方向に流されているような気がする! ど、どうにか思考を正常に戻さないと……!!)
燈たちが童貞を卒業する前に何かをしてやろうという考えを持っているのは、やよいと涼音の二人。
いけいけの彼女たちの思考に流されておかしな事態になる前に、どうにかして話を引き戻さないといけない。
そう考えた栞桜は、頼りになる友人のこころへと視線を向けた。
一般人の思考を持つ彼女なら、自分と共にこの空気を変えてくれるはずだと、そう期待を持ってこころの様子を伺った栞桜であったが――
「むむむむむむぅ……!!」
そんな彼女の目に映ったのは、誰よりも面白くなさそうな表情をしているこころの姿であった。
小さくではあるが頬を膨らませ、胸の内に眠る不満を表すかのような唸りを上げ、平然とした様子で燈への好意を口にしてみせた涼音へと視線を向けるこころの姿を目にした栞桜は、嫌な予感を感じると共に意外と負けん気が強いこころがここからどうするかを何となく察する。
「恩返しって意味ならさ……私の方が、優先順位が高いと思うんだけど?」
「……へぇ?」
その予感に違わず、若干の挑戦的意思が込められた台詞を口にしたこころは、涼音と睨み合いながら話を続けていく。
「燈くんに助けられたのは私も一緒だし、元々そういうことをするために燈くんは私のいたお店に来たわけだし……そう考えれば、私の方が燈くんの相手をするのに相応しいんじゃないかな~って、思うん、だけ、ど……!!」
言っている最中にその言葉の意味を再認識していったこころは、ゆでだこのような顔を真っ赤にしながらも最後まで自分の意思を仲間たちへと表明してみせた。
こころ、お前もそっち側なのか……と、ブルータスに裏切られたカエサルのような孤独感と絶望感に栞桜が浸る中、呆然とする彼女に対して、その操り方を熟知しているやよいが声をかける。
「うんうん! それじゃ、涼音ちゃんとこころちゃんは計画に参加する、と……残るは栞桜ちゃんだけだね。無理強いはしないけど、どうする?」
「わ、私を乗せようとしてもそうはいかないぞ! そんなふざけたことに手を貸す理由なんて、私には――」
「ふ~ん……逃げるんだ? あたしたち全員が参加するっていうのに、栞桜ちゃんは初めてが怖いから逃げちゃうんだね?」
「なっ……!?」
くすくす、と挑発的な笑みを浮かべながら親友が吐いた台詞を耳にした栞桜の表情が一変する。
この場に集った女子たちの中で最も気が強いといっても過言ではない彼女は、その言葉だけで猪突猛進な元来の性格を露見してしまったようだ。
「わ、私が逃げるだと!? そんなことがあるものか! いいだろう、あの馬鹿たちが一皮剥けるために協力してやろうじゃないか! 別に大したことじゃない。ちょちょいのちょいで、簡単に終わることだろうさ!」
「うんうん、その意気だよ! ……そんじゃ、あたしたち全員で明後日に待ち受ける二人の童貞卒業を阻止する……というより、早めるってことで! みんなで協力して頑張ろ~ね!」
あっさりと挑発に乗り、計画への参加を決めてしまった栞桜を引き込みながら、もう逃げられない状況に仲間たちを追い込んだやよいが堂々と宣言する。
思っている以上に気負っていたり、あるいはその逆でまるで緊張感を覚えずにこの計画に参加することを決めた女子たちは、やよいの考えていた作戦を聞き、翌日の決行に備えて準備を行っていった。
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