第26話 変わり者の研究者

「なるほど、隔世遺伝かくせいいでんか……それなら納得はいくね」

 ジョナはトーイの先祖返りから推測した、ダイモーンの考えをビアンカに伝えた。

「確かに血のちぎりとは、その名の通り血が重要になってくる。血洗いの儀式について、そっちはどれくらい言い伝えられているんだい?」

 ビアンカは床に散乱した本の背表紙を一つ一つ確認しては、別の場所へ放り投げながらジョナたちに尋ねた。

「『交わした鎖断ち切るはあるじの血と交わしたものの血なり。始まりの地にて血を洗え。さすれば血のちぎり解放の音を放つ』これがダイモーンに伝わる血のちぎりの言い伝えだ。あとはこの手記を頼りにここまで来た」

 ジョナが懐から手記を取り出すと、ビアンカの目に驚きの色が浮かんだ。

「懐かしい文字だね。私の旦那の字だよ」

 ビアンカの言葉を聞いて、その場にいた全員が驚きのあまり固まってしまった。

 ジョナから手記を受け取り、懐かしそうにページをめくっているビアンカにジョナは訊ねた。

「あなたは……いったい何者だ? 俺たちはあなたにそっくりなダイモーンを知っている」

「待ってくれ、ビアンカどういう事だ! ダイモーンと交流があったのか?」

 話を聞いていたヴェリエルはこらえきれずにビアンカに叫んだ。

「ずっと昔の話だよ。私たちとダイモーンが共に血のちぎりについて研究していた時の話だ。私はダイモーンとの間に子をもうけた。遺伝形質はほとんどダイモーンと一致していたから別々に身を隠すことになった時、離れて暮らすことを決めたんだ。その方が幸せだろうと……きっとその子は私たちの子孫だろうね。混血の特徴は異なった髪色を持つんだ。おそらくその子の髪もそうだろう」

 ジョナたちは白銀色しろがねいろの髪に黒髪の混じったシャミスの髪の毛を思い出した。

「俺はてっきり変な実験でもしてああなっているんだとばかり……」

 ルーノはシャミスを思い出しながら頭を掻いた。

「私の話はどうだっていいよ。血のちぎりに話を戻そう」

 ビアンカにそう言われ、ヴェリエルは渋々納得したようだった。

「私はあれからもずっと研究を続けている。だけど、どうしても分からないことがあるんだよ。天使の子孫に伝わる唄に『一対の戦士』という一節がある。両手に掲げた戦士とはダイモーンと飛竜を指す。なんだ。恐らく何か共通点のあるダイモーンと飛竜でないといけないと考えている。ただ、それが何なのか私には分からない……」

 ビアンカはジョナから受け取った手記の一文字一文字を指でなぞりながら悔しそうに言った。

「深紅の瞳……飛竜があるじと認めた者しか宿すことが出来ない唯一無二の瞳。共通点は恐らくそれだ」

 ルーノは顎をさすりながら呟いた。

「深紅の瞳? そうか! あるじとそれに仕える飛竜じゃないと駄目なのか! そしてその飛竜は天を舞う祖先の血を引いていないと成立しない……。それじゃあ! そのトーイって子のあるじは誰なんだい!?」

 ビアンカは興奮気味に身を乗り出した。

「トーイは俺の相棒だ」

 ジョナは深紅の瞳でビアンカを真っ直ぐ見つめながら答えた。

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