第21話 空へ還る
「長老! トーイの遺伝子について分かったよ! やっぱり他の飛竜たちとはちがう!」
興奮気味に駆け寄ってきたシャミスに驚いて、リタは持っていたペンを床に落としてしまった。
「落ち着きなさい。話を聞こう」
ダイモーンの歴史について教えてくれていた長老は書物を閉じ、シャミスを近くの椅子に座らせた。
「分かったんだ! トーイの遺伝子は
長老はそれを聞き少し考えた後、やがてうなずいた。
「地上に慣れた飛竜の血とは異なっていたんだね、さっそくジョナに”
「
リタは急に自分の名前を呼ばれて身構えた。
「飛竜の習性として、飛行法は最初に手本を見せればそれを覚える事が出来るんだ。だから最初が肝心なんだ。ライリーはまだ飛行訓練に参加していないよね?」
シャミスは目を輝かせながらずり落ちた丸眼鏡を指で上げた。
「あくまでも実験なんだけど、トーイとライリーだけで飛行訓練を行ってみたい。駄目かな?」
こちらに倒れてきそうなほど身を乗り出しているシャミスとは対照的にリタは混乱していた。
「ライリーをもう空に
ライリーは体こそ大きいけれど、まだ子供だ。初めて外の景色を見て、初めて風を感じる。
リタは少し不安だった。
「そこはルアンナにも相談しよう! まだ生まれてから数ヶ月しか経ってないからね。絶対にライリーに負担はかけないよ」
シャミスの懇願に1人では決断出来かねて、長老に助けを求めた。
すると長老は小さく首を横に振った。
「お前がどうしたいかで決めなさい。何かを決断する時に他人の意見など何の役にも立たないよ。他人にお膳立てしなくていい。自分の心に忠実でいなさい」
それを聞いてリタはぐっと口を結んで自分の心と向き合った。
かつて飛竜の背に乗り空を舞っていたダイモーン。
その歴史を再び動かすかもしれない始点に今自分は立っている。
その時ふと、母の顔が脳裏をよぎった。
お母さんが守りたかったのは何だったのだろう。
優しくタバルを撫でていた母の後ろ姿を思い出した。いつも優しく撫でてくれた母の手は何を守ってきたのだろうか。
お母さんならきっとこうする……。
ううん、違う。
私がライリーと共に戦いたいんだ。
リタは真剣な眼差しでシャミスを見据えた。
「分かった。ライリーとトーイを一緒に空へ
「有難うリタ! 感謝する! そうと決まれば、僕はさっそくルアンナに相談してみるよ!」
慌ただしく嵐のように去っていくシャミスの後ろ姿を見ながらリタはぐっと腹を据えた。
「よく決断したね、それでいい。例え上手くいかなかったとしても私たちがいる。何も恐れることはないさ。全てを背負い込んで1人にならなくていい。安心して運命にぶつかればいい」
そう言って頭を撫でてくれる長老の手は、母のあの温かい手と重なった。
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