第20話 天使の子孫
ヴェリエルは3人を小屋に招き入れると慣れた手つきで暖炉に薪をくべ、マッチを一本擦った。
マッチの先から薪に火が移り、徐々に炎となって薪を覆いつくしていく。
「だんだん暖かくなる、しばらく寒さは我慢してくれ」
ヴェリエルにそう言われた3人は互いに顔を見合わせた。
「お心遣い感謝する。しかし我らダイモーンは温度を感じない。気にしないでくれ」
ジョナはローブを外しながら軽く頭を下げた。
「……すいぶんと便利な体だな」
ヴェリエルは一瞬驚いた後、感心したように顎ひげをさすった。
「まあいい、座ってくれ」
そう言うと書物の散らかった机の上を急いで片付けてジョナたちを誘った。
「まずは俺たちの現状から話そう。
俺たちの祖先は、ダイモーンや飛竜たちの討伐が始まった後もしばらく人間と共に暮らしていたんだ。しかし、祖先たちはどうしてもそれを見逃すことが出来なかった。たった一人の天使の為に天界を捨て、地上についてきてくれた勇敢な一族を見捨てる事は決してしなかったんだ。何度もダイモーンや飛竜の討伐をやめるように抗議したんだが、人間たちはそんな天使の子孫たちが次第に
そして、ある思想をもって天使の子孫たちをも迫害していった。君たちも一度は聞いたことがあるだろう。“魔女狩り”だ」
「魔女狩り? なぜ天使の子孫たちが魔女なんです?」
ログは身を乗り出してヴェリエルに尋ねた。
「当時、人間に強く抗議していた天使の子孫長が女性の身なりをしていたからだ。
ヴェリエルは悔しそうに拳を握った。
「それから身を隠すようにこの村に住み着いた。その時ダイモーンと約束をしたんだ。互いに身を隠す事で自分たちの子孫を守ろうと。言い伝えの中に作り話を折り混ぜて、二度と人間たちに見つからないようにしようと」
それからヴェリエルは
「俺たちの祖先も血洗いの儀式についてはずっと研究していたんだ。だが、結局答えが見つからなかった。何故上手くいかなかったか未だに分かっていない。それから互いに交流することなく、数百年という長い年月が過ぎてしまった。俺たちはダイモーンや飛竜を物語や言い伝えでしか知らなくなっていった。それはきっと君たちも一緒だろう?」
ヴェリエルはジョナたちに問いかけた。
「ああ、その通りだ。我々もまた天使の子孫たちが未だに存在しているのか確証が無かった。しかし、村の入り口で会った時、何故我らがダイモーンだと気づいたんだ?」
ジョナは疑問に思っていることを問いかけた。
「ああ、俺たちの目は普段見えないものも視えてしまう。フードを被っていても
ヴェリエルはそう言いながら自身の漆黒の瞳を指指した。
「そうだな……、今で言うと、そこの若い兄ちゃんは俺の話を聞きながらずっと周囲を警戒しているし、もう1人のガタイのいい兄ちゃんは見た目と違って頭脳派か、俺を信用すべきか考えているようだ。あんた、いい部下をもっているな」
ヴェリエルはそう言いながら、ジョナにいたずらっぽく笑いかけた。
その一方で、ログとルーノはヴェリエルに心中を言い当てられて、冷や汗をかいていた。
「ははは、そんな怯えなくていい。別にだからと言って何もしないさ。それより俺はあんたの方が怖いよ」
そう言うとヴェリエルはジョナを指指した。
「何を考えているのか俺でも分かりづらいときた。隙がないのはいい事だが、己をきちんと表現しなけりゃ誰も寄り付かないぞ。人間の子ならとくにな」
ジョナは弾かれたように顔を上げた。
「匂いで分かっただけだ。俺たちは人の匂いに敏感なんだ、身を隠していく中で自然に身についた防衛本能ってやつだろうな。あんたから
そう言うとヴェリエルはぐっと伸びをして立ち上がった。
「そろそろ鷹が戻ってくる頃だ、行こうか」
「え、何処に行くんですか?」
ログは不思議そうにヴェリエルを見上げた。
「何処って、“俺の家”だよ」
その瞬間、入り口の扉が勢いよく大きな音を立てて内側に開かれた。
開いた扉の隙間から大きな黒い影がさっと滑り込んで来たかと思うと、素早くヴェリエルの肩に止まった。
その鷹は
「こいつは俺の相棒だ、準備が整った。行こう」
あっけにとられている3人をよそに、ヴェリエルはにっと口の端を上げて笑ってみせた。
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