第16話 希望の光

 血のちぎり、裏切りにあった者たちよ。

 汝らのあるじを探せ。

 交わした鎖断ち切るは、あるじの血と交わしたものの血なり。

 始まりの地にて血を洗え。

 さすれば血のちぎり解放の音を放つ。


 これはダイモーンに伝わる言い伝えだとジョナが教えてくれた。

「ダイモーンや飛竜が人間たちの手によって討伐され迫害を受けた年、1人の年老いたダイモーンが天からの声を聞いたと言われている。あるじとは地上に降り立った天使の子孫を指し、交わしたものとはダイモーンと飛竜を指す。俺たちの祖先はその言葉を信じて何度も天使の子孫を探し出し、血のちぎりを解こうとしたんだが、どういうわけかそれは上手くいかなかった。そのうち希望は消え、老いたダイモーンの戯言ざれごととして……今はただの言い伝えとしてダイモーンたちに語り継がれてきた。何故上手く行かなったのか、それを今俺たちは見つけ出したかも知れないんだ」

 ジョナはリタにそう説明しながら何かの書物を眺めていた。

「血を洗うって何をするの?」

「互いの血を混ぜ合わせるんだ。少量でいい。指先を切って合わせるだけだ」

 ジョナは平然と言ってのけたが、リタは顔をしかめた。

「あの……どうしてトーイだとその血のちぎりを解くのに上手くいくの?」

 リタはまだまだ分からない事だらけだった。

 何故“先祖還り”したトーイにみんなが希望を抱いているのかもさっぱり分からなかった。

「天使が血のちぎりを交わした飛竜の血に近いかも知れないからだ。ここからは俺たちの推測だが、当時天界で生きていた飛竜はとっくに死に絶えていた。地上に慣れ、天界を忘れてしまった飛竜の血では駄目なのかもしれない。現に今の飛竜たちと天界に住んでいた飛竜たちとでは飛行法も着地法も違う。お前が見つけてくれたトーイの着地法は背に乗っている者を着地の衝撃から守る方法だったんだ。遺伝子に何らかの変化が起こり、血液が変化したと考えられる。先祖還りしたトーイの血が他の飛竜たちと明らかに違うようであれば可能性が見えてくる。それを今シャミスが調べてくれている」

 ジョナはそう言うと、手にしていた書物を閉じて部屋に残った飛竜守りたちを集めた。


 集められた飛竜守りたちはこれからの事やアバン王のことについて真剣に口論していた。

「血のちぎりについては俺が行く。何名か連れて天使の子孫が今何処にいるのか探し出す。留守の間はルアンナ、お前にここを任せる」

 ジョナに指名されたルアンナはいつもとは違う真剣な顔つきで頷いた。

「アバン王の動きはどうなっている?」

 ジョナは1人の飛竜守りに視線をやった。

「はい。アバン王は着々と計画を進めています。まだここは見つかっていませんが、部隊を各地に送り込んで血眼になって我らを探しています。戦力については数千の兵が集まっていると推測されます。まだ時間はあると思いますが、万が一の事を備えて対策は必要だと考えられます」

「分かった。もし今までのように血のちぎりの呪縛から解放されなかった時のことも考えておこう。その件に関してはレイアン、お前に指揮を任す」

「承知しました。お任せください」

 レイアンと呼ばれた飛竜守りは深々と頭を下げた。

 大人しそうな中性的な顔立ちに似合わず、鍛え上げられた体つきはまるで戦士のようだった。

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