第15話 希望の光

 その日の夜、ダイモーンたちは全員大きな広間に集められた。

 長方形にくり抜かれた大きな広間は、長老の部屋よりも遥かに大きく、いくつもの長テーブルが整頓され綺麗に並んでいた。

 集められたダイモーンたちは何事だと隣同士でひそひそ話し合っている。

 普段飛竜守りたちとしか交流を持たなかったリタは、その数の多さに驚いた。

 広々としたこの大きな空間が、隙間なくダイモーンたちで埋め尽くされている。

 リタはその光景を後方の隅から眺めながらぎゅっと手を握った。

 自分が発した小さな疑問がここまで大きくなるとは思ってもみなかったのだ。

 この先何が起こるのか分からず、不安だけが募っていくばかりだった。

 後方の扉が軋み、長老が広間に入ってくるのが見えると、先ほどまでのざわめきがぴたりと止みみな一斉に深々と頭を下げた。

「頭を上げよ、夕刻ジョナとシャミスから重大な知らせを受け、急遽みなに集まって貰った。これから話すことは我らダイモーンにとって新たな歴史の第一歩になるかもしれない」

 長老はそう言いながら全員に席に着くよう促した。

 いくつもの長テーブルに全員が着席したのを確認し、長老はジョナを前に呼んだ。

 ジョナは、よく通る威厳のある声で話始めた。

「結論から言おう。トーイは“先祖還り”した飛竜だと言うことが分かった」

 先祖還りと言う言葉を聞き、ダイモーンたちは一斉にざわめき始めた。

 リタはその言葉を崖の上で聞いたが、何のことだかさっぱり分からなかった。

「我らの祖先がまだ天界に住んでいた頃、ダイモーンは飛竜に乗って空を舞っていたと言われている。これはただのお伽話として言い伝えられてきたが、そうじゃない。トーイは天界で生きていた飛竜たちの飛行法、着陸法を行っていることが分かった。何らかの理由で遺伝子が変異し“先祖還り”をしたと考えられる。ダイモーンが飛竜の背に乗り空を舞う時代が再び訪れようとしている。そして……」

 ジョナはこの先の最も大切な言葉を伝える為に、小さく息を吸った。

「これは、あの忌まわしい血のちぎりから我らダイモーンや飛竜を解き放つ、一筋の希望に繋がっているかもしれない!」

 先ほどよりも力のこもったジョナの声が広間中に響き渡った。

 その瞬間ダイモーンたちから、わっと歓喜の声が沸き起った。

 リタはその大きな群衆の声に驚いて身体をびくつかせた。

 何が起こっているのか分からず、歓喜に沸いている目の前の光景をぼーっと眺める事しか出来なかった。

 長老が静かに立ち上がると、歓喜に満ちていた部屋は一瞬にして静まり返った。

「皆のもの、よくお聞き。これより、準備に取り掛かる。医学班は速やかにトーイの研究を始めよ。飛竜守りたちは今後の作戦について話し合おう。アバン王の飛竜討伐計画についても話合わなければならない。最後に、1人の少女の発見が我らダイモーンや、飛竜を救ってくれるかも知れぬという事を決して忘れないように。みなリタに感謝と敬意を」

 長老はそういうと一番奥にいたリタを真っ直ぐ見つめ、組んだ両手を額に当て軽く頭を下げた。

 するとみな一斉にリタのいる方を向き、長老と同じように組んだ両手を額に当てた。

 リタはその光景に驚き、体を硬直させた。

 自分に向けられた視線の数に圧倒され、どうしたらいいのか分からず咄嗟に頭を下げた。

 そして、ぎゅっと固く目をつむった。今まで生きてきて、さげすまれたことはあれど感謝されることなどなかったのだ。

 固く閉じた瞳の奥から、じわじわと溢れ出てくる温かい涙をこぼさないようにリタは長いあいだ目を閉じていた。

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