第17話 絆
ジョナが出発する日、リタは他のダイモーンたちと共に崖の上にいた。
「ジョナ、ログ、ルーノに感謝と敬意を!」
長老が眼下の3人に届くような大きな声でそう叫ぶと、
リタもみんなと同じように組んだ両手を額につけ、固く目を
どうか、無事に帰って来ますように。そしてダイモーンや飛竜が安心して暮らせる未来が来ますように。
いつも一緒にいたジョナがいなくなってしまった寂しさを決して表に出さないように、リタは握った手にぐっと力を込めた。
「さあ、我らもそれぞれの役目を果たそう」
長老はそういうとローブを
それぞれが足早に去っていく中、リタは1人飛竜小屋に向かっていた。
慣れた足取りで小屋の通路を歩きながら、今自分に何が出来るのか考えていた。
(私には医学の知識も、戦術も無い、ライリーにすらまだ心を許されていない……)
そんな自分が何の役に立つのだろうか。みんなが戦っている最中、自分は何をしたらいいのだろうか。
ライリーの檻の前につき、リタは自分の非力さに胸が締め付けられた。
みんなは動き出しているのに、自分は見守る事しか出来ない。
「……っ」
ずっと我慢していた悔しさが涙に代わり次々と溢れ出していく。
お母さんは優秀だったのに……。
私はどうして何も出来ないの……。
どうしたら、何をしたらいいのか分からない……。
リタは鉄格子にしがみつき、必死に嗚咽を噛み殺した。
食いしばった歯の隙間から漏れてしまう嗚咽をどうしても止める事が出来なかった。
その時、何かが手を掠めた。
リタは驚いて顔を上げた。
そこには不思議そうに頭を
「!……今、私に触ってくれたの?」
リタは涙でぐしゃぐしゃになった顔でライリーに訊ねた。
飛竜に言葉は通じない。もちろんそれは知っている。
それでも訊ねずにはいられなかったのだ。
リタは恐る恐る鉄格子を開け、檻の中に入っていった。
見上げるほど大きくなったライリーは静かにリタを見下ろしていた。
「ライリー、私触ってもいいの……っ」
とめどなく溢れ出す涙を拭うことすら忘れ、リタはそっとライリーに手を伸ばした。
その瞬間、ライリーはゆっくり首をもたげ鼻先をリタの手のひらに押し付けた。
リタは目の前で起きている信じられない光景を眺めながら、鼻先が触れている手の震えを止める事が出来なかった。
何よりもこの瞬間を夢に見ていた。
やっと……やっとだ……私ライリーに心を許してもらえたんだ。
そう思うとリタは我慢するのを忘れ、まるで幼い赤子が泣くように大声をあげて涙を流した。
しかし、それは先ほどまでの悔し涙なんかではなく、安堵と喜びの涙だった。
(お母さん、ジョナ、私ライリーに触れたよ!)
それからリタは急いで涙を袖で拭い、精一杯の笑顔をライリーに向けた。
「ありがとうライリー、これからもよろしくね」
そう言うと触れていた手をゆっくりと鼻先から口元に移動させ、愛おしそうにライリーの顔を撫でた。
くすぐったかったのだろうか、ライリーは目を細めて顔を震わせた。
「長老! 聞いてください! リタが!」
ルアンナはリタの手を引き長老に駆け寄った。
何事かと驚いて、長老は書き物をしていた手を止めた。
「ライリーがついに、リタに心を開いたんです! リタがライリーに触れられたんです!」
ルアンナはまるで自分の事のように目を輝かせて長老に話かけた。
リタはライリーに心を許してもらえたことを、一番にルアンナに報告しに行った。
するとルアンナは目を輝かせリタの手を引き、急いで長老の部屋まで連れてきたのだった。
「そうかい、それはよくやったねリタ。毎日ライリーの事を一番に考えていたのが、きっとライリーにも伝わったのだろう」
長老は穏やかな表情でリタに労いの言葉をくれた。
リタは長老に褒められて、心の中に暖かい何かがじんわりと広がっていくのを感じた。
「凄い! 凄い! リタ、凄いよ!」
ルアンナはリタを抱きしめ、くるくると回りながら喜んでくれた。
ああ、なんて幸せなんだろう……。教えてくれる人がいて、褒めてくれる人がいて、自分の事のように喜んでくれる人がいる。
こんな幸せなことが他にあるだろうか……。
リタは目を潤ませながら、笑顔でルアンナをぎゅっと抱きしめ返した。
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