第13話 ジョナの飛竜

 数日後、リタとジョナ、そして他の飛竜守りたちは崖の上に集合していた。

 飛竜たちはそれぞれ、はるか上空で翼を大きく広げ、気の向くままに飛行している。

 週に1度こうして全ての飛竜を空へかえし、飛行訓練を行いながら、空に慣らすのだ。

 他の飛竜の飛び方を見て、上手く風に乗る方法を見つける飛竜もいるから大事な飛行訓練だとジョナは言っていた。

 今日は特別にリタも参加していいと許可を貰っていた。

 飛竜たちが舞う上空を見つめながら、リタはジョナの飛ばした1匹の飛竜をじっと目で追っていた。

 あの子はタバルではなく、生まれた時からジョナが育てた飛竜だと教えてくれた。

 他の飛竜に比べると一回り小さく、飛び方も少し不安定だったが、何だかとても楽しそうに飛行しているのを見て、愛らしさが胸から溢れ出てくるのを感じた。

「飛竜にも個体差がある。すぐに空に慣れる奴もいれば、トーイのようになかなか上手く飛べない奴もいる。トーイは着地もなかなか上達しないんだ」

 ジョナは上空を見上げたままそう教えてくれた。

 トーイと呼ばれたジョナの飛竜を2人で見つめながら、リタは他の飛竜たちとの違いをじっと観察していた。

「指笛を慣らせば戻ってくる」

 そう言うとジョナは軽く一つ指笛を鳴らした。

 すると、それを合図に他の飛竜守りたちからも、ジョナの音とはまた違った音色の指笛がそこかしこから聞こえてきた。

 飛竜たちが分かるようにそれぞれの音が決まっているようだった。

 一斉に崖をめがけて下降してくる飛竜たちの群れは圧巻で、リタは蛇ににらまれた蛙のように体が硬直し、すくみ上がった。

 突風が髪を巻き上げ、体が強く後ろへ押し出されそうになるのを堪えるのに必死だった。

 それでもリタはトーイの着地から決して目を離さなかった。

 トーイの着地は崖に足が付いた瞬間つま先を上げ、かかとを滑らせながら長い距離地面を引きずって止まった。

 その着地方法は他の飛竜たちとは全く違っていた。

 地面に強く足を踏みつけるようにして着地する他の飛竜たちの中でトーイの着地は明らかに浮いていた。

 リタはその姿に何か違和感を覚えた。

(何かをかばって着地している……?)

 飛行訓練が終わり小屋に入っていく飛竜を眺めながらリタはずっと考えていた。

 トーイは何故あの着地方法を覚えたのだろうか。他の飛竜たちの着地と違うのであれば何処であの方法を見たのだろうか。

 頭の中で思いを巡らせていると肩に何かが触れて驚いた。

 慌てて振り返ると笑顔のルアンナがそこにいた。

「リタ! 元気だった?」

 リタは驚きつつ笑顔を返しながらルアンナと抱き合った。

「元気だよ、ルアンナも元気そうで良かった」

「私はいつでも元気よ! 一緒に食事をしましょう。今日はみんなで一緒に食事をとろうって約束なの。リタはいつもライリーの所で食べているから会えなくて寂しかったのよ。今日は私達と一緒よ」

 ルアンナはそう言うと嬉しそうに手を引いて食事部屋へと案内してくれた。



 大きな長テーブルを囲い、飛竜守りたちはガヤガヤと楽しそうに食事をとっている。

 リタの横にはジョナとルアンナが座っており、人見知りなリタは他の飛竜守りたちに気を遣わずに、安心して食事をする事が出来た。

「どう? ライリーにはもう慣れた? ライリーはどんな子? いつ飛行訓練に参加できそう?」

 ルアンナに矢継ぎ早に質問され、リタはしばしば食事の手を止めながらゆっくり答えていった。

「静かに食事も出来ないのかお前は……」

 隣で呆れたようにジョナが呟くとルアンナは少し怒りながら反論していた。

 リタはそんな二人の掛け合いを聞きながら小さく笑みをこぼした。

 それはまるで家族や兄姉きょうだいと楽しく食事をしているようで、とても心地が良かったのだ。

「ねえ、ジョナ、トーイはどこか体が悪いの……?」

 ジョナとルアンナの言い合いが終わった頃合いを見計らって、リタは先ほどの気になっていたことを聞いてみた。

 ジョナは一瞬顔をしかめたが、不思議そうにリタを見つめた。

「いや、どこも悪くない……何故だ?」

「えっと……着地の時何処かをかばっているようだったから……。だからその……どこか体が悪いから着地の衝撃に耐えられるようにあの方法なのかなって」

 これはあくまでも憶測の話であって、自分の考えに自信が無く言葉の最後の方は消え入りそうな声になってしまった。

「それって……」

 隣で聞いていたルアンナから声が漏れた。

 次の瞬間、ジョナは勢い良く椅子から立ち上がると、何処かへ足早に去って行ってしまった。

(何かまずい事を言ってしまったのだろうか……?)

 突然不安になり、ルアンナに目をやるとルアンナもまた何やら考え込んでいるようだった。

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