第3話 出会い

 輝く白銀しろがね色の髪に銀製の装飾品、そして、深紅の瞳……。

 絵本や物語の中に出てくる悪魔デモンの特徴を兼ね備えた女性が、今自分の目の前に立っている。

 リタはそう思うと胸の辺りから嫌な予感がじわじわと広がり、冷たい汗が額ににじんだ。

おびえなくてもいいわ、とって食ったりはしない。ただあなたを迎えに来ただけよ」

「……迎えに?」

 リタは彼女の言葉に面喰ってしまった。

「ええ、今日は約束の日、あなたの10歳の誕生日でしょう?」

 母が死んでから、自分の誕生日など誰にも祝われることが無かったので今日がその日であることをすっかり忘れてしまっていた。

「確かに誕生日だけど……約束って……?」

 リタは身に覚えのない約束が気になった。

 今まで生きてきて悪魔デモンに遭遇したことなど一度も無かったし、言葉を交わすのだってこれが初めてだ。

 何より悪魔デモンは物語の中の生き物のはずだ……。

「私は……あなたを知りません……」

 リタはそれを言うのが精一杯だった。

 彼女の瞳に見つめられると、何もかもを見透かされているようで、とても居心地が悪かった。

 一刻も早くこの場から離れたかったが何故だか足が言う事を聞いてくれない。

 リタは急に怖くなり、持っていた水桶に目を落とした。

 その瞬間、リタは悲鳴を上げて水桶を放り出した。

 なぜなら、水に映った自分の顔の周りを、無数の飛竜ひりゅうが旋回していたからだ。

 リタは慌てて空を見上げ、今映ったおぞましい生き物を探したが、何処にも姿は見当たらなかった。

「……何故おびえるの? 何故飛竜が恐ろしい生き物だと思うの?」

 そう呟いた彼女の言葉には、何故だか悲しさが混ざっていた。

「人間は自分たちの都合の良いように物事をじ曲げる……私達や飛竜は悪の存在として、ずっとさまたげられてきた」

 リタは彼女が何を言っているのかよく分からなかった。

「とにかく、私と一緒にきて欲しいの、そして飛竜を守って」

 彼女がそう言うと目の前の井戸から青白い光がこぼれてきた。

 リタはぎょっとして悪魔デモンに目をやった。

「魔術は初めて? 随分忘れ去られてしまったけれど実在するのよ、今もなお」

 彼女は少し困った表情でそう言うと、リタの腕を引いた。

「お願い、私と一緒にきて」

 深紅の瞳が一瞬輝きを増した。

 その瞬間リタと悪魔デモンの周りの空気が穏やかに旋回し始めたかと思うと、どんどん勢いを増していく。

 竜巻のような激しい風にリタの栗色の長い髪は勢い良く巻き上げられ、目を開けるのもやっとだった。

 そして、突然の浮遊感にリタは悲鳴を上げた。

「一緒に帰りましょう」

 遠ざかる意識の中で悪魔デモンの言葉がこだました。

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