第7話 アイスメイルの証言
———シン王国謁見の間大ホール。数年前にアルカディアのオクタエダルが建造した。一面ガラス張りで、ガラスとガラスをつなぎ合わせる細い金属が枝のようになり、ホールの外にある四本の巨大な聖霊樹の枝や葉とマッチして目を見張る造形美を醸し出している———
「いつ来ても、ここは美しいが、表の方々のように、どこか高慢ちきな感じがするな」
とアイスメイル長官はホールに入るなり、周りの聖職者達にわざと聞こえるように呟いた。
現最高司祭である双子の聖霊師様も、アイスメイルの表の方と呼ぶ人たちへの嫌みは知ってはいる。しかし、アイスメイルと合うたびに何かの疑問を感じていらっしゃる様だ。今もまた、首を傾げられた。
私が最高司祭様の仕草を眺めていると、
「まあ、驚きは、アルカディアのオクタエダルが、ここを数時間で建てたことだな。異端の古き魔術を使ったのでは無いかと疑っておる」
とこれも、響き渡るような大声で答えた。アルカディアの先生達をお高くとまった奴らだと言い放って憚らない。
「アイスメイル、控えろ。陛下並びに最高司祭様の御前であるぞ」
とミキアが制した。
「おやおや、お高いのがここにもおるわい」
と言いながら跪いた。
「貴様 …… 」
と今度はロキアが声を出そうとしたとき、
「もう、やめよ」「やめよ」
と最高司祭である、ミリーとレミーが制した。
「アイスメイル、この間の死人の森の一件は、改めて礼を言う」
と私は跪いているアイスメイルに労いの言葉を掛けた。
すると、アイスメイルは
「はっ、お言葉、身に染みてありがたく思います。しかし、陛下をお守りするのも、我らの仕事です」
と答えた。
「今日、呼んだのは他でもない。死霊魔術師に手を貸したのは誰かと言うことだ。其方が逃がすのは珍しいことだが、何か覚えていることはないか?」
とロキアが詰問した。
「おやおや、尋問は我ら異端審問官が致すこと。表の方には、荷が重いだろう? 」
とニヤニヤしながら答えた。
また、言い争いになりそうなので、
「アイスメイル、頼む、エレサの将来が掛かっているのだ」
と私が口を挟んだ。
「陛下からのご下問であれば、このアイスメイル、何でもお答え致します」
と言った後、アイスメイルはあの夜のことを語り始めた。
◇ ◇ ◇
私は、あの日、アンデッド達をほぼ消滅させ、ロージを追い詰めた。
「陛下のお命を狙った以上、死より恐ろしい責め苦を受ける必要がある。覚悟せよ」
とロージに詰め寄った。
すると、ロージは、
「キー、畜生、キー、キー」
と髪の毛を掻きむしり、奇っ怪な言葉を発しながら、その場をウロウロとし始めた。
髪の毛が、バサバサと抜け落ち、シラミが目に見えるほど多量に落ちた。
「囚人を何人も尋問しているが、お前のように汚い奴はいないぞ」
と声に出してからかったが、ロージはただ唸るだけで、会話が成立しない。
’此奴は、精神が病んでるな。死霊魔術なんぞ使うからだ’
と思ったが、別段、哀れみなど感じることも無く、部下達に取り押さえろと手を上げて合図した。
ロージを包囲した部下達は、聖水で濡らされたロープを投げて絡め取ろうとした。
しかし、そのロープがロージに触れると、腐食して溶けてしまう。
「何だ、お嬢さん。自分に妙な術を掛けているのか? 仕方ない。ここで仕留めるしか無いな」
と警告した後、引導を渡すためにギザギザの剣を抜いて、地面に魔方陣を描き、
「我が命ずる。出よ聖なる御手。そして異端者共を浄化したまえ」
と聖手の呪文を発して殺そうとした。
しかし、その時、突然生じた黒霧が生き物のように御手を弾き、包み混み、消し去った。
「異端審問官に、まだ、ロージを渡すわけにはいかないね」
と上空から、女の声が響いた。
「誰だ?」
と俺は上空を見上げ、咄嗟に周辺探査の呪文を無声提唱して、周辺を探った。
「その程度の探査呪文で、私が探れるとは思わない方が良いね」
とまた上空から声が響いた。
何処から見ている?
部下達に、手で合図して探させたが、黒霧が円を描きながら、部下に触れた。
「ギヤー、熱い」
と声を発し、地面に転がってのたうち回る。身体から煙が出始め、皮膚がただれて、垂れ下がり、皮がむけ、目が飛び出し、髪の毛がチリチリになり始めた。口をパクパクして、息が出来ないようだ。火あぶりに似ているが、衣服は燃えていない。
黒霧が部下達を次々に襲う。
「どうだ? 異端審問官 アイスメイル。部下が犠牲者になる気分は。聖教会の犠牲者に比べれば少ないよな」
と声は響いた。
「お前、教会に恨みのある奴だな」
「そうだよ、そうだとも、でも私が誰だか、検討もつかないだろ? だから、ヒントを教えてやるよ。『ガル湖の悲劇』。精々調べることだな」
◇ ◇ ◇
「なに、確かにガル湖の悲劇と言ったのか」「言ったのか」
と二人の最高司祭は席を立って、珍しく大きな声を出した。
「そうだ。そして、死霊魔術師はその間にどこかに消え、その女の声も消えた」
とアイスメイル長官は最高司祭を眺めながら答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます