探検! 生物要塞ルフェート・ガイナン(地下最深部)
小惑星を奪おうとするエリート小型種を超能力で打ちのめしながら、宇宙ウナギの体内を奥へと進む。
テラポラパネシオからの通信は、ようやく来なくなった。どうやら業を煮やしたエモーションが現状を説明したらしい。カイトとしては、ややこしいことにならなければそれでいい。
しばらく進むと、大きく開けた空間に出る。
小惑星を底面に動かして周囲を見回すと、状況が理解出来た。
「なるほど。ここに寄生していたわけか」
空間の中央には、巨大な管のような物体。産卵管のようなものなのだろう。壁面には蜂の巣のような小部屋と、それなりの数のルフェート・ガイナン。
ぐい、と小惑星を引っ張られる。手放してみると、これまでとはまた違った形状の小型個体が小惑星を掴んでいるのが見えた。
小惑星が何度か揺れて、動かなくなる。しばらく見ていると再び揺れて、また止まる。その繰り返し。底面の方を観察していると、世話役のルフェート・ガイナンが小惑星を少しずつ破壊しては持ち去っているのが分かった。
壁面の小部屋に進んだ世話役が、小惑星の欠片を差し出す。奥にいるであろう個体が欠片を掴んで奥に引っ込む。やはりここから後継を送り出しているようだ。
「いやあ、こうなってくるとさっきのエリートたち。ありがたい連中だったね」
『何故です?』
「彼らはサボっていた。つまり、ここの個体連中に必要な食糧が遅れていたってことだよね。ルフェート・ガイナンにとっては利敵行為、僕たちにとっては遠回しな助力ってこと」
『まあ、確かに』
世話役たちは、久々に現れた大型の小惑星を世話している個体に捕食させることに忙しくてクインビーには注意を払っていない。カイトはそのまま奥へとクインビーを進ませることにした。
「……そりゃいるよね。大事な場所だもの」
奥に行くまでに、護衛のような個体は存在しなかった。また、成長した個体を運び出そうとする世話役も、自力で外に向かおうとする母体型も。つまり、転移機能は最深部にある。
そして当然のように、転移機能を護るためだろう巨大なルフェート・ガイナンがそこにはいた。ルフェート・ガイナンという種にとって、最も重要なもの。カイトとクインビーのような侵入者もいることだから、その対応は間違っていない。
「さて、どうしたものか」
『強行突破はしないのですか』
「いざとなったらそれも考慮するかな。出来ればこの奥に存在する、転移機能を持った部位の形状くらいは確認しておきたいんだけど」
『それは同感です』
連邦は過去、撃破した宇宙ウナギを解剖して調査している。その際に発見された内臓などのデータはあるが、何しろ宇宙ウナギ自体が未知の生物だ。どの内臓がどんな働きをする部位であるかの情報はまったくない。
トゥーナに聞いてみようかとの話も一度出たようなのだが、そもそも自分の体内がどういう働きをしているかなど知らないのでは? という当然のツッコミが入って立ち消えになったのだとか。
『過去のデータからすると、この辺りに位置する内臓はこれとこれですが……』
「まあ、どちらかなのは間違いないだろうね」
宇宙ウナギごとに、体内の形状が大きく違うことはないだろうし。
エモーションが示してきた内臓のかたちと予測されるサイズを確認しつつ、どうにか潜り抜けられる場所がないかを探る。
「駄目だなあ、これ。見てないようでずっと見られてる」
『育った母体型がここを通るのを待ちますか? その時であれば確実に道は開くと思いますが』
「そうだねえ……」
待つという選択肢。普段なら採用するところだが、今のカイトはテラポラパネシオたちを待たせている。エモーションの返事で落ち着いているならいいのだけれど。
「エモーション。君の感覚では、テラポラパネシオはあとどれくらい待てそう?」
『ふむ、そうですね……』
一縷の望みを賭けたカイトの問いは、残念ながら無慈悲に裏切られた。
『そろそろ我慢できなくなるのでは。いつ船団を引き連れてこの宙域に現れても不思議ではないかと』
「よし強行突破だ」
やむを得ない。
上で全面戦争が始まるのは構わないが、そうなるとこの場所は間違いなく騒がしくなる。全ての相手をするか、目の前のデカブツだけの相手をするか。そうなると選択肢はひとつしかない。
「エモーション」
『了解です』
腕を四本展開し、射出したサイオニックランチャーを装着する。
カイトがクインビーの台座に出てきた瞬間、デカブツはぎょっとした様子でこちらを見てきた。
「さあて、出来るだけ後ろには影響を与えない程度に吹き飛ばすとしようか」
『それを言うのがキャプテンでなければ、私は正気ですかと言っていたところです』
***
どれほど巨大であろうが、ルフェート・ガイナンはルフェート・ガイナンに過ぎない。クインビーの障壁を抜けられるだけの火力もなければ、攻撃を防ぎきれるだけの強固な防御力があるわけでもない。
後ろを吹き飛ばさないよう、カイトはデカブツの頭上に移動してサイオニックランチャーを斉射する。それだけでデカブツはその生命活動を終えて倒れ伏した。
「さて、あとは時間との勝負だ」
『後ろのルフェート・ガイナンたちは気付いたでしょうか』
「後ろだけじゃなくて、上の連中もね。そう思っておいた方が無難だよ」
『確かに』
デカブツが倒れて出来た隙間から、奥に潜り込む。
不思議なことに、その場所だけ何やら全体が蠢いていた。まるで生きているかのように。とはいえ、動きは随分と緩慢で、段々と弱まっている。
蠢く壁面の中央に、緑色に輝く部位があった。予想されていたサイズより随分と小さい。そして、そこかしこに齧ったような痕が見える。
「なるほど……。とっとと撃破しておいて正解だったね」
『キャプテン?』
「取り敢えず、この部分が宇宙ウナギの転移能力を司る部位だ。そしてその部位は、おそらく宇宙ウナギが生きていないと稼働しない」
『は? しかしこの宇宙ウナギは間違いなく死んで……まさか!』
カイトの視線は、底面に向いていた。まるで接続するかのように突き刺さっているのは、後ろ――すなわち先程のデカブツ――から伸びている尻尾じみた無数の管。
「あのデカブツが、この部位の周辺に自らを接続してこの辺りの部位だけを強制的に動かしていたんだ。まるで生きているかのように」
『寄生生物の面目躍如、といったところですか』
「元々あそこまで成長した体の大半は宇宙ウナギで出来ているんだ、不可能じゃないってことなのかもね」
そして部位の機能は目に見えて落ち始めている。つまり、あのデカブツさえ撃破してしまえば、転移機能を封殺することも出来るわけだ。
もしかすると、デカブツには近づいて来た個体を長距離転移させることが出来たのかもしれない。接続して機能と部位を掌握していたなら、不可能だとは思えない。
『キャプテン。撃破した個体に向かって、ルフェート・ガイナンが集結しています』
「エモーション、映像記録は残してあるね?」
『もちろんです』
カイトは慌ても騒ぎもせず、サイオニックランチャーを転移機能の部位に向けた。
齧った痕は、どうにかして機能を稼働させようとした当時のルフェート・ガイナンたちの行動の残滓だろう。
生き延びるために知恵を絞り、種を存続させるために手段を選ばず足掻く。なるほど、ルフェート・ガイナンもまたどうしようもなく生物だ。
「悪いとは言わないよ。君たちは実際、随分と上手くやっていた」
わずかに脈動が強くなった気がした。カイトは躊躇せず、サイオニックランチャーを発射するのだった。
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