探し物は何とまあ
見つけにくいものですが
カイトが向かった先では、テラポラパネシオがディ・キガイア・ザルモスに乗って待っていた。クインビーとカイトを待っていたわけではなく、ウヴォルスからの報告で『何も分からなかったこと』が報告されるまで、ルフェート・ガイナンに関わっているテラポラパネシオは現場を離れることはしないそうだ。
要するに、連邦としてはルフェート・ガイナンの解析にそれなりに本気ではあるのだ。ただし、それが連邦市民や連邦の観察下にある惑星の無事より優先されないというだけで。
まずは、ルフェート・ガイナンの反応を追うというのがカイトの最初の目算だ。連邦も公社も、反応のある場所をどれほど徹底的に破壊してもルフェート・ガイナンそのものを発見することは出来なかった。
「それを解明できない限り、僕たちは先に進むことは出来ない、というわけだね」
『その通りです、キャプテン。ですが、私たちにはこれまでの誰も持っていなかった視点でこの問題に取り組むことができます』
エモーションの言う通りだ。カイトとエモーションは、ルフェート・ガイナンが宇宙ウナギの体内に寄生している生物と同種であるという知見を得ている。これは、これまでのどの研究者よりも一歩進んだ観点だと言っていいだろう。そして、おそらくカイトとエモーションはこの宇宙のどんな有機知性体よりも宇宙ウナギについて詳しい。これは相手が宇宙クラゲであったとしても揺るがない事実だ。
知性体としての宇宙ウナギの思考形態を知り、彼らの中に巣食う寄生生物とも交戦している。だからこそ、ふたりはルフェート・ガイナンに対してこれまでと違うアプローチが出来るのだ。
『カイト
「まあ、それならそれでいいんじゃないかと思います」
『なに?』
「僕とエモーションが必ずしも正しいってワケじゃないですからね。僕たちは宇宙ウナギにちょっぴり詳しいだけで、ルフェート・ガイナンについては素人です。これまでになかった新たな角度からの実地調査をしてみようってだけで、それが続く研究を少しでも進められればそれでいいのではないかと」
『……うむ。カイト三位市民の言う通りだ。少しばかり結論を急ぎ過ぎたかもしれないな』
宇宙クラゲが恥ずかしげに言うのを聞き流しつつ、カイトは反応のある小惑星にクインビーを近づけた。最近はカイトとエモーションに対して、連邦の皆様からのご期待が少しばかり重い。
これを機に少しは過度な期待を寄せないでいただきたいところだ。
「とはいえ、それなりに成算があるのも確かなんだよね……っと」
『はい。ルフェート・ガイナンの生体機能として転移が出来るという推論よりかは多少確率が高い程度ですが』
何%が何%と比較されているのかは敢えて聞かないことにする。
カイトはクインビーの外に出て台座を踏みしめると、クインビーから
『それを調査するのかい、カイト三位市民。その小惑星からは確かにルフェート・ガイナンの反応が出ているが、微量すぎて誤差程度のように思われるが』
「ま、最初はそれくらいでいいんじゃないですかね」
どちらにしろ、最初から成功するとは思っていない。
実験なのだから、トライアンドエラーを繰り返して正解に辿り着けば良いのだ。
『それで、一体何をするつもりなんだい?』
「まずは環境を整えてみようかなと」
実験開始だ。
***
カイトとエモーションがルフェート・ガイナンと宇宙ウナギの寄生生物との関係性に気付いてから、収集した情報。
その中で分かったことも分からなかったこともそれぞれあるが、エモーションがひどくはっきりと言い切ったのがルフェート・ガイナンの『分業制』だった。
ルフェート・ガイナンには、知能はあるが知性がない。おそらく知性が発達することで何より『何も残さずに死ぬことを前提に生み出された個体』が、存在理由に疑念を持つことを防止しなければならなかったのだろうと見る。
ルフェート・ガイナンは分業制の中で、明確に宇宙ウナギに寄生する個体を優先している。たとえば知性体に寄生して戦闘生物を生み出す『幼体』はハッキリと使い捨てで、戦闘生物も幼体も星への寄生能力は持たない。
エモーションが注目したのは、彗星擬態型機動母体の発光現象だ。これが宇宙ウナギに強い誘因性を持っていると仮定しているのだが、同時に発達した知性体からの攻撃というリスクを負う。エモーションの仮説では、幼体の射出は発光自体を長時間化するための時間稼ぎであり、幼体もまた知性体からの攻撃を分散するための使い捨て。あわよくば惑星に落下し、惑星内で知性体が発生していたらその個体数を減少させるべく暴れさせる役割でしかない。
だとすれば、発光した時点ではもっとも重要な役割は既に果たし終えているのではないか。
エモーションの推測は、機動母体が辿ってきた経路に既に主要な寄生生物の種がばら撒かれている、というものだった。
***
「僕たちの考えが正しいならば、彼らは自分たちのほんの一部が宇宙ウナギに辿り着けば良いと考えている」
『一部?』
「ええ。知性体に観測されて寄生先の小惑星が破壊されることも、彼らは生存戦略の中に組み込んでいるのではないかと思いまして」
『その割には、破壊しても出て来なかったが』
「ええ。運悪く破壊された寄生生物は、岩石に擬態したまま死ぬことさえ義務付けているとしたら」
『馬鹿な。それでは』
「すべては一切の証拠を残さないために。連邦の技術すら搔い潜ったのだとすれば、連中も相当に優秀ですよね」
『まさか。さすがにそんな推論は信じられない』
「ですよね。僕も半信半疑……いや、疑いの方が相当に強いかな。そういう意味ではこの実験が失敗してくれた方が嬉しいですよ、僕は」
宇宙ウナギに捕食される。そう確認できる状態になるまで、絶対に本性を表さない。その結果として自分という個体が死亡することになったとしても、隠し通す。
自我や個性を持っていたら、確率が低下するだけではない。逃げ出す個体が現れてしまえば、そういう生態であることを看破されてしまうリスクさえある。
徹底した秘匿。最終的な目的が『宇宙ウナギへの寄生』だと知っていなければ、予想すらしない。
「たった一匹のルフェート・ガイナンが、宇宙ウナギの内部に辿り着きさえすれば良い。それ以外のすべてを使い捨てにする覚悟でいるのではないかと、僕たちは疑っているわけです」
働きバチで小惑星をぴったりと覆い、超能力で圧と熱を付与していく。
宇宙ウナギの体内は高温だ。あれだけの熱線を吐き出すだけの熱量が体内にあるのだから、ルフェート・ガイナンもまた高温に強いと見るべきだ。
宇宙ウナギが捕食した小惑星が、飲み込まれた先で体内の熱と圧力を受けてどうなるのか。それをイメージしながら熱と圧をかけ続ける。
小惑星を構成する岩が溶け始めて、宇宙ウナギの体内に吸収され始める頃。岩石に擬態していたルフェート・ガイナンはその形を再構成するのではないか。
「そんな推測は……」
がつりと。内部から働きバチを叩く感触。カイトは思わず天を仰いだ。
「――正しかったようだね、エモーション」
『はい』
働きバチ同士の接続を解除する。熱と圧で溶岩と成り果てた小惑星が急速に冷えて固まる中。
あまりにも間の抜けた姿で、ルフェート・ガイナンがぽつりと働きバチの上に乗せられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます