侵略彗星生物ルフェート・ガイナン

救援要請はいつだって唐突に

それは彗星のような何か

「ねえ、エモーション」

『……回答を拒否します』


 つれない発言だ。

 グルメ旅行が一時的にキャンセルされたから、というのが最大の理由だろう。カイトのせいではないのだが、理屈ではないらしい。

 次の旅行先をどこにしようかと検討していた二人は、連邦議会からの急な呼び出しを受けた。緊急とのことで、グルメ旅行を一旦切り上げて急な出張をする羽目になったのだ。

 クインビーは完全戦闘態勢で待っている。連邦に限らず、観測され次第即時撃滅を義務とされる敵性生物の駆除が今回の依頼である。


『私は疑問です。もしかしたら地球人というのは、時折の異種族の記憶を持って生まれてくる個体がいるのではないでしょうか!』

「うん。それは僕も疑わしくなってきたよ」


 彼らが待ち受けているのは、複数の彗星。一定の軌道を周回するものではなく、突然現れては恒星系に向かって飛翔し、軌道上の小惑星や惑星に奇怪な生物をばら撒いていく。

 コミュニケーションは取れない。戦術・戦略を理解出来る程度の知能は持ち合わせているにも関わらず、あらゆる知性体との交流を拒絶するからこそ敵性生物と認定された。

 見た目は古典SFでそれなりに言及されてきた、クリーチャー。

 顔を熱烈に抱き締めてきそうなやつの親玉が、彗星の中から無数に湧いて出てくるのが見えた。


「彗星に擬態して宇宙空間を移動して、星に近づくと仲間をばらまいていく……随分と傍迷惑な生物だこと」

『生物の有無には関わらないようですが』

「あれじゃない? 資源採掘に来たマヌケな知性体に寄生するとか」

『……なんかその通りのことになりそうなので止めませんか、その話』

「了解ッ」


 バラバラと吐き出される生物群に、カイトは展開した働きバチワーカーズを差し向けた。面制圧にはサイオニックランチャーより働きバチの方が向いている。破壊力は低いが、超能力で強化された鋼板は生物群をただの物体に変えていく。

 取りこぼした個体については、惑星の軌道付近に控えていた連邦の船団が容赦ない攻撃を加えていく。

 一体たりとも惑星に到達させてはならない。

 と、彗星のひとつが前ぶれもなく破裂した。跡形もなく吹き飛び、そこには何も残っていない。

 ディ・キガイア・ザルモスだ。カイトの後方にいた宇宙クラゲが、次々と彗星を粉砕していく。


「……テラポラパネシオが戦闘しているシーンを見るの、初めてかもしれない」

『そう言えばそうですね。あれは何をしたのでしょう』

「多分、包んで握りつぶしたんだろうね。こう、ぐちゃっと」


 拳を握り締めるジェスチャーを見せると、エモーションは素朴な疑問を口にしてくる。


『キャプテンは出来ないんです?』

「僕は形のない力を制御するのは得意じゃないんだよね」


 だからこそ、サイオニックランチャーや働きバチを使っているのだ。働きバチである程度輪郭を定義すれば力場を制御出来るので、結局は想像力の問題なのだろう。

 ともかく、彗星の破壊は完了した。周囲にばらまかれた怪生物もすべて撃破できたことを確認する。


「さて、これでおしまいかな?」

『そうですね。それでは次の行き先を――』

『いや、まだだ。カイト三位市民エネク・ラギフ、まずは協力感謝する。これまでになく安定した駆除が出来たよ』

「……ええと」


 エモーションとの会話に通信で割り込んできたのは、テラポラパネシオだった。相変わらず非常識な宇宙クラゲだ。どうしたらカイトとエモーションの会話に通信で割り込むなんてことが出来るのか。


「まだ、というのは?」

『他のわれわれが、現在連中の発生点を特定しに向かっている。観測されるまでの間にあれが通った経路を探りつつ、ばらまかれた卵があれば駆除しなくてはならないのだ』

「卵」

『うむ。連中は知性体に寄生して仲間を増やす生態があるのだ。連邦もこれまでに数回、連中が原因となった惑星の壊滅に直面したことがある』

「そ、そうですか」


 人間に卵を産み付けて、仲間を増やす。何だろう、どこかで聞いたような見たような。

 本当にかつての地球人の中に、別の惑星の生物の記憶を受信していた人物がいたのではないか。カイトとエモーションは、割と真剣に悩むのだった。

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