狙うは大物
轟沈した大型船から、
戦闘に使う働きバチは消費が早い。そもそもこの後に大物が控えている、働きバチはどれだけいても足りない。
『キャプテン。サイオニックランチャーを射出しないのですか』
「使いたいのは山々だけどね。この状況でそれまで使うと、適当な間引きとは言えなくなると思うんだ」
『確かに』
ディーヴィンに関しては、ちょっとした用事がある。出来るだけ数を減らさずにおきたいのだ。
周辺には連邦の精鋭がいる、ディ・キガイア・ザルモスもいる。この数を相手に旧式船の多いディーヴィンでは数を減らす一方だ。
とはいえ、あまり近づくと人工天体の主砲が飛ぶ。当初はサルンザレクが人工天体に当たる予定だったが、ディーヴィンもそれを警戒してだろう、明らかに多数の船をサルンザレクに差し向けていた。
カイトは、何となくあの人工天体は自分がどうにかしなくてはならないと察していた。おそらく、あれこそがディーヴィンの最後の拠り所だからだ。
本来の役割は、皇王の捕縛である。しかし、どうしてもあの人工天体が気にかかるのだ。超能力によって鋭敏化した勘が、あれを無視してはいけないと伝えている。
「ま、どちらにしても」
テラポラパネシオによる包囲は完璧だ。包囲が解除されない限り、ディーヴィンが逃げを打つことは出来ない。
カイトは自分を狙ってくる周囲の船に対して、遠慮なく働きバチを向かわせる。人工天体の中をエモーションがスキャンしようとしているが、かなり強力な妨害がかかっているようでまだ調べられていないようだ。
「皇王は後回しで構わない。まずはあの人工天体を落とすとしようか」
『大丈夫ですか? サイオニックランチャーがないと火力が足りないかと思いますが』
「ま、何とかするさ。あれがいる限り、包囲していても不利を強いられるようだ」
要塞級の人工天体がある以上、連邦の船と言えどディーヴィンを撃沈出来る間合いまで近づきにくい。自然と、人工天体の周辺は船が少なくても対応可能になる。その一方で、ディーヴィンはサルンザレクに多くの戦闘艇を振り分けることが出来る。
自然と、戦局はサルンザレク側に偏る。サルンザレクの護衛に入った船とディーヴィンの船が入り乱れ、混戦模様だ。これではサルンザレクが火力を発揮できない。
クインビーは中央、ディ・キガイア・ザルモスには王族船が貼りついている。攻撃ではなく、包囲だ。サルンザレクの応援に向かわせないようにしている。連邦にとって、王族船に乗っているスタッフは撃墜対象ではなく捕縛対象だ。自然と、攻撃の手は緩めざるを得ない。
全面戦争にはしたくないからと、ディ・キガイア・ザルモスの数は少ない。その隙を衝いてきたようだ。
『なるほど。ディーヴィンの被害は外周部分が多いですね。連邦の被害は軽微とはいえ……』
「思ったより膠着しているだろ? 向こうの意図をどう見る?」
働きバチが小型の戦闘艇を完全に包み込んだ。カイトはクインビーを急進させて強引に接続を図る。そのままこちらに砲口を向けている大型船に突進し、激突。
びりびりと衝撃が伝わる。カイトは委細構わず、そのまま大型船にも働きバチを向かわせた。
エモーションが船のコントロールを奪取し、そのまま大型船も船首として接続してしまう。中にいるディーヴィン人たちは生きた心地がしないだろう。
『当たり前のことですが、彼らは自分たちが包囲されると理解しているはずです。逃げ場がない』
「逃げ場がないのに、皇王を始めとした貴種を他の場所に隔離していない」
捕まえた大型船よりも巨大な船を探す。王族船は却下だ。
『そして、人工天体の優位を生かしつつ、戦場を限定している。キャプテンが出てきた時点で、皇王が居場所を晒した……』
「まさに抵抗だね。自分たちの言葉どおりだ」
見つけた。小型の戦闘艇を収容して補給を行う船だろう。公社の支社長級には届かないが、見える範囲では極めて大きい。
『キャプテンへの攻撃は熾烈ではありますが、それなりに距離を取っています。人工天体の間合いですから、本当に殺すつもりならば撃てば良い』
「ロックオンアラートは?」
『ありませんね。あれの砲には火が入っていない』
なるほど、現時点では見掛け倒しか。サルンザレクが接近してきたらどうするのかという疑問はあるが、少なくともカイトとクインビーを狙うつもりはないと。
「皇王の乗っている王族船まで、護衛をすり抜けられるルートはあるかい?」
『……ありますね。複雑ですが三つほど』
「なら決まりだ」
カイトは決断を下した。クインビーの船首――に接続している三隻を、ディーヴィンの人工天体の方に向けた。
「おそらく、ディーヴィンの弱点はあの人工天体だ」
『その心は』
「皇王を乗せていない。皇王は極めて重要だけど、必須ではないんだと思う。人工天体から意識を逸らそうとしているんじゃないかな」
ぐ、と加速を開始する。砲撃が不可解なほどに激化した。やはり狙いは正しいようだ。普通、護衛をすり抜けられる空間など用意しない。つまり、皇王は囮だ。
皇王を捕縛した時点で、ディーヴィンは降伏する。頑強に抵抗すれば抵抗するほど良い。そして人工天体には居住施設しかないと言い張れば、武装解除や対応は後回しにされかねない。
そして、連邦が包囲を解除した時点で、どこかに転移を図る。おそらく人工天体ごとではなく、必須とされている中身だけが。気付いた時にはどこかに逃げおおせている。ディーヴィンにとって再起を計れる可能性がある、唯一の策だ。
「そうか。あそこにきっと蘇生装置があるんだ」
『なるほど!』
強烈な障壁が展開される。凄まじい規模だ。船首の先頭にある輸送艦が瞬く間に削り取られた。カイトのサイオニックランチャー対策と言うより、サルンザレクの主砲対策だろう。
何発か防いだところで、天体内部にいる非戦闘員のために降伏すると言い出す。連邦側はおそらく疑わない。
大型船も削り取られた。だが、障壁がほんの少しだけ弱まる。カイトはそのままクインビーを加速させ、障壁に突っ込むように力を込める。
干渉による光が消えた。障壁を戻そうとするエネルギーを、残った働きバチを展開して防ぎながら潜り抜ける。
「吶喊!」
『あいあいさー!』
最後に残った船首――小型船を人工天体の壁面に叩きつける。壁面を滑らせるように圧をかけながら、小型船を人工天体ですり下ろしていく。
爆発。カイトは船首を返すと、一気に数を減らした働きバチを爆発した箇所に殺到させた。ついでに四散した小型船の破片で働きバチを補充するのも忘れずに。
『やめろ、止めろぉーッ!』
皇王からの通信がねじ込まれた。やはり我慢できなくなったようだ。
そしてとうとう、人工天体の壁面に穴が空く。カイトがクインビーを中に躍らせると、案の定そこには外側より遥かに小さい球体が浮かんでいた。月か小型の太陽のように発光している。外壁の内側には偽装のつもりか、街並みらしき建物が並んでいる。人工天体の内側に居住区を造ったか。生体反応はほとんどない。老若男女問わず船に乗って連邦と戦っているということだ。
「皇王ヴォルパレック。返答を聞こうか」
『な、何だ?』
「今すぐあの、太陽みたいな球体を破壊してみせようか」
『何を……!?』
ヴォルパレックの声に、強い動揺が交じる。
カイトはまだ連邦の通信網が生きていることを確認してから、言葉を続ける。
「街並みは動かすことができそうにないが、あの球体だけなら単体で転移が出来そうな気がするんだよ。どう思うね?」
『貴様……やはり知っているのか!』
「何のことだい。君が分かりやすくあの宮殿で指示を出さない理由が、あの球体にありそうだということかな? 取り敢えず撃ち落としてみようか。そうしたら中身が何か分かるかもしれない。たとえば蘇生装置とか」
『よせ……分かった』
敗北感と、絶望と、脱力。
まるで何十歳も老け込んだように、ヴォルパレックが跪いた。
『降伏する。ディーヴィンは全面降伏する。だからあれを……あれを破壊するのだけは止めて欲しい。頼む』
「了解。聞こえていますか、ニジェリオ代表」
『聞こえています。全船、戦闘行為を停止。戦闘行為を停止。この後攻撃行為に及んだ者は、勢力の別を問わず撃沈します』
表の様子は見えないが、通信網からは怒号などは聞こえてこない。不埒な真似をする船はいなかったようだ。
武装解除が始まる前に、球体の処理を終わらせなくてはならない。
「では、あの球体が転移しないようにしてもらおうかな、皇王どの?」
『分かった。分かっています。ですからどうか』
と、カイトとクインビーの眼前に突然船が現れた。ディ・キガイア・ザルモスである。
『心配はいらない、カイト
「頼もしいことです。ありがとうございます」
『あ、ああ……あああ!』
絶望の呻きを漏らしながら、ヴォルパレックが地面に突っ伏した。背後に見えるディーヴィン達も同じように。
どうやらまだ、どうにかして球体を逃がす算段を用意していたらしい。まったく、往生際の悪いことだ。
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