地球と呼ばれる星々
ややこしい話をするときは、アシェイドの執務室へ。そんな流れが定番化しつつある。いちいち議会と関わるような事件は遠慮したいカイトだが、今回に限っては自分から突っ込んだ頭だ。
普段より足取り軽く、アシェイドと議員のテラポラパネシオの下へ向かう。
「やあ、来たね」
「大して手間でもないから気にしないでくれ。とはいえ、いちいち呼び戻された理由については教えてもらえるんだろうね?」
「もちろんだ」
アシェイドはそう言うが、そのままじっとカイトを見て中々切り出さない。
視線を、少し後ろに浮かんでいるテラポラパネシオに向けると、分かっているとばかりに触腕をぽんとアシェイドの肩に置いた。
『アシェイド議員、カイト
「嫌ですよ。こういうのは議員として永い方が言うべきなんじゃないですか?」
『何と横暴な! それでは君をこの場に同席させた意味が!』
「やっぱり! 自分が言いたくないからって私を使おうとするの、止めてくれませんかねえ!」
ひどいぱわはらをみた。
とにかく、ふたりは随分と言いづらそうにしている。
カイトには心当たりがないのだが、アシェイドとテラポラパネシオの両方が言い出さないということは、これは連邦のやらかしなのだろうか。
と、カイトが考えている間に決着がついたらしい。アシェイドが渋々ながら口を開く。
「君も知っていると思うが、ディーヴィンが関与した星々を連邦の直轄地とした。ディーヴィンを追い出して、ね」
「それは知っているよ。それが?」
アシェイドが自分の手元の端末をカイトに差し出した。映し出された映像に、既視感を覚える。カイトが追放刑に処される前の地球の様子だ。
「懐かしい映像だね。エモーションに残っていた映像かい?」
「これは、ほぼリアルタイムに中継されている光景だ。もちろん、君の地球ではないよ」
「何を馬鹿な。それならどこの映像だというのさ」
「実は、他の星々でも自分たちのことをアースリングと呼んでいるんだ」
「……はぁ?」
***
「事態が発覚したのは、すべての星々にディーヴィンが干渉していると明確になってからなんだ」
『基本的には、罪の子たちの星々については滅亡を確認したあと、滅亡したという事績だけを報告書に上げる運びになっていた。連邦にとっては拭いがたい罪であるから、どうしても直視したくない部分はあってね』
カイトたちの住んでいた地球についても、連邦はあまり深く観察しなかったと聞いている。気まずくて詳しく踏み込まなかったと言われれば、反論は出来ない。
カイトが気になるのは、テラポラパネシオが観察者をしているにも関わらず、情報が共有されなかったのだろうかということだ。
それを聞くと、宇宙クラゲは返答に困ったらしく空中に浮かんでふよふよと部屋を一周する。毎度思うが、何で返事に困るとそれをやるのだろう。
『いや、我々が観察の責任者として赴任していたのはゾドギアだけだったのだ。このような……と言っては今では語弊があるが、当時は同種の業務にそれぞれの個体が関わる必要はないと判断していたのでね』
まあ、それは分かる。
当時は滅ぶ星々を観察するだけの作業という側面だったはずだ。いくらいても足りない宇宙クラゲを何体もそこに貼りつかせるのは非効率極まりない。カイトが同じ立場でもそう判断しただろう。
そういう意味では、カイトとテラポラパネシオの出会いは、思っていた以上に劇的なものだったということになる。
「それは、僕たちにとってもテラポラパネシオの皆さんにとっても随分と幸運だったようで」
『まさにそれだ。実際、他の『地球』にはクラゲは生息していなかった。無念極まりない』
「テラポラパネシオ。話がズレてる」
『おっと、そうだった。どうやら連中は、全ての惑星に同じように進化・文化の面で干渉していたようだ』
つまり、ディーヴィンは何か意図をもって『地球』という星を作ろうとしていたということになる。
カイトたちの地球もそのうちのひとつ、ということか。なんともおぞましい話だった。顔をしかめるカイトに、テラポラパネシオがキーワードになりそうな単語を出してくる。
『リ・エーディン計画』
「何です? それ」
『捕縛したディーヴィン人の何人かの思考を読んだ時に共通していた単語だ。内容までは詳しく読み取れなかったがね。どうやらディーヴィンの王族が主導している計画であることは分かったが、詳しい内容までは不明だ』
「ディーヴィン人はリ・エーディン計画の遂行の一環として、自分たちを『地球』と名乗る星々をデザインしていた。どうやらそういうことらしい」
アシェイドやテラポラパネシオが言いたがらないのも分かる。口にするだけで心が汚れそうな話だ。
「通常の入植方法では文明が滅ぶことについては、ディーヴィンの追放前には結論が出ていた。そのため、命の入れ替えによって最初から自分たちに都合の良い居住惑星を造る。そういう目的だったのではないか、というのが議会の分析なのだが」
「ふむ」
一応、筋が通りそうな話ではある。
ディーヴィン人たちは、自分たちの正しさを証明して連邦に再加入したいと思っていたようだ。結局のところ、命の入れ替えを行われた星々はその実験に使われたわけで。
「エーディン……
いや、まさか。
あまり認めたくない方向に思考が向かったので、頭を振る。だが、否定できる根拠もない。不愉快だが排除はせず、頭の片隅に置いておくことにする。
だが、ディーヴィンの行動が見えてくると、ダンたちの素性が何となく透けて見えてくる。
「彼らはその、別の地球からディーヴィンを攻撃しようと宇宙に出た面々ということでしょうか」
『いや。我々が保護下に置いた他の地球は、まだ宇宙開発が出来るほどの科学力を有していない。連邦の誰かが手を貸した可能性もゼロではないが、彼らは『地球が破壊された』と言っているのだよな?』
「あ、そうか。連邦の管轄下にある惑星を破壊するほど、ディーヴィンも向こう見ずじゃないですね」
これで、連邦に所属している地球人は誰も対象ではなくなってしまった。
地球が破壊された。敵討ち。その主張が嘘である可能性を考え、あの悲愴感は嘘ではないなと可能性を打ち消す。
「つまり彼らは、連邦の勢力圏外で作られた別の『地球』と、その生き残り……」
「おそらく、そういうことだろう。問題は、ディーヴィンが何を考えて惑星ごと破壊するなんて暴挙に出たのか……?」
ふと嫌な予感を覚えた。カイトは不安を押し殺しつつ、アシェイドに質問する。
「ところで、アシェイド。その……他の地球に居座っていたディーヴィン人たちは、全員捕えたのか?」
「いや。それなりの数をとり逃がしてしまった。それがどうかしたかい?」
「ううん……そうかあ」
アシェイドの回答は、カイトの不安を掻き立ててきた。
口にすべきかどうか迷ったものの、隠すような話でもない。確認するかのように、アシェイドに告げる。
「要するに、連邦がディーヴィンのプロジェクトに強い反感を持っていることは、彼らにその時点で伝わったってことだね?」
「!?」
ディーヴィンは連邦からは追放されたものの、地球の進化誘導については結果で自分たちの正当性を見せろと黙認されていると思っていたのではないか。それが、カイトが接触したことでディーヴィンの地球への干渉自体が進行形のものだと知ってしまった。連邦の勢力範囲外に地球があるということは、追放後にも同様の実験を行っていたということになる。
ディーヴィンが、それを連邦が知ってしまうことを恐れたなら何をするか。
もしかすると、ダンたちの地球が破壊されてしまった遠因はカイト自身にあるのかもしれない。
「カイト。それは君の責任ではないと思うが」
「そりゃ、責任のすべてはディーヴィンにあるでしょうよ。けどなあ」
何というか、恨みつらみのひとつくらい受け止める筋合いはあるのではないだろうか。そんな風に思っただけだ。
「ま、ちょっと話を聞いてみないといけないかな。これは」
中央星団に戻る前にはちょっと面倒だと思っていたものだが。
戻ってきて良かった。カイトはいま、心からそう思っていた。
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