戦場に上がる前に、準備は済ませておきたいところ
迎撃は無事に完了した。しばらく様子を見たが、追撃が来る様子はない。
タールマケの船団と連邦の船団が睨み合いをしているのであれば、セガリ・ググ達は地上の様子に気を向けている余裕はないはず。一応エモーションに警戒を続けさせつつ、カイトは地上に散乱している船の残骸に目を向けた。
「さて、上からスタッフが来られないなら、これの処分も僕らがした方が良いだろうね」
『そうですね。どうします?』
エモーションは、ジョージがサイオニックランチャーを発射する前にクインビーに戻っている。
残骸の一部は消費した
ひとまず残骸の山を浮き上がらせ、働きバチで包み込んで圧縮していく。
「このまま資源にしてもいいけど、せっかくなら何かに使うのもいいかもね」
『施設がないと、あまり大したものは作れませんよ』
「大したものというと、例えば?」
エモーションがつらつらと挙げる候補を聞き流しながら、どうしたものかなと考える。連邦に身を寄せてからというもの、経済的に苦労していないので売って路銀の足しにするという考えはあまりそそられない。
と、エモーションが挙げていた中に興味を惹くものがあった。ちょっと待ってと止めてから、聞きなおす。
「え、それも作れるのかい」
『はい。その船の残骸で作ることは可能です。キャプテンのことですから欲しがるかなと思いまして』
「正解。それはいいね」
さすがエモーションと褒めながら、一旦圧縮した残骸をもう一度展開する。
指定された部品を取り分けつつ、何の気なしに問う。
「それで、いくつ作れそうだい?」
『いくつ、ですか? 作ろうと思えばそれなりの数は。ですが、それほど故障するような機構ではありませんし、複数あっても邪魔なだけでは』
「そんなことはないさ。ああ、それなら少し大きくしてもらおうかな」
『確かにあれは性質上、一度取り付けたら外せないようになっています。なるほど、毎回壊して取り外すおつもりで?』
「そんなもったいないことはしないよ?」
『?』
疑問符を浮かべるエモーションに、カイトは笑顔で用途を説明する。
エモーションは最近カイトの発想に随分と慣れてきているが、こうやって予想を上回ることが出来ると何だか嬉しい。
『……なるほど。理論上は可能ですね。キャプテンは本当にとんでもないことを考えます』
「お褒めに与り光栄だね」
『褒めてはいません』
きゅるきゅるきゅるとわざとらしく音を出しているから、本当に褒めてはいないみたいだ。
***
エモーションによる製造が完了しても、ジョージは目を覚まさなかった。バイタルとメンタルの数値は安定しているから、気絶から熟睡に入っただけのようだが。
結局、カイトの要望で造られたパーツは五つとなった。一つを壊れた時の予備に回すとして、普段使うのは四つ。バランスもいいだろうとカイトはご満悦だ。
残った残骸は出来るだけ圧縮して、持って行くことにする。上の戦闘の状況次第で弾頭にしても良いし、余ったらトラルタンのスタッフに譲っても良い。
『キャプテン。ほんのわずか、残骸の反応が』
「おや」
と、エモーションが取り残しを報告してくる。カイトは顔を下に向けたが、特に取り忘れたものがあるようには見えない。
ネジくらいの小さな残骸でも残っているかなと、一旦地上に降りる。
残骸の周囲を見回すが、特に何かが落ちているようにも見えない。首を傾げたところで、視線が小さな影を捉えた。
「おや、君は」
「!?」
ダミアンに捕まえられていた子供のリザードマン(仮)だ。正面からしっかり見ると、中々愛嬌のある顔立ちをしている。
その小さな両手は、何かを包むようにして握られている。
こちらを見ている視線に恐怖の類は感じられない。ただただ異邦人であるカイトを珍しがっている。
「ぎぁっ! ぎゃあう!」
と、別の方向から鳴き声のような叫び声。そちらを見ると、同じく子供のミノタウロス(仮)がこちらに駆けてくる。こん棒のようなものを振り回しながら、カイトに殴りかかってくる。
「おっと」
身体改造を受けているカイトにとって、その打撃は特に恐ろしいものではない。軽く受け止め、様子を窺う。
ミノタウロス(仮)は、どうやらリザードマン(仮)に何かを喚いているようだった。逃げろとでも言っているのだろうか。彼らは敵対していたのではなかったか。
首を傾げるカイトの横で、リザードマン(仮)は少しばかり甲高い声で鳴いた。意志疎通が出来ているのか、ミノタウロスは驚いたような顔をすると、カイトを攻撃する手を止めた。
「ぎぁ、ぎゃあう?」
「シィッ、シャシャッ」
「ぎあう」
やはり会話が成り立っているようだ。
親同士は殺し合っているが、子供同士は仲が良いのだろうか。
「おっと」
そこまで考えて、慌てて思考を散らす。彼らの社会に踏み入るつもりはないのだ。これ以上考えると、肩入れしたくなってしまうかもしれない。
と、リザードマン(仮)がこちらに両手を差し出してきた。その掌には、紫色に光る鉱石のようなものが乗っている。
「これは……エモーション、分かるかい」
『はい。船に使われている思念受容体の破片ですね。船の操作をサポートする目的で広く搭載されているものです』
「なるほど、これが反応していたんだね」
エモーションの説明によると、これを駆動系に仕込むことで、船をどう動かしたいかというイメージを船が読み取るのだそうだ。これだけで船を操作するのは難しいが、万が一の事故を減らすのには随分と役立つのだとか。
おずおずと差し出されたそれを受け取ろうとして、カイトは手を止めた。リザードマン(仮)はこれを何故差し出そうとしたのか。こちらに何かを求めて、その対価にしたいと思っているのであれば。
「エモーション。これはこの子供たちに有害だったりするかい」
『いえ。有機生命体にも珪素生命体にも無害です。ご心配には及びません』
「そう。それならこうしよう」
カイトは破片を受け取ると、力を込めてそれを二つに割った。
驚いた顔をする二人の手に、一つずつそっと握らせる。
「これからも仲良くするんだよ」
「!」
どうやら、破片を通じてカイトの言いたいことが伝わったようである。本来の使い方ではないだろうが、超能力と奇妙な反応でも起こしたか。
じっと純真な目でこちらを見る二人に内心で閉口しつつ、カイトは体を宙に浮かせた。
あ、と驚く顔をする二人に構わず、隠形をかけていたクインビーの上に乗る。
『よろしいのですか、キャプテン』
「さあ、なんのことかな? 僕は純真無垢な子供たちが宝物にしていた宝石を割ってしまっただけだぜ。悪人として糾弾するならともかく、ね」
『まったく』
残ったのは、あまり意味をなさない結晶の破片だ。これが原因でふたつの種族が滅ぼされるほどのことはないと思う。記憶の処置くらいはされるかもしれないが、問題になるようなら後でァムラジオルに口を利いておこう。
「反応は確認できないほど小さい破片だったみたいだね。これ以上は僕たちには対応できそうにない。行こうか、エモーション」
『分かりました』
エモーションの口調が、少しだけ笑いを堪えているように感じたのは気のせいだろうか。
カイトはクインビーの隠形を一時的に解除すると、驚いた顔をする子供たちの上をぐるりと回ってから、空の上へと発進するのだった。
『まったく。キャプテンは子供には甘いですよね』
「もちろんさ。キャプテンって名がつく奴は、いつだっていたいけな子供たちの味方なんだぜ?」
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