白兵戦は専門外!
重装甲VS超能力
「どぉわあああっ!」
木々をなぎ倒しながら突っ込んでくるセガリ・ググを、カイトは正対して受け止めた。勢い負けして樹木に叩きつけられるが、障壁を張っているから痛みも衝撃もまったくない。むしろ悲鳴を上げたのは近くにいたジョージとカルロスだった。
それがセガリ・ググにも分かったのだろう、チッと舌打ちらしい音を立てて、腕を振り回す。障壁にぶつかった腕は、空しく弾かれた。
クインビーに乗っていないから、今のカイトの超能力は増幅されていない。だが、増幅がなくても、セガリ・ググの打撃力ではカイトの障壁を破壊するのは不可能だ。
突如始まった戦闘に混乱していたジョージだったが、状況を理解したのかしていないのか、カイトの方に駆けてくる。カルロスを置いたまま。勘弁して欲しい。
「て、手伝うぞキャプテン・タイト!」
「いいからカルロスを連れて船へ急げ。間違ってもサイオニックランチャーなんて撃つなよ」
「何で!?」
「君な、それで一撃で彼を倒せる保証はあるのか」
「威力は間違いないぞ! 何しろ船くらいなら軽く破壊できる」
「そりゃ凄い。問題はそっちじゃない。あの重戦車に間違いなく当てられる自信があるのかって話だ」
セガリ・ググは重いうえに速い。ある程度近くなければ避けられるだろうし、近すぎれば銃身に手が届いてしまう。
その距離感を間違いなく測れるほど、ジョージがサイオニックランチャーに習熟しているとはカイトには思えなかった。
「万が一にも避けられてみろ、僕ひとりで動けなくなった君とカルロスを連れて、あれと戦えっていうのか?」
「うっ」
「申し出はありがたいがね、今はとにかく全員で逃げるのが最適解だ。さっさと行ってくれ!」
「わ、分かった!」
うっかり外した時や威力の調整をミスをした場合も問題になる。何しろこの惑星に住む知性体たちが見たこともないような破壊が発生するのだ。近くで争っていた連中まで巻き込んだりしたら、本人のトラウマはいかばかりか。
カイトはジョージを戦力として数えるのを明確に放棄し、使い道をカルロスを連れて逃げることだけに限定する。本人も納得したようで、カルロスの手を引いて走り出す。あとは道に迷わないでくれと願うばかりだ。いや、マジで。
「ま、そうするよ……なっ!」
セガリ・ググは特にこちらの判断を責めなかった。足元に置いてある石ころを拾い上げて、ジョージとカルロスに投げつけただけで。
一心不乱に逃げる二人は投石に気付かなかった。背後に張ってあった障壁に防がれたからだ。
「手癖が悪いのは良くないな」
「……そりゃそっちも同じだろ」
カイトは手近な樹木の枝を一本拝借し、超能力を込めて投擲していた。こちらはセガリ・ググの右手首に突き立っている。装甲と装甲の隙間を刺しているのだが、痛みを感じているようには見えない。
枝を引き抜いても出血ひとつない。この異星人の内部構造が気にかかるところだが、どうやら急所を狙わないとダメージにもならないようだ。
「馬鹿みたいに堅え障壁と、テラポラパネシオの連中と同系統の能力、ねえ。てめえ本当に偽物か?」
「どう思う?」
「……いや、始めちまった以上関係ねえ、か。悪いな、気の迷いだ」
「ああ」
セガリ・ググは軽く首を振ると、再びこちらに突進をしかけてきた。障壁で受け止めるが、止まらない。球状の障壁を展開しているので、こちらも踏ん張りが効かないのだ。
一瞬障壁を解除しようかとも考えるが、却下。解除したからと言って止められる質量差と威力ではない。この状態でジョージたちを追いかけるつもりかと警戒したものの、彼らの気配とは離れていく。ひとまずは安心だ。
だが、カイトはこの時失念していた。この星にいるのは自分たちだけではないということを。
「!?」
生命の気配が複数近づいてくる。違う、近づいているのはこちらだ。
まずい。カイトは一瞬で思考をまとめると、障壁を一時的に解除した。圧力が消えて、セガリ・ググが一歩だけたたらを踏む。
「食らえ!」
向かってくる顔面に向かって、膝を加速させて叩き込む。
顔が跳ね上がるのと同時に体を浮かせ、掴みかかって来る手を避ける。最初から、一撃は覚悟していたか。さすがのタフさだが、それでも多少のダメージは入ったようだった。
「ちっ」
「危ないことをするね。掴まれたら折られていた気がするよ」
「……言ってろ」
セガリ・ググがごきりと顎の辺りを鳴らした。思った以上に効いていないのが分かる動き。
そもそも、生身を相手に格闘戦をするのは専門外なのだ。出来れば超能力で範囲外からやっつけたいところだが、この状況ではそうも言っていられない。
「障壁で防ぐのは終わりか?」
「やれなくはないがね。あまりこの星の環境を破壊したくないんだ」
「……なるほど。そういやここは連邦の観察惑星だったな。ふうん」
何か得心したように、セガリ・ググは周囲を見回した。さすがに悪党の歴も長いだけあって、頭の回転も速い。気付いたようだ。
「てめえを相手にそういうのは興が冷めるが、こっちも仕事なんでね。利用させてもらおうか」
「させると思うかい」
「ま、俺だけじゃ出来ねえな。ただ、てめえと違ってこっちには数がいてよう」
そう来るだろうとは思っていた。気配が一つ、おっかなびっくりこちらを追いかけてきているのが分かっていたからだ。
「ダミアン! てめえ、ちょっと行ってここの原住民を一人捕まえて来い!」
「わ、分かりました、ボス!」
ち。軽く舌打ちひとつ。位置は掴んでいるが、ここでセガリ・ググを放置してはおけない。ダミアンを止めにいけば、今度はセガリ・ググが同じことをする。成功率で言えばセガリ・ググの方が高いし厄介だ。
早めに決めないといけない。セガリ・ググさえ無力化すれば、人質を持っていようとダミアン単体を相手にするのは難しくない。
「白兵戦は専門外なんだけどね」
「嘘つけ」
「事実、さッ!」
加速しての膝蹴りでも、セガリ・ググの内部に打撃を徹すことは出来なかった。無駄と分かって装甲を蹴りつけてみたが、微動だにしなかった。装甲もそうだが、体内も相当に衝撃に強い。
先程のセガリ・ググに倣うことにする。足元の石ころをいくつか拾い上げて、力を込める。赤熱を始めた石ころを見て、目の前の怪物は初めて顔色を変えた。
「冗談だろ……?」
「そうでもないよ。死にたくなかったら急所は上手に避けるんだね」
指を弾くようにして、射出。三つの弾丸が、セガリ・ググの胴体を襲う。
鈍重そうな見た目の割に、本当に素早い。二つまでが回避されたが、三つ目は左肩を直撃する。
金属音が響いた。左肩の装甲にはヒビが入り、石ころの弾丸は砕け散る。
「直撃してヒビだけか。呆れた頑丈さだね」
「
セガリ・ググが左肩を押さえて呻く。軽く焦げた臭いがこちらにまで漂ってきたから、装甲表面には熱のダメージもそれなりに入ったようだ。
「さて、次行くよ」
「……少しは加減しろよてめえ」
効果があるのは分かった。ならば次は数を増やすことにする。
力を通す対象は、足元に散らばっていた石ころすべて。わざわざ手元に集めたりはしない。力を受けてカイトの周辺に浮き上がった石ころが、次々に色を赤く染めていく。
セガリ・ググの声がようやく震えた。
と。
「そのまま止まれ、キャプテン・タイト!」
「おっと」
背後から声。
振り返ると、ダミアンが小型のリザードマン(仮)の首に片手を回してこちらを睨んでいた。リザードマン(仮)の子供は何が起きているのか分からないらしく、ただきょときょとと不安そうにカイトとセガリ・ググを見てくる。
どうやらこの先にあったのはリザードマン(仮)の集落だったようだ。少し離れた方向から喧騒が聞こえてきている。
「形勢逆転かな」
「そうでもないさ」
セガリ・ググの言葉に、カイトは軽く笑ってみせた。
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