宇宙ウナギVS宇宙ウナギ(大)
惑星規模の巨大生物同士の戦闘となると、カイトも介入したものだか傍観したものだか、ちょっと悩むというものだ。
宇宙ウナギ同士はお互いを見つめながら口を大きく開いている。威嚇だろうが、本来小さいはずのトゥーナが逃走する様子がない。この辺りは自然界の縄張り争いとは違うわけだ。
そう言えば、ラディーアでの会議では見た目の違いをどう見分けるか、というのが議題に上がったわけだが、どうやら思ったより個体差がある。
まず、大型ウナギ(命名)の方は、口が四つではなく六つに分かれるようだ。これだけでも大きな違いだが、よく見ると体にほんのり赤みがかっている。真っ赤というほどではないが、並べてみると違いがよく分かる。灰色が主体なのはどちらも変わらないが、トゥーナの方が白っぽくて宇宙空間では目立つように見えた。
と、エモーションが奇妙なことを言ってきた。
『キャプテン。この場は傍観してはどうでしょうか』
「どういうことだい?」
『サイズ差を考えても、トゥーナ氏が勝てる可能性は低いと思われます。戦闘が終了した後、生き残った方と改めて友好関係を結んではいかがかと』
「そりゃまた、随分とこちらに都合の良い話だ」
エモーションの言葉は、フラットに考えれば効率的ではある。宇宙ウナギ自体は他の宇宙ウナギの生存を許せないだけだ。友好関係を結ぶだけなら、トゥーナに固執する必要はない。
だが、カイトはその方法を選ぶつもりはなかった。これはトゥーナが言っていたことでもあるが、宇宙ウナギが全て有機生命体に友好的な相手とは限らない。
「まあ、無理かな」
『無理ですか』
「気づかないかい、あの残骸」
カイトが根拠としたのは、さきに壊滅させられた海賊船団の様子だ。
トゥーナが壊滅させた公社の船団と違い、溶けた様子がない。そして、その残骸は全て大型ウナギの顔面周辺に散らばっている。
熱線はあくまで個体差という可能性もある。大型ウナギが使えないだけ、とも。だが、カイトが気にしたのはもっと別のことだ。
『食われている?』
「うん。かなりあからさまに捕食した形跡がある。有機生命体を捕食する生態かどうかはともかく、トゥーナさんよりよほど大食だよあいつ」
しかも、通信の内容を信じるならば逃げる海賊を追い回している。近くに星系があるにも関わらず、だ。大型ウナギは惑星よりも船を狙っていたとも考えられる。
『成程。キャプテンのお考えは分かりました。それではトゥーナ氏に助力なさるということでよろしいですか』
「トゥーナさん次第かな。こっちからの手出しを嫌がるんだったらバレないようにやらないとね」
ちらりとトゥーナの方に視線を送る。駄目だ、意識が完全にあちらへの殺意で固まってしまっている。
カイトは小さく息をつくと、クインビーの外に出た。
――あ痛っ! か、カイト?
視線がずれたのが良かったのか、トゥーナの注意がこちらに向く。
「落ち着きなさいな」
――す、すみません。ですがね、あの顔を見ていると感情がひどく破壊的に……ぐぬああああ!
「何度もやらんでよろしい」
もう一発。今度は多少勢いを強めに。
――痛い! か、カイト。もう少し優しくしてくれると嬉しいのですが。
「有機生命体にはこういう言葉があるんです。敵を前に冷静さを欠くと死ぬ、って言葉なんですがね」
――そ、そんな言葉が。分かりました。感情を落ち着けるようにします。
多分無理だな。カイトは多少の諦めとともにトゥーナに問いかけた。
先に確認しておかないと、戦闘が始まったらこちらのことが見えなくなるに違いない。
「それで、どうします? 手伝った方がいいですかね」
***
大型ウナギはとにかくでかい。取り敢えず激情に苛まれながら答えるトゥーナからの情報によると、体格の大きさは個体の強さには必ずしも直結しないとのことだ。トゥーナの様に体内の密度を高める個体もいるので、大型ウナギの方がトゥーナよりも育っているとは限らないと。
確かに、連邦が保管していた亡骸を全部捕食したトゥーナだが、体格が目に見えて大きくなったわけではない。あれは内部の密度を増すのに使われたということか。
「自分の成長を自分の勝手で決められるっていうのも不思議なもんだ」
『そうですね。ところで……』
「何だい?」
『あの大型ウナギ、トゥーナ氏よりも成長している個体だったとしてもおかしくないんですよね?』
「うん。大きくて密度も詰まっていたら、トゥーナさんに勝てる余地はないんじゃないかな」
最初は自力でやってみるとのことだったので、カイトは動かず推移を見守ることにした。
戦闘は、特に合図もなく始まった。両者、口を限界まで開けて互いに向かって熱線を放つ。やはり大型ウナギも熱線を吐けたようだ。海賊船団を焼かなかったのは、可食部が減るとでも思ったのか。
体高で三倍も異なるせいか、熱線の大きさも大型ウナギの方が上だ。トゥーナをすっぽりと包んでしまえそうな熱線が、トゥーナの熱線と激突する。
「障壁障壁、っと」
カイトは慌てず騒がず、クインビーの周囲に働きバチによる障壁を展開する。その直後、ずんと圧力がかかった。熱線どうしが干渉して散らされ、その余波がクインビーの辺りにまで届いてきたのだ。
トゥーナの体には熱線は届いていないようだ。規模は大きいが、威力そのものは大差ないように見える。
熱線はほぼ同時に止まった。どちらもそれで相手を倒せるとは思っていない様子だから、要するにあいさつ代わりの一撃というやつなのだろう。
トゥーナの体の側面が、エラのように開いた。空気の噴出による突進だ。
当たり前だが、ただ直進したら大型ウナギに丸呑みにされてしまいそうだ。三倍の体高差はやはり大きい。
トゥーナがうねりながら宙域を泳ぎ回る。やはり直進は危険だと見たか。側面を狙うようにして蛇行しながら、大型ウナギの横っ腹に体当たりを仕掛ける。
「上手い! ……あー」
『これは……』
大型ウナギへの体当たりは見事に直撃した。トゥーナの体がずれることもなかったから、衝撃は全て大型ウナギに伝わったはず。
問題は、大型ウナギが微動だにしなかったことだ。これは反応出来なかったのではなく、避けなかったと見た方が良いだろう。
だが、トゥーナはめげない。反応がないと見るや、そのまま大型ウナギの胴体にぐるりと巻き付いたのだ。締め上げようという算段だろう。トゥーナの方が体内の密度が高いなら、大型ウナギにとっても苦しいはずだ、が。
大型ウナギは意に介していないようだった。体を軽くずらすと、鎌首を持ち上げてトゥーナの体に食らいつく。
攻撃に夢中のトゥーナはまったく反応出来なかった。食いつかれた体は強引に引っ張られ、容易く剥がされる。
――まずいですね、これ。
側面に食いつかれたトゥーナは、ようやく正気を取り戻したようだ。こちらを見ながら、呑気に言ってくる。
――密度も今の私と同じくらいあります。ちょっと勝ち目がないかも。
「言わんこっちゃない」
じたばたして逃れようとしているが、しっかりと食いつかれた部分は微動だにしていない。トゥーナにとって救いなのは、体内の密度自体は拮抗しているようで、このまますぐに噛み千切られる恐れはなさそうなことか。
トゥーナは大型ウナギの頭部に噛みつきを仕掛けるが、まったく効いている様子はない。まるで大人と幼児の喧嘩だな、と考えながら、カイトもまた行動に移る。
トゥーナと大型ウナギが組み合っているところに近づきながら、散乱している海賊船団の残骸を働きバチに集めさせる。
集めた残骸を超能力でひとつの塊にまとめて、クインビーの舳先に設置した。
「あまり芸はないけど――残骸ラムアタック!」
本当は投げつけた方が危険も少ないのだが、これだけ両者の距離が近いとトゥーナに当たりかねない。
体当たりばっかりだなと自嘲しつつ、大型ウナギの口許に勢いよく激突した。
「ほら、トゥーナさん。体制を立て直すよ!」
――ひええ、助かりましたカイト。
拘束が緩んだ瞬間、トゥーナは慌てて大型ウナギから逃れた。随分と弱気になっているのは、大型ウナギの予想外の強さか、命拾いした安堵からか。
――我が体当たりしても効果なかったのに、なんでカイトの体当たりは効いたんでしょうね?
違った。カイトの突進の威力に引いていただけだった。
「余裕ありますね。手伝うのやめましょうか?」
――いえいえ、我だけでは無理です。助けてください!
そして意外と手段を選ばないのも分かった。
明らかにこちらに警戒を見せる大型ウナギを見ながら、カイトはクインビーを方向転換させた。
「了解。それでは共同戦線と行きましょう」
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