放浪するにはまだ遠く
希少人類=地球人
星の中にいては中々自覚できないことだが、空の果て、宇宙の深淵は文字通り果てしない。
生命の持つ生き汚さは、時として自分たちを生み出した星すらも超えて行く。
そして地球人は、その中でも随分と遅れ、そして悲劇的な末路をたどった種族となった。
『キャプテン、信号をキャッチしました。あの船に二名ほど、地球人の反応があります』
「了解。それじゃご挨拶といこうか」
故郷から遥か、遥か遠く。
自分たちの寄る辺たる文明の大半を失った地球人は、自分たちの母星を捨てることを余儀なくされた。
『おい、何のつもりだ! 危ないだろうが!』
「はいはいハローハロー。おたくの船に
『何? まさかてめえは!』
通信先から焦った声が上がる。
相手の船の方がこちらよりも明らかに巨大だが、向こうにこちらを侮るような様子はない。
カイト・クラウチ。この銀河に厳然たる影響力を保持する連邦において、
「こちらは連邦所属、戦闘艇クインビーのキャプテン・カイトだ。あんた達が連れている地球人は、ディーヴィン人が不当に売買した疑いがある。どうだね?」
『ふざけんな、こっちはな――』
「連邦法に署名していない、なんて眠たいことは言わない方が良い。ザニガリゥ大船団のようにはなりたくないだろ?」
『てめっ、まさかあれは本当に!?』
少し前に大立ち回りをした事案を例に出せば、通信の先では随分と焦ったような声が上がる。
カイトは、背後に曳航していた要人用の客船を切り離した。エモーションが遠隔で操作しているこの船は、保護した地球人を乗せるために連邦政府から借り受けているものだ。
働きバチを戦闘準備態勢に移行する。あえてゆっくりと動作するのは、戦闘に入る前に相手が折れるのを待つためだ。連邦に所属していないとしても、地球人を買った連中だからと言っても、必ずしも敵というわけではない。
『待て! 戦闘態勢を解いてくれ。二人の身柄を渡す。それでいいか?』
「賢明な判断だ。感謝する」
『ただし、お前の船がこれ以上この船に近づかないことを条件としたい。奥の客船をここまで寄越してくれたら、その船にアースリングを乗せてこちらは離脱する。構わないか?』
「いいだろう。ただし、地球人が無事に乗ったことを確認するまでは、そちらも動かないこと。こちらの条件はそれだ」
『分かった』
緊張感が漂うやり取り。客船が相手の船に近づくと、エモーションが客船の機能を使ってモニタリングを始める。
タラップで船同士が繋がり、しばらく待つ。タラップが収納され、エモーションが警戒を解いたのが分かった。
『キャプテン・カイト。二人の身柄を保護しました。特に仕掛けられたものはありませんね。連邦の保安船団には連絡しましたので、程なく迎えが来るでしょう』
「了解。それじゃしばらく待つとしようか。……確認した。行っていいぜ」
相手の船と繋ぎ、解放を伝える。
『……沈めないのか?』
「そこまでするつもりはないよ。次に地球人を乗せるなら、買うんじゃなくて正式に雇うんだな。それならこんな真似をしなくて済む」
『そうさせてもらう。今後はディーヴィン人どもとは取引をしないことを約束しよう。それじゃあな』
別にそこまでしなくても良い、と言う暇はなかった。
這う這うの体で逃げ去って行くその船を見送りながら、カイトは地球人を乗せた船がこちらに合流してくるのを待つ。
「やれやれ、僕たちが自由にこの銀河を旅できるのは、いつになるんだろうねえ」
『それほど先のことじゃありませんよ、きっと。それに、何だかんだ観光みたいなものじゃないですか』
「そうだね。それに、時間だけならいくらでもある」
『ええ。保安船団、現着しましたよ』
エモーションも随分と染まってきたものだ。
カイトは保安船団に客船ごと保護した地球人を託すと、挨拶もそこそこに船を次なる宙域へと翔けさせるのだった。
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