“七つの星が流れる”
「君は自分が何を言っているのか分かってるの?話にならない。もう帰って…」
そして、死神(仮)が七星を見ると、彼女は今まさに舌を噛み切って死のうとしていた。死神(仮)は慌てて七星の元に駆け寄った。
「貴方の焦り様からして、私が死んだら貴方はとても困るのでしょう?私はいつ死んでも構わないの。元々は数分後に捨てていたはずの命なのよ。」
七星はそう言うと妖艶な笑みを浮かべた。ペースは完全に彼女のもので、死神(仮)も自分に選択肢がないことに薄々気づいていた。
「もう、分かったよ。僕が折れるしか無いみたいだし。」
死神(仮)はそう言うと大きくため息を付いた。すると、七流はガッツポーズをして少し微笑んだ。これが七星が死神(仮)に見せた初めての笑顔だった。
「一つだけ聞いても良い?」
死神(仮)は七星がうんと頷く前に質問を投げかけた。
「なんで死神なんかに着いていきたいの?」
「なんでだと思う?」
七星はまたあの能面のような貼り付いた笑顔に戻ると、くるりと一回転した。長いサラサラした髪が風になびき、スカートがふわりと舞い上がった。白いワンピースを纏った七星は月の光に光り輝いていた。腕についている無数の青あざや切り傷とタバコを押し付けた跡、真っ白に染まっている髪に目をつぶれば、まるで天使のようだった。
「さあね。分からないから聞いてるんだけど。」
「今日の夜空に浮かぶ星が綺麗だったからかな?」
「冗談はよしてさっさと教えて。」
「本気なんだけどな。」
七星はそう言うと身を翻し、走り出した。少し遠くまで行くと、後ろを振り返った。
「ねぇ!貴方の名前を教えてよ!!」
「僕は死神だから名前なんてないよ。」
死神(仮)がぶっきらぼうにそう答えると、七流はなおも続けた。
「ってことは、私がつけてもいいってことよね?」
無言のままだった死神(仮)を七星は無言の肯定だと思ったのか、名前を考え始めた。
「
七星はそう言うと、何かを確認するように死神(仮)の顔を覗き込んだ。しかし、死神(仮)はさらりと七星から顔をそらし、背を向けた。
「どうぞ、ご勝手に。」
そう言って死神(仮)は顔に手を当てた。しかし、よほど何かに動揺していたのか、死神(仮)は何かを地面に落とした。素早く拾おうとするも、七星の方がワンテンポ早かった。そこに落ちていたのは先ほど例にあげた100均で売っていそうな死神の仮面だった。七流はそれを拾うと、くるりと回転して死神(仮)の顔を見つめた。
「あれ?君は。」
しかし、七星はキョトンとした顔で死神(仮)を見上げた。
「君の知り合いが死神を装っているだけだと思った?」
そこには清純な美少年の顔があった。しかし、七星には見覚えがなかったようだ。死神(仮)はため息をつくと、おでこから顎に向かって手をスライドさせた。すると、次の瞬間、髭が生えたおじさんの顔になった。
「これで僕が死神だって信じた?」
七星は目を丸くして、キラキラと輝かせると、うんうんと頷いた。
「じゃあ、私の好きな顔にできる?!」
とたんに七星は子供のようにニコニコと笑った。先ほど見せた大人の雰囲気とはまるで違う、無邪気にはしゃぐ子供の姿がそこにはあった。死神は少しの間七星の顔を見つめると、首を振った。
「やだよ。めんどくさい。」
しかし、死神はすぐにその言葉を撤回することになった。
「あーもー、すぐ死のうとしないでよ。分かったって。君の好きな顔にしてあげるから。」
すると、七星は目や輪郭、鼻の形などを細かく指示し始めた。死神が顔を変えるたびに違う、と言われ、数十分も経ったあと、やっと七星の満足がいく顔が作れたようだった。
「そう!これでいいわ!!」
「全く。僕は次の死にたがり屋に会いに行かなければいけないのにこんなところで道草を食ってしまった。早く行こう、七星。」
そう言って歩き出した死神の手を七星はすがるように掴んだ。
「あの…貴方は本当に…。」
「何の話?」
死神が七星の手を振り払うと、七星は我に帰ったように下を向くと、2人が出会ったばかりの頃の光のない目に戻った。
「そうよね、ごめんなさい。忘れて頂戴。」
そして、歩き出した死神の少し後ろに七星がくっつき、2人の旅は幕を開けたのだった。
二度目の人生を、君と。 名無死 @little_robot
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