第22話 お兄ちゃんは心配です

 色素の薄い髪を邪魔そうにかきあげて、男子生徒……色はため息をついた。双子の妹、雪が部活に入ると聞いたのは昨日のこと。それも、得体の知れない“旅部”とか呼ばれている部活らしい。アナログゲーム部(色と紅が所属している)の先輩に聞いたところ、部員が少ない上に謎の多い闇の部活だということが分かった。そんな理由で、俗に言うの色は昨日の夜からずっと頭を悩ませているのである。授業が終わって、昼の長い休み時間に突入しても、色は浮かない顔で何度目かわからないため息をついていた。


 そこに鮮やかな赤髪をもつ男子生徒……紅がひょこっと現れ、仏頂面の色に話しかけた。


「シキ今日元気ねェな?どうしたよ。寛大な樋口紅サマが話聞いてやっ______」


「お前ならそう言ってくれると思ってたよ聞け今聞けすぐ聞け」


「お、おう……」


 いつになく食い気味な色に驚き戸惑いながらも、紅は色の前の席に後ろ向きに座り、色の机に自分の弁当を広げた。机には食べ盛りの男子高校生の大きな弁当箱がふたつも並び窮屈そうだ。


「俺の雪のことなんだけどさ」


「お前の妹の?」


「そうそれ……怪しい部活に入るらしいんだよ。ゆっちゃんは単純で騙されやすいから、害獣どもに篭絡されたんじゃないか、変なことに巻き込まれるんじゃないか……って心配し出したら止まらないんだよな」


「……はぁ。あのなァ、外部のクラブならともかく、校内に危ねェ部活なんかあってたまるかよ。雪ももう高1だし、好きにさせろよ」


 いや、そういえば雪とこいつ双子だよな……と思い返して、紅は顔を顰める。雪は確かに人懐っこいし、純粋だから騙されやすそうではあるが……色は多少、心配性が過ぎるところがある。最近紅は、色のシスコンのストッパー役としてしょっちゅう振り回されている。


「紅……ちょっと頼まれてくれない?」


「いや、確かに雪のことは心配だけどよ」


「ありがとう……」


「いや承諾してねェから」


「仕方ない……頼まれてくれたらこれをやろう……!雪の……寝顔写真」


 言いつつスッとスマホを差し出す。


「はァ……んなもん勝手に流すなよ兄貴が。ってか寝顔写真なんか……」


 紅の漆黒の瞳がスマホの画面を捉える。机の上でうたた寝してしまったらしい雪の写真。緩い私服姿に紅の思考が傾きかける。柔らかい薄茶の髪が肩から机に流れ、力の抜けた表情、造形の整った容姿も相まって眠り姫然とした雰囲気を纏っている。


「寝顔写真なんか…………クソめんこいな」


「どうする?」


「……やるに決まってんだろ俺らの雪を怪しい輩に預けるわけにいかねえべな!?」


「紅〜!!助かるわマジで!」


 まんまと乗せられてしまった、と紅はため息をつく。その後も、止まらない談笑が机の上で暫く続いたのだった。

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君は友達。 時瀬青松 @Komane04

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