最終話


 たまに前世の記憶を夢に見る。


 そこは剣と魔法の世界で、オレはギルドで一番の戦士。剣術も魔法もトップクラスで、王宮付きの騎士にさえ一目を置かれる存在だ。


 オレはそこで身分違いの恋をしており、男爵の一人娘であるメアリーと惹かれ合っていた。逃避行を提案されるも、彼女には許婚が居て、オレにはドラゴンを探すという目的があった。


 メアリーは許婚と結ばれ、オレは終わりの見えない竜探しの旅に出て、この物語は終わりを告げる。


 これを他人に話した所で、所詮夢だと揶揄されるに決まっている。オレだって、本当にそれが前世かは半信半疑だ。ただ、それを知っている女の子がクラスに居た。


 夢の中のオレ、剣士ギムレットが一番仲が良かった魔導士が居る。


 彼女とは現在のオレとも仲良くなった。同じ時を過ごした仲間が、再び同じ時間を歩んでいる。


 それが分かっただけで剣士ギムレットが報われた気がしたのは、上谷戸きのみには口が裂けても言えない事実である。


「それでさ」


 上谷戸きのみが覗き込むようにオレの顔を見た。放課後、駅前でお茶でもしないかな。という彼女の案に乗っかって、ドーナツ屋にオレ達は居た。


「どうやって、アオさんに思い出してもらう?」


 食べ終えたミートパイの食べカスが付いている、とでも言われるのかと思った。


「何の話?」


「だからぁ! アオさんがメアリーだって、どうやって教えようかって話」


 少しビックリしたのは、アオさんがメアリーかどうかなんて、上谷戸きのみはどうでもいいのかと思っていたからだ。


「……アオさんがメアリーだとして、お前はそれでいいのか?」


「なんで?」


 彼女はキョトンとした顔をした。言われてみるとオレ自身も、何故そんな台詞を吐いたのか分からなかった。


「やっぱり、仲間は多い方が良くない? 前世持ち仲間!」


 前世持ち仲間って、すごい言いにくい呼称だな。前科持ちみたいで、人聞きが悪い。だけど、そんな明るい姿勢は、ブロッサムらしくも上谷戸きのみらしくもあった。


「それじゃあ、どうやって作戦を立てるとするか」


 オレは自分で言いながら、少しワクワクしてきた。前回はアオさんが、梨花と仲良くなる為の作戦を立てた。今度はこっちがアオさんに対して、作戦を立てる番だ。


「それじゃあ、各自で案を出して、明日発表ね」


「そうだな」とオレが答えると、笑顔で上谷戸きのみは立ち上がった。


「また、明日」


 活発な声を出して、彼女は手を振った。オレも手を振り返すと、少しだけ明日が楽しみになったような気がした。


「あ、クロくん」と一歩先で上谷戸きのみが振り返る。


「食べかす、ついてるよ」


 自分の頬に手を伸ばし、彼女は満面の笑みを見せた。カッコ悪い印象は与えたくなかったが、これでは話にならないな。オレはナプキンで頬を拭った。


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同級生が前世の想い人かもしれない。 直行 @NF41B

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