第46話
「……わたし。わたし、綺麗って……こと?」
オレはそっぽ向いたまま、肯定の意味で小さく頷いた。本当、この女は鳥アタマなんだな。みなまで語らすな、そこは察して欲しい所だった。
「わたしがあんまりにも美少女になってたから、ギムレットは気づかなかったんだね!」
そりゃ違う。と言おうと思ったんだが、面倒なので黙って頷いた。
気づかなかった理由としては間違っているが、上谷戸きのみが美少女なのは間違ってはいない。下手なことを口走り、これ以上泣かれても困る。沈黙は力だ。
なんて思っていたせいか、オレはまた選択を誤ってしまったようだ。
感極まったのか、上谷戸きのみがオレに抱き着いてきた。暖かい身体、ほんのりとシャンプーの匂い、オレは頭が真っ白になる。
「やっぱり、ギムレットは紳士だぁ……」
「やめなさい」
耳に掛かる吐息がこそばゆくて、とにかくオレは彼女を押しのけた。目の前の上谷戸きのみは今までに見た事無いくらい、満足そうな表情をしていた。
「それより、もう一つ。お前に聞きたいことがある」
「なんでも聞いていいよ」
ベッドに掛け直し、上谷戸きのみは笑顔で言った。
「お前はどんな魔法が使えるんだ?」
「ギムレット、わたしの得意な魔法忘れちゃったの?」
「やはりか……」
オレは先ほどの出来事を思い出す、火傷した筈なのにしていなかった。
「やっぱ、あれって治癒魔法?」
「そう、わたしは人の傷を治せるんだ。さっきみたいな小さい火傷なら、跡も残らない」
上谷戸きのみは笑顔でVサインを向ける。オレは素直に礼を言い、小さく頭を下げた。
「気に病まないで。それより、クロくんも使えるの? あの魔法」
「ああ」とオレは頷いてから、どう思われるか心配になった。
あの魔法という口ぶりから、彼女はオレの魔法がどういうものか覚えているようだった。
ブロッサムの治癒魔法と違って、状態可視はこの世界において他人の役に立つ魔法ではない。
それどころか、相手の感情までを把握してしまう。貴方の心を読めます、と言っているようなものだ。そんな奴が目の前に居て、気分を悪くしないだろうか。
「すっごいね」
そこはやはり、上谷戸きのみで安心した。彼女は目を輝かせて、心から敬意を示す色を出していた。
「……いや、凄くないよ。ブロッサムみたいに、人の役に立つものじゃないし」
「そんなことはないよ」
上谷戸きのみは再びオレの前に来て、両手でオレの右手を握った。
「ギムレットがやってたみたいに、体調が悪かったりしたら分かるんでしょ? だったら、役に立たないなんてことはない」
彼女の真っ直ぐな瞳を見て、オレの心が温かくなっていくような気がした。
「でも、ギムレットの時同様、これじゃクロくんに嘘はつけなくなるね」
それを聞いて、オレは少し噴き出した。何を言うかと思えば、そんなことか。
「上谷戸。お前はオレの知る限り、他人に嘘をついた所、見たことないぞ」
思えばブロッサムもそうだった。他人に対して嘘をついたり、誤魔化したりするような奴じゃなかった。だから、ギムレットも心から信頼出来たんだ。
オレ達もこれから、あの世界のギムレット達のように、信頼し合える関係になれたらいいなと思った。
同じ前世の記憶を持つ、同級生なんだから。
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