第45話


 ブロッサム・ブルームスバリー、魔導士ギルドに所属する部隊長。


 攻撃魔法より、治癒魔法が得意な珍しい魔導士。ギムレットの世界では、回復魔法は扱える者が非常に少ない。人間族だったら、脅威に思われていたかもしれない。


 オレは先ほどの自分のした話を思い返す。


 ギムレットの生誕から始まり、メアリーと出会って別れるまでの流れ。さっきの会話でブロッサムなんて、名前すら出していなかった。


 これでは確かに、忘れられていたと思われていても仕方ない。オレはたっぷりの罪悪感を覚えてから、彼女に何て声をかけてあげていいのか考えた。


「……ブロッサム」


 出来るだけ、優しい言葉にしてあげよう。


「あのさオレ、ブロッサムのこと。忘れたわけじゃないんだ」


「……じゃあ、何で、気づかなかったの?」


 彼女は悲壮感たっぷりの様子で目を逸らした。オレは何て声を掛けるか考える。出来るだけ、優しい言葉がいい。


「それはな、お前……」


 出来るだけ、優しい言葉。そう思ったけど、やはり止めた。


「……そんなの。……気づく訳ねーだろ、タコ」


「……えっ?」


 こちらを見た上谷戸きのみの涙目が丸くなった。


「お前、だって、鳥じゃねえんだもんよぉ!」


 気づけと言われても、分かる筈がないんだ。ブロッサム・ブルームスバリーは鳥族の獣人だ。


 獣人というのは、ギムレットの世界に居る人間族とは違う種族の生き物。


 人型だが、猫や犬のような特徴を持つ哺乳族。同じく人型だが、貴様のみたくトカゲや蛇のような特徴を持つ爬虫族。ネズミのようなげっ歯族、魚のような魚族など。


 これらをまとめて獣人といい、ブロッサムはクチバシや羽根を持つ鳥族となる。


「鳥なわけないじゃん! どう見たって人でしょぉ!」


「ああ、そうだよ! どう見たって人だから、気づく訳ねえんだよ、タコ!」


「タコじゃないし、鳥だし!」


「じゃあ、鳥アタマか! だから、あんなに予行練習とか言ってたのか!」


「なっ、なんだよぉ、それぇ……」


 そう言って、彼女は再び泣き崩れてしまった。


 少し、言いすぎたかもしれない。じゃない、完全に言いすぎた。


 コイツのいつもの天然っぷりは、前世が鳥だったせいかもしれない。鳥族は魔法が得意で頭はいいけど、独特の感性を持ち合わせている。


 だが、それはそれだ。彼女も彼女なりに、ギムレットに思い出してもらおうと頑張ってたんだとしたら、少し強い言い方をしてしまった。


 オレはベッドで泣き崩れる上谷戸きのみに近づいた。まるで枕に土下座をしているような、膝を着いた体勢で泣いている。


 ブロッサムは前世で枕に何をしたんだ。そう思うと笑ってしまうので、考えないようにした。


「悪かった。ブロッサム……」とオレは上谷戸きのみの肩に手を置いた。


「……ギムレット」


 見上げた彼女の顔は、完全に泣きはらした顔となっていた。折角の綺麗系の顔なのに、オレのせいでこうなってしまったのか。罪悪感が少し蘇った。


「ブロッサム、オレはな。ギムレットだった時から、ずっと思っていたことがあってだな……」


「……思ってたこと?」


「……ああ」


 ギムレットの世界でこんな事を言ったら、間違いなく種族差別だと思われる発言だ。あの時は言えなかったけど、今のブロッサムならば問題ない。


「お前が人間だったら、間違いなく美人だって」


「えっ?」


 驚いたのか、上谷戸きのみが真っ赤になった目を見開いた。


「ギムレットの予想は、どうやら当たっていたようだな……」


 ここまで言ってしまうと恥ずかしくなった、オレは目を逸らしてしまった。


 ギムレットの姿だったら、こういう台詞を言うのに躊躇いは無かったが、今は押立クロだ。言ってる途中から、恥ずかしくなってしまった。


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