第18話 VSサード


 状況を見守っていた司令は、通信機越しに声を荒らげた。


「私だ! サードが出現した! 何故そちらで察知できなかった!?」

『申し訳ありません! しかし、索敵能力者は反応が無いと』

「ちっ、ステルスか。よりにもよってサードで」


 天剣が持つ能力には、指定した対象の居場所を特定する索敵系のものがある。


 だが、レギオンには時折、この能力の網をかいくぐる固体がいる。


 そうした個体を、ホルダーズでは【ステルス】と呼んでいた。


「やむを得ん、私が出る!」

『それはならん』


 司令が一歩踏み出すと、上層部が通信に割り込んできた。


「っ、それは、桜庭春樹にサードを殺させろと?」

『流石は英雄、秋月紅葉、話が早い。そこには史上最高適性値の持ち主である月宮小夜、そしてエリート部隊ガーディアン候補だった獅子王勇雄がいる。桜庭春樹自身も、入学式でアメリア・ハワードと鮫島海斗を倒している。戦力は十分だろう』

「数字の上では、その通りです」

『だが、我々も永遠の命へ通ずるカギを失うわけにはいかん。もしもの場合は、君が対応するのだ。これは、正式な命令だ。秋月紅葉司令』


 ——ライフイーターの解析を進めたいが桜庭春樹も失いたくない。だから新入生をサードと戦わせるが危なくなったら責任は私か。


 怒りを噛み殺すように歯を食いしばってから、重たい声を返す。


「了解致しました」

『ふっ、素直でよろしい』


 通信が切れると、彼女は毒づいた。


「春樹……」


 死なないでくれ、そう言おうとして、彼女は言葉を飲み込んだ。

 代わりに、力強い声で言った。


「勝て!」



   ◆◆◆



「喰らえ!」


 赫は、鋼の杭を16本生成して、連続して射出した。


 しかし、杭は、いずれも先端をわずかに食い込ませたのみにとどまった。


 自重で抜け落ちて、アスファルトに転がり金属音を鳴らす自身の攻撃に、赫は唖然と後ずさった。


「お、おれ様の攻撃か効かねぇ……」


 続けて、詩織は引き金を引きっぱなしにして弾幕を張り、牽制した。


 だが、無数の銃撃を浴びてもなお、サードは意に介していなかった。


 パラパラと樹皮の欠片が、弾丸と共に虚しくアスファルトに舞い落ちるばかりだ。


「生半可な火力じゃ通らないみたいね」


 自身の力が通用しないにもかかわらず、冷静な判断を下す詩織に続いて、勇雄は天剣を構えた。


「なら、これでどうだ!」


 勇雄は天剣から雷光を放ち、不規則な軌道描きながら空間を奔り抜けた。


 熱で空気が瞬間的に膨張し、雷鳴が響き衝撃波が春樹たちの肌を打った。


 眩い閃光に春樹たちが目を細める間に、雷撃はサードの顔面に直撃した。


 ファースト同様、まるで落雷を受けた木のように黒く焦げながら破裂する姿を、春樹は想像した。


 だが、その期待は裏切られた。


「嘘だろ!?」


 サードは健在だった。


 その光景に、春樹は思わず驚愕の声を上げた。


 小夜も、僅かに声を濁らせる。


「まるで絶縁体だね。まさか、あの樹皮のせい?」

「■■■■■■■■■■■■!」


 サードは、こちらが考える間も与えてはくれなかった。


 爆音のような咆哮を上げると、サードは得物を狩るライオンのような広いストライドで大地を駆けてきた。


 あのサイズ、質量でそれは反則だろうという俊敏さに、春樹たちは舌を巻いた。


 推定体重10トン級の体当たり。


 二階建てバスでも一撃で粉砕されそうな迫力に、五人はそれぞれの方法で上に逃げた。


 赫は手の平から出した鎖をビルの看板に巻き付けて体を引き上げ、勇雄は電磁力で鉄筋コンクリート製の壁に引っ付き、小夜は空中に足場をいくつも作って駆け上がり、詩織もつづいた。最後に春樹は足からジェット水流を噴射して宙に舞い上がった。


 サードは止まらず、勢い余り、停車中の冷凍トラックに頭から衝突した。


 金属がひしゃげる、腹が底冷えし耳をつんざく轟音。


 放物線を描いて飛んでいくトラックがアスファルトに叩きつけられると、赫は頬を引きつらせた。


「ど、どうすんだよあれ! あんなの勝ち目ないだろぉ!?」


 春樹は、返す言葉が無かった。詩織と小夜も、ノーコメントだった。


 ただし、普段は穏やかな獅子王勇雄の口元にだけは、好戦的な笑みが浮かんでいた。


「ゼロじゃないさ。作戦会議だ、耳を貸せ」



   ◆◆◆



 春樹たちの攻撃が効かない現実に、司令の秋月紅葉は歯噛みした。


 まだ小夜と春樹は攻撃をしていないが、獅子王の雷撃がまったく効かなかったのだ。


 春樹のボイルドボムと、小夜のソードバリアの一斉掃射で殺しきれる保証はない。


「くっ」


 速く駆け付けたい思いと、上層部の不況を買い、春樹の評価まで下がるデメリットを天秤にかけて、司令は迷った。


 いや、頭の中ではすでに、上層部への言い訳を考え始めていた。

 しかし。


「待て、あいつら、何をする気だ?」


 五人の闘志は、まだ死んではいなかった。


―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―


ここまで本作を読んでいただきありがとうございます。

次回、決着です。


また、話は変わりますが、他にも色々な作品を投稿しているので、そちらもチェックしていただけると嬉しいです。


【闇営業とは呼ばせない 冒険者ギルドに厳しい双黒傭兵】

【サービス終了ゲーム世界に転生したらNPCたちが自我に目覚めていたせいで……】

 ナド

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