第17話 VSセカンド

「あれは……」


 突然、小夜はバリアで頭上に足場を作ると、その上に飛び乗ってファーストの集団の奥を望んだ。


「セカンドがいちにぃさん……全部で18体来たよ!」

「聞いていた通りだな」


 春樹は声を弾ませた。


 昼休みの食事中、司令はセカンドの出現区域を任せると言ってくれた。


 そして、ファーストとセカンドで吸収できる生命力に差はあるかと。


「来るよハニー!」


 小夜の声が合図だったかのようにファーストの群衆から、十数匹の獣が飛び出した。


 木彫りの狼のような外観、それでいて、サイズはライオン並だ。


 セカンドはチーターのような速度で地上を疾駆しながら、春樹たちの弾幕を巧みに避けた。


 数匹はビルの壁を駆け上がりながら迫り、壁を蹴って一息に跳びかかってくる。


「■■■■■■■■ッ!?」


 無言のファーストとは違い、セカンドは吼えながら跳びかかってくるが、空中で壁にぶつかりアスファルトに落ちた。


 小夜が、空中にバリアを展開したのだ。


 間髪入れず、ソードバリアがセカンドの四肢を撃ち貫いて、自由を奪った。


 バリアと聞けば、誰もが防御重視のサポート能力と思うが、実際にはかなりの万能能力だ。


「よっ」


 春樹がボイルドボムを直撃させると、セカンドは雲散霧消した。


 ファーストの時よりも、多くの生命力が天剣にたまった。


 ボイルドボムでレギオンたちを迎撃しながら、春樹はすぐにその情報を小夜に伝えた。


「やっぱりファーストよりもセカンドの方が吸収できる生命力は多い。生物として内包しているエネルギーが原因なのかもな。というわけでセカンドは俺に回してくれ」

「OKハニー。じゃあ、ボクは連中の足を狙うよ」


 言う否や、小夜はバリアの足場から降りて、ソードバリアを低空射撃した。


 しかし、セカンドたちは獣のしなやかな足さばきと跳躍で、ソードバリアを避けてしまう。


「ん~、そこまで上手くはいかないか」

「おいおい、手加減している余裕ないぞ」


 勇雄の指摘通り、もうセカンドたちはそこまで迫っている。


 このままでは、接近戦を挑むことになる。


「なら! 最大水量!」


 叫びながら、春樹は天剣をアスファルトに突き刺した。


 地面を、水流が奔った。


 セカンドたちは跳躍するも、着地点の水を踏んだ瞬間、足が凍り付いて倒れた。そして全身に過冷却水を浴びて、動きが鈍くなっていく。


 体を覆う氷を力技で砕いても、過冷却水は際限なく流れてくるのだ。


「ボイルドボム!」


 過冷却水を止めて、今度は倒れたセカンドたちに、容赦なく過熱水の砲弾を叩き込んでいく。


 爆裂音があちこちで上がり、一撃一殺でセカンドたちは散っていく。

 



 その様子に、赫は唖然とした。


「あいつ……適性値平均の半分もないんだよな?」


 赫の指摘通り、春樹の強さは不自然だった。


 過熱水、過冷却水は、技術だからまだわかる。


 けれど、片側二車線ずつの道路を覆うほどの水量や、戦闘開始からボイルドボムを撃ち続けられるスタミナは、技術でどうこうなるものではない。


「確かに。あいつどんな訓練をしたんだ?」


 勇雄が喉を唸らせると、詩織が周囲を警戒しながら口を開いた。


「天剣の能力は精神力を燃料に発動するわ。能力を使い過ぎると精神的に疲れるのはそのせい。でも、春樹にはワタシたちと違って信念がある。春樹の能力に、スタミナ切れなんてないわ」


 詩織のセリフに、勇雄と赫は言葉を失った。


 春樹という人物の偉大さに感動でもしているのか、それとも自分らの矮小さを恥じているのか。

 詩織はそう判断したが、


「詩織、けっこう喋るのな」

「おい赫、そこは触れるな」


 違ったらしい。

 二人を一睨みすると、詩織は周囲に隠れたレギオンがいないか探し始めた。


 赫と勇雄は、空気を読んでファーストととの戦いに専念した。

 



 15分後。

 道路にレギオンの姿はなく、あらかた片付けたらしい。


 五人の中に負傷者はいない。


 前評判通り、レギオンは弱かった。


 と言っても、セカンドについては、小夜と春樹のサポートがなければ、赫は怪我をしたかもしれない。


 やはり、そこはセカンドVS一年生ホルダーだ。


 詩織と勇雄も、集中すれば勝てるが、セカンドとの連戦は避けたいと考えた。


「これで終わりか?」


 みんなに確認するように春樹が言うと、周囲を警戒し続けていた詩織は頷く。


「そうね……一応、本部に連絡して確認するわ」


 詩織は、耳のデバイスに触れてMR画面を起動させようとする。


 しかし、その前に春樹の背筋は悪寒に震えた。


「!?」


 背後の曲がり角から、大木を引きずるような音が聞こえる。


 小夜たちもその音に気付いて振り返ると、曲がり角から、ソレは現れた。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」


 ゾウのように巨大な体躯の四足獣が、緩慢な動きで顔を出した。


 ファーストやセカンドと違い、その表皮は樹皮に覆われ、背中には枝葉が生い茂っている。


 体に対して不自然に大きな顎には牙がズラリと並び、頭からは幹のように太い、ねじくれた枝がツノのように生えていた。


 その威容から、春樹の脳裏に浮かんだ単語はRPGゲームでおなじみ、【魔獣ベヒーモス】だった。


 当然、それはただの印象だ。


 ソレの名前はサード。


 司令が、絶対に戦ってはいけないと言い含めていた存在だ。


 レギオンは弱く、真面目に叩けばホルダーに危険はない。


 だが、サードだけは別格だ。


 なのに、五人の目の前には、信じられない内容のMR画面が開いた。



【交戦命令】

【対象:サード】

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