第16話 初陣

登場人物が多いので、確認です。


桜庭春樹(さくらばはるき):本作の主人公。能力は水。

月宮小夜(つきみやさや):本作のヒロイン。能力はバリア。

獅子王勇雄(ししおういさお):いつも穏やかな笑みの世話好き男子。能力は雷。

紅羽赫(あかばねてらし):自称エース。能力は鋼。

九本詩織(くほんしおり):無口無表情無感動のクール女子。能力は銃火器生成。


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 エサのほうから、飛び込んでくれる。


 こんなおいしい話はない。


 赫が叫んだ。


「おっしゃあ! じゃあさくっと倒して1組入りするぜ!」


 彼の手に天剣が構築されると、春樹たちもそれに続いた。


 小夜の、春樹の、勇雄の手に天剣が構築されていき、詩織の手には、二丁のアサルトライフルが握られた。


 天剣は剣の形を取ることが多いため天剣と呼ばれているが、実際は様々な形を取る。


「よしお前ら、一斉射撃で行こうぜぇ!」


 声を張り上げながら、赫は周囲に鋼の槍を次々形成していく。


 四人は赫の横にずらりと並んだ。


 勇雄は天剣に雷電をまとい、春樹は天剣を持たない左手をかざして、ボイルドボムの準備をした。


 小夜の頭上にはバリアでできた堅牢な剣が数百本も形成され、詩織は獰猛な銃口を無言で構えた。


 本来、アサルトライフルは両手で保持して、銃床を肩口に当て、衝撃を全身で受け止める。


 それほどに威力が高く、反動も強い銃なのだ。


 だが、天剣の力で身体能力を数倍以上に高めている詩織は、拳銃どころか水鉄砲でも握るような気安さで、二丁のライフルを構えていた。


 リーダー気取りで、赫が叫んだ。


「放てぇえええええ!」


 鋼の槍が、

 極太の雷撃が、

 過熱水の砲弾が、

 バリアの剣が、

 金属の弾幕が、

 一斉にファーストたちに殺到した。


 ファーストたちは攻撃をかわすこともなく、ただ真っ直ぐ走ってくるだけなので、面白いように当たる。


 まるで、文字通りの飛んで火にいる夏の虫だ。


 槍と剣と弾丸の雨に全身を粉砕され、水の爆発に吹き飛ばされ、雷撃に黒く焦がされながら破裂する。


 入学したての一年生の攻撃に、ファーストたちは粉々に砕けては雲散霧消していく。


 これは確かに、楽な仕事だ。


 レギオンとホルダーの戦力差が大きいという話は本当らしかった。


 これで政治家以上の給料を貰えるのだから、確かにおいしいと思いつつ、春樹は吸収する生命力に気を配った。


 ―—おぉ、天剣に生命力が体に流れ込んでくるのがわかるぞ。訓練中、蚊とかゴキブリを殺した時は微量過ぎて本当に吸収してんのか不安になるレベルだったけど、レギオンはここまではっきりわかるんだな。


 小さな虫とレギオンでは、やはり、生命力の量が段違いだった。


「よし、ガンガン倒して生命力稼ぐぞ」


 意気込みながら、春樹はボイルドボムを断続的に撃ち続けた。




 ボイルドボムは、五人の中では唯一の爆発系攻撃だ。


 五人の視線の先では、何度も爆音が轟き、一発ごとに数体のファーストたちがぶっ飛んでいる。


 史上最高の適性値を誇る小夜のソードバリアも、一本で数体のファーストを貫いている。


 単純な撃墜数なら、小夜と春樹がツートップだろう。


 その様子を、赫が横目で盗み見ていることに、勇雄が気が付いた。


「気になるのか?」

「はっ、なにがだよ。見ろよ俺の力を。これがエース赫様の実力だぜ。それにしてもホント楽勝だよな。弱すぎてつまらないぜ」


 赫が愚痴るや否や、詩織が不意に銃口を赫に向けた。


「ちょまっ、お前何して!」


 赫の頭上と左奥から、何かが砕ける音がした。


 頭上からは、詩織の銃撃を浴びたファーストの残骸が落ちてきた。


 ビルとビルの隙間からは、雲散霧消している途中のファーストが転がり出てきた。


 ぽかんと口を開ける赫に、詩織は無感動に告げた。


「レギオンは、ホルダーが油断している場合と、奇襲を除けばまず負けることのない相手よ。油断せずに、奇襲に備えて」

「わ、わーってるよ! お、おれ様だって気づいていたっつうの!」

「春樹、ワタシは周辺の警戒に当たってもいい?」

「ああ、頼んだぞ詩織」

「無視すんなよ!」

「落ち着けよ赫」

「勇雄って赫のお母さんみたいだね」

「小夜てめぇガキ扱いしてんのか!?」

 赫が怒鳴って、勇雄がフォローして、小夜が笑う。


 春樹は、緊張感ないなぁと思いながら、口元に笑みを浮かべた。



   ◆◆◆



 その様子を、少し離れたビルの屋上から、監視する小さな人影があった。


 天剣学園司令、秋月紅葉だ。


 赤い髪を風にたなびかせながら、獲物を狙う鷹のような眼差しで、秋月紅葉は、春樹の安全を見守った。


 右手には、彼女の天剣が握られ、油断なく周囲を警戒している。


 最強のサードはここ一年出ていないが、彼女の警戒心は一ミリも揺らがない。


 一年も出ていないならもう出ない、ではない。


 一年も出ていないからこそ、明日、今日、五分後にはサードが出るかもしれない。彼女はそう考えるタイプの女傑だった。


 幼い外見とは裏腹に、その瞳には、歴戦の猛者特有の影が落ちている。


「…………春樹」


 15歳で、他人のために戦う少年の名を口にしながら、彼女は願った。


 春樹と、小夜の、幸せな未来を。


 そこへ、デバイスに通信が入った。


「セカンドか、予定通りだな。数は18、小夜がいれば問題ないだろう。いざという時は、私が出る」


 通信を切ってから、秋月紅葉は声に期待を滲ませた。


「春樹、お前の力を見せてくれ」

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