第15話 謝ったほうがいいですよ

 9話を境にして、視聴数ががくんと落ちました。

 みんなロリ司令はお嫌いなのでしょうか……。


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「おいおい、そこにいるのはナマクラじゃねぇのか?」


 春樹が振り返ると、そこには前と同じメンバー、小柄な男子と桜髪の女子、中東系の女子に加えて、ヘンナ・パーヤネンを引き連れた、二階堂武蔵が立っていた。


「ヘンナ、二階堂の班に入ったのか?」

「はい。武蔵さんが自分の班は1組確実だからと拾ってくださいました」

「へぇ」

「おい、俺様を無視するな」


 二階堂が割り込んでくる。相変わらず背が高くて目つきが悪いが、小夜から勇気を貰った今の春樹は何も怖くなかった。


「ん、なんか前と雰囲気違うな。まぁいい、お前らは呑気にデートか?」

「その通りだよ。それで、お前は?」


 今日の春樹は、ちょっと強気だった。


「俺様は班の親睦を深めるためにみんなで学園内を見て回っているんだよ。ちなみに俺様の提案な。まっ、これもボスの務めだな」


 二階堂は、得意げに厚い胸板を張った。


 ヘンナ以外の仲間たちは、『やれやれ、世話の焼ける』みたいな顔をしている。


「そうか。じゃあ俺は小夜とデート中だから」


 春樹がぷいっと顔を背けると、二階堂はムッとした。


「ノリの悪い奴だな。てめぇ、入学式でちょぉこっとばかり活躍したからって調子こいてんじゃねぇぞ。いいか、勘違いするなよナマクラ。俺は月宮に負けたんだ。てめぇには負けてねぇ。むしろてめぇの能力は俺様に全然効いていなかったんだ。あのまま戦っていたら勝ったのは俺様だな」


 二階堂は熱弁するも、安い挑発に乗る程、今の春樹は子供ではない。


 今の春樹には、人生初の彼女持ちとして全能感があるのだ。


 ただし、自分が馬鹿にされても彼氏が馬鹿にされるのは許せないという、天使のような心を持った子が一人いた。つまりは小夜である。


「ちょっと、ボクのハニーを馬鹿にしないでよ。ハニーは、世界一のハニーなんだからっ」


 語気を強める小夜に、二階堂は顔を歪めて「ああん?」と睨みつける。


「軽々しく【世界一】とか使うなよ。安く聞こえるぜ。そのナマクラ野郎のどこが世界一なんだよ?」

「ハニーはボクのために必死に訓練して強くなってスレイヤーズになってくれたんだよっ」

「はいはい、ようするに愛する彼女に『どうだいボクチャン強いでしょっ』て言いたいんだろ?」


 二階堂は、人を馬鹿にしくさった声を作り、おちゃらけた。


「違うもん。ボク、生まれつき心臓が弱くて、二十歳になるまで生きられないんだ」

「え?」


 二階堂の表情が、ビクリと固まった。


「だけど、ハニーはライフイーターっていう生命力を他人に供給できる能力を持っているから。ボクのためにたくさんレギオンを倒して、集めた生命力をボクに供給して、それでボクが大人になるまで生きられるようにって、水属性なのに、適性値低いのに、いっぱいいっぱい頑張って訓練に耐えて強くなってくれたんだから。だから、ハニーはボクの世界一のハニーなんだから! バカにしたら許さないぞ!」

「え、あ、いや、その……」


 二階堂はすっかり勢いを失い、いたたまれない表情で膝を震わせ、言葉を探しながら両手を彷徨わせた。


 学内に警報が鳴ったのは、その時だった。


『緊急警報。レギオンが出現しました。通知のある生徒は、体育館に集まってください』


 春樹と小夜の前にMR画面が展開して、出撃命令が下りてくる。


 司令は、約束を守ってくれたらしい。


「よし、初陣だな!」

「うん、頑張ろうね、ハニー!」


 春樹と小夜は、アイスのコーンをサクサクと食べてしまうと、二階堂たちをその場に残して走り去った。


 一方、二階堂は、誰もいない座席に向かって、見苦しい言い訳を重ねていた。


「お、俺様はわるくねぇし、そんな事情あったとか、知らないし、だから……」


 四人の仲間たちの、ジトーっとした視線に気がついて、二階堂は息を詰まらせた。


 中東系女子のアイシャ、桜髪女子の花恋(かれん)、小柄男子の望夢(のぞむ)、プラチナブロンドのヘンナが、二階堂の肩に手を置いた。


「謝ったほうがいいわよ」

「今なら罪も軽いわよ」

「時間が経つと謝りにくくなるよ」

「ワタクシが代わりに謝りましょうか?」

「ぐぅっ」


 二階堂は、息を詰まらせて青ざめた。


   ◆◆◆


 体育館に集まった春樹、小夜、勇雄、赫、詩織の五人は、テレポート能力を持つ天剣使いの手で、突然街中に現れた。


 視界がブラックアウトした次の瞬間、いきなり街中なので、春樹は少し驚いた。


「話には聞いていたけど、本当にテレポート出来るんだな」


 言いながら、街の様子を眺めた。


 片道二車線ずつの道路は、車が一台も走っていなかった。


 人影もなく、道路の左右に並び立つビルにも、人の気配が無い。


 まるでゴーストタウンだ。


 人の代わりに、足元や頭上には、MRの矢印が等間隔に浮かび、市民を避難所へ案内していた。


 MR技術のおかげで、避難スピードは従来の二倍になったと言われている。


「これで、心おきなく戦えるな。それで、レギオンはあれか」


 勇雄の視線の先を追うと、道路の奥から、木製のマネキン人形、ファーストたちがぞろぞろ走って来ていた。


 速い。人の足では、絶対に振りきれないだろう。


 入学前、MRの立体映像を使った模擬戦は何度も行っている。


 それでも、空気越しに伝わる振動や生の足音には、多少緊張した。


 けれど、春樹は思った。


 あれは、小夜を生かす糧だ。


 エサのほうから、飛び込んでくれる。


 こんなおいしい話はない。

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