第12話 ワタクシ、ヘンナ・パーヤネンと申します!

 春樹と小夜が連れて行かれたのは、食堂の奥の席だった。


 食堂の奥のテーブルには、決まっているわけではないが、教師陣が多く座っている。


 わざわざ教師たちとの相席を望む生徒がいるわけもなく、伝統的に、一番奥の長テーブルは、教員用、と目されている。


 食堂の飲食は無料だが、健康面を考えれば、毎日ご馳走を食べる愚策はしない。


 ただし、入学したての生徒は調子に乗ってステーキや刺身ばかり頼んでいる。


 最初の一か月は、同じような光景が続くだろう。


 これは、ホルダー学園の風物詩のようなものだった。


 春樹も、つい、ヒレカツ定食を頼んでしまった。


 だが、合法ロリで小柄な司令がガッツリとステーキ定食を頼んでいるので春樹のメニューは目立たなかった。


 一方で、小夜はベジタリアンメニューなので、ある意味一番目立った。


「いただきます」


 両手を合わせて軽く頭を下げてから、小夜は昼食を食べ始めた。


 ハニートーストをかじってから、上品な所作でサラダをつまむ小夜に、春樹は尋ねた。


 普段は自由奔放なのに、礼儀作法はしっかりとしている。


「小夜って菜食主義者なのか?」

「そういうわけじゃないんだけどね。肉や魚はあまり食べないの」

「なんで?」

「う~ん、それはハニーをちょっと困らせちゃうかも」


 愛想笑いで誤魔化す小夜に、春樹は少し反省した。


 自分を困らせる。


 理由を言うと、周りの人間も肉を食べにくくなる理由。


 たぶん、道徳的な理由だろうと、春樹は想像した。


 一見、明るく見える小夜だが、彼女は大人になるまで生きられない。


 命の大切さを知る彼女は、他の動物を殺して食べることに、抵抗があるのかもしれない。


 軽率な質問だったな、と春樹は自省する。


「あ、でもハニーが食べさせてくれるならむしろ食べたいかな」


 おねだりするような上目遣いに、春樹の体温がちょっと上がった。


 春樹が視線を逸らすと、小夜は上機嫌になる。


「仲がいいな。そんなお前に依頼だ」

「依頼、ですか?」


 司令の前であることを思い出して、春樹は姿勢を正した。


「天剣とレギオンの研究をしている国の機関の要請でな。春樹、お前、セカンドと戦ってくれないか?」

「え? でも学生がセカンドと戦うのは危険なんじゃないですか?」


 講堂での説明と、矛盾する。


「いや、実はそうでもない。お前も知っての通り、レギオンとホルダーの戦力差は歴然だ。ホルダーが真面目に戦えば、危険はない。それでも、セカンドは奇襲や事故で、ホルダーに負傷を負わせた例があるため、お前らには戦わないよう言い含めただけだ。同じ学生でも、主席の月宮小夜とお前なら、セカンド相手に後れを取ることはないだろう」


 春樹たちに考える時間を与えるように、司令は言葉を止め、ナイフで切り分けたステーキ肉を口に入れて咀嚼する。


「理由は、ファーストとセカンドで吸収できる生命力の質や量に差があるか、調べて欲しいらしい」

「あ、それは俺も、気になっていたんです」

「だろうな。当然、セカンドの方が小夜の寿命を延ばせる場合は、お前らの班をセカンドの出現区域へと派遣したい。それも、積極的にな」

「それは助かります。是非お願いします」

「ボクもお願いします。それに、どうせ戦うなら、強い相手の方がやりがいもありますしね」

「そうか。それとセカンドを倒せば1組入りは確実だ。1組の担任は私だ。お前らが1組に入り次第、授業の場所を講堂から1組の教室に変えるからそのつもりでいるように」

「今の話は本当ですか?」


 ハイテンションな声が割り込んできて、春樹は思わず見上げた。


 いつの間にか、テーブルの横に、絶世の美少女が立っていた。


 小夜も絶世の美少女だが、彼女とは方向性というか、まず人種が違った。


 モデルのように背が高く、それ以上に足が長く、スカートの高さというか、腰の位置が、他の女子生徒とは明らかに違う。


 白金色に輝くプラチナブロンドを後頭部でシニヨンヘアーにまとめ、アメジストパープルの瞳を、希望に輝かせている。


 性別、性癖に関係なく、神の手によって作りこまれた美貌には、一目見ればハッとさせられることは間違いないだろう。


 なのに、その美貌からは、何やら犯罪臭が漂っていた。


 その理由はすぐに分かった。


「し、れ、い。その1組には是非ともこのヘンナ・パーヤネンをよろしくお願いいたしますぅ。ワタクシ、担任は美幼女以外NGなんですぅ」


 合法ロリ司令にすり寄り、肩を揉みながら、ヘンナは頬をゆるめた。


「ヘンナ、パーヤネン?」

「はいそうですー」


 春樹が聞き返すと、ヘンナはにっこり笑顔で返事をくれた。


「よく言われるんですけど、フィンランドでは実際にある名前ですよ。パーヤネンとかアホカイネンとかパンティラとか、ミドルネーム込みで『ミルカ・ヘンナ・パンツ』さんとか」

「へぇ、可愛い名前だね」


 ——え? マジで?


「どしたのハニー? パンツって響きが可愛いと思わない?」

「え、可愛いっていうか、さ」


 自然と、視線は小夜の下半身に落ちてしまい、春樹は慌てて軌道修正したが遅かった。


 視線を上げれば、小夜がニヤニヤと蠱惑的に笑っていた。


「ハニーのえっち」

「はうっ」


 春樹は奥歯を噛みしめた。


「それで司令、1組になれば毎日司令の授業を受けられるのですよね? ね?」

「そうだが、貴様の頼みは却下だ」

「なぜですかぁー!」


 おろろーん、と鳴きそうな勢いで、ヘンナは司令に縋り付いた。


「1組に入れるのは実力者のみだ。入りたくば実戦で力を示せ」

「きらりん」


 ヘンナの首が、ぐるりん、と回って春樹をロックオンした。


 すると、ヘンナの体から、もう一人のヘンナが抜き出てすり寄ってきた。


「春樹さん、どうかワタクシを貴方の班に。そして次の出撃でお供の末席にぃ」

「え!? 増え!? いや、うちはもう五人いるから!」


 プラチナブロンド美少女の分身に動揺しながらも、春樹は素早く断った。


 しかし、ヘンナはめげずに、春樹の右半身に抱き着いて来た。


「そこをなんとか誰かと交代で! これでもワタクシお役に立ちますよ。天剣の能力で分身できるので奉仕のバリエーションも豊富ですよぉ」


 春樹の右腕が、豊満な低反発力に包まれる。


 制服を大きく押し上げるヘンナのバストが、春樹の腕でぐにゅりと潰れている。


 その光景に、春樹は生唾を飲み込んだ。


 途端に、小夜が妖艶な声を出す。


「は、に、いー」


 浮気を咎められると思い、春樹はおっかなびっくり左を向いた。そして喉を詰まらせた。


 小夜は、とろけるような流し目を送りながら、両手で自分の胸を持ち上げていた。


「ボクのほうがぁ、おっきいよ」


 ヘンナの胸は大きい。巨乳だ。


 けれど、小夜の胸は巨乳以上だった。


 手で、下から、わしづかんで持ち上げられるバストに、春樹は全身を硬くして見入った。


「あぁん、お願いします春樹さーん」


 続けて、ヘンナが頬ずりをしてくれば、小夜は負けじと、逆サイドから頬ずりしてくる。


「ちょっとヘンナ、ハニーはボクのハニーなんだからね。上書きぃ」


 二人の美少女に挟まれながら、春樹は心も体もいっぱいいっぱいで困っていると、司令はジト目で一言。


「桜庭春樹、これだけは言っておくぞ。私は不純異性交遊および猥褻行為またはそれに準ずる全ての行為を推奨する」キリッ。

「推奨しちゃだめでしょう!」


―———―———―———―———―———―———―———―———―———―

本作を読んでいただきありがとうございます。


 また、ささやか過ぎるお知らせです。

 本作は当初、あまりにも視聴回数、PVが少なかったので、キャッチコピーを

「今日から君があたしのハニーだね、チュ♥」

 から

「超王道!異能学園バトル!」

 に変えました。

 すると少し伸びました。

 前のキャッチコピーで読んでくれた人も、新しいキャッチコピーで読んでくれた人もありがとうございます。


 今後もキャッチコピー、あるいはタイトルを変える可能性があるので、毎回キーワード検索している方は、私の名前【鏡銀鉢】で検索するか、フォローをお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る