第11話 司令との昼食タイム

 翌朝、春樹たち一年生は、教室ではなく講堂で授業を受けていた。


 壇上には司令の秋月紅葉が立っている。


 席に着く春樹たち生徒の前には、MR画面が展開されており、授業に必要なデータが表示され、司令の音声が流れる。


 デバイスは、学内ローカルネットにオンライン状態なので、こうしたことも可能だ。天剣学園に、チョークや黒板はない。


 画面越しに、そして檀上から行動中に響き渡るような、活舌の良いの声を、司令は響き渡らせる。


「さて、まだクラスが発表されていないことに戸惑っているものもいるだろう。結論から言おう。クラスの確定は、今から一か月後だ!」


 一部の生徒はざわめき、春樹たちを含め、一部の生徒は落ち着いた。


 しっかりと業界研究をしている生徒は、1組の存在を知っているのだ。


「今から一か月間。諸君らにはプロのホルダーに混じってレギオンを討伐して貰う。その戦果に応じて、班単位、もしくは個人単位で活躍したものは、1組に選抜される。1組は学年のトップランカーが集まる特別クラスだ。レギオン出現の際、1組の生徒は優先的に出撃させられる。つまり、武功を挙げやすい、ということだ」


 その言葉に、また一部の生徒が過剰反応した。


 ようするに、入学式で春樹と戦ったメンバー、二階堂武蔵や鮫島海斗、アメリア・ハワードだ。


「そのレギオンについてだが、入学前の訓練でも説明したが、今一度おさらいしておこう」


 生徒たちのMR画面に、木製のマネキンと、巨大な木彫りの獣が映し出された。


「十一年前。突如として世界中に出現した集団。それがレギオンだ。外見は見ての通り生きた木造だ。だが、何故か人間のみを際限なく襲い殺し、あらゆる兵器で受けた傷を再生させる、不死の軍団だった。しかし、翌年から、十五歳の少年少女たちの間に、天剣に目覚める者が現れ始めた」


 その第一世代が、今、話している司令、秋月紅葉であることは、みんな知っている。


 天剣がなんなのかもわからず、右も左も知らないまま、レギオンと戦うのは、どんな気持ちだったのだろうか。


 春樹は、勝手に司令が乗り越えてきた苦労を想像して、同情した。


「レギオンについては謎が多いが、これだけは解っている。奴らは、天剣とその能力によって負ったダメージだけは回復できない。そして急所は人間と同じだ。つまり、頭か胸を潰せば殺せる。これはファーストもセカンドも同じだ」


 マネキンの下には【ファースト】、木彫りの獣の下には【セカンド】と表示されている。


 これが、敵の呼称だった。


「レギオンは、ファースト、セカンド、サードの順に強くなる。諸君らが派遣されるのは、ファーストしかいない場所だが、万が一セカンドを見かけたら、迷わず撤退するように。また、サードも存在は確認はされているが、一年以上も姿を見せていない特殊な個体だ。興味本位や腕試しにと手を出すようなことはしないように」


 司令の説明に合わせて、MR画面にはサードの画像が表示された。


 マネキンや木彫りとは違う。


 樹木の表皮に覆われ、背中には枝葉が生い茂った、恐ろしい姿の四足獣だ。


 その後も、司令はレギオンやホルダーズについて、色々と説明を続けた。


 でも、春樹はとあることが気になっていた。


 ——ファーストとセカンドで、吸収できる生命力に差はあるのか?


 レギオンの生命力が一律なら、弱いファーストたちを一掃すればいい。


 けれど、もしもより強いレギオン、セカンドやサードのほうが多くの生命力を得られるなら、積極的に狙っていくべきだろう。


 サードは一年も出現していないらしいが、春樹は少し、会いたかった。



   ◆◆◆



 授業初日に、一般科目はない。


 休憩時間を挟みながら、司令の話を聞き続けると、やがて昼休みになる。


「では、ここは一度切り上げる。昼休み終了後、再度この講堂へ集まるように」


 司令が手元に浮いているMR画面にタッチすると、生徒たちの目の前に強制展開されているMR画面が一斉に閉じた。


 けれど、桜庭春樹の前に展開されているMR画面だけは、健在だった。


 不思議に思っていると、司令の音声が流れた。


『桜庭春樹。話がある、飯に付き合え、月宮小夜同伴でも構わないぞ』

「どうしたのハニー?」


 すぐ隣の席に座る小夜が覗き込んでくる。


 周りに座っていた獅子王勇雄に紅羽赫、九本詩織もそれに続く。


「なんか、俺に話があるって。小夜も一緒でいいみたいだから、たぶん俺のライフイーター関係だと思う。内容はあとで教えるよ」

「じゃあ、ちょっとボクら行ってくるよ」


 そう言って、二人は司令の立つ檀上へと歩いて行った。




 後に残された三人のうち、赫が尋ねた。


「にしても、彼女助けるためにレギオンと戦うって、ラノベの主人公みたいな奴だよな」

「中学時代の春樹のことはあまり知らないけど、女で成長するタイプか?」

「違う」


 勇雄と赫の会話に、九本が割り込んできた。


 そのことに驚きながら、二人は階段席の上の段に座る九本を見上げた。


「春樹は、昔からずっとああいう人だから」


 無表情で無感動なセリフ。


 勇雄と赫は追及しようとするも、九本はそれを許さないように席から立ち上がり、その場から立ち去った。


「あ、おい」


 それでも赫は声をかけるも、彼女の背中は遠ざかっていった。

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