第7話 水属性無双

 獅子王の雷撃。


 それを春樹は、二重構造の水の壁で受け止めた。


 春樹の前に現れた、二メートル四方の水壁は、獅子王の雷撃を余すことなく吸収し、完全に遮っていた。


「全部吸収された?」


 驚く獅子王。当然、からくりはある。


「水が電気を通すのは不純物が入っているからだ。塩素や鉄分なんかが入っていないH2Oだけの純正水は絶縁体だ。水道水と同じ成分の一層目で雷撃を吸収。二層目は純正水にして吸収した雷撃が貫通しないよう防御。俺に雷撃は効かないぜ」

「はは、こりゃ敵わねぇわ。降参」


 すごろくゲームに負けたぐらいの気安さで、獅子王は手を挙げ、敗北宣言をした。


 客席に、僅かな動揺が走る。


「いや、ま、まぁ相手は雷属性だし、相性が、なぁ?」

「そうそう、ゲームでも水属性と雷属性はそういう関係だったりするしな」

「でも水の盾とか、物理防御力ゼロだろ」

「やっぱナマクラの低能だな。あはははは」


 獅子王に続いて、今度は紅羽が、手の平をかざした。


「へぇ、やるじゃねぇか春樹。でも、こういう時はどうするんだ!」


 紅羽の手を中心にして、周りに黒鉄の杭が、先端から構築され、次々現れる。


 そして、紅羽が手の平を握ると、弾丸のような勢いで飛んでくる。


 対する春樹は落ち着き払い、今度は水の玉を生み出した。


 高速で回転しながら水の玉は成長して、直径二メートルにまで膨れ上がった。


 その表面に、鉄の杭が飛び込んでいく。


 それから、水球の反対側……ではなく、あさっての方向から飛び出し、芝生やフィールドの壁に突き刺さった。


「は?」


 アホ面で固まる紅羽に、春樹は説明した。


「岩とか固体の盾なら、全部がバカっと割れて貫通される。でも、液体は形を崩さず攻撃を取り込める。そして水流で側面から力を加えて攻撃を逸らせるってわけだ」

「はぁああああん!?」


 紅羽の悲鳴に、春樹が得意げな顔を作ると、水球が地面に叩きつけられ、潰され、芝生の上に広がった。


 犯人は、金髪碧眼の爆乳美少女、アメリアだ。


「で、も、重力には逆らえないでしょう?」


 自分の能力に絶対の自信を持つような、勝ち誇った顔のアメリア。


 さっきの雨で濡れた金髪が光を帯びて、とても綺麗だ。


 でも、大きな胸を揺らしながら、濡れた芝生の上を一歩進んだ途端、彼女の顔は凍り付いた。


 濡れた芝生から、間欠泉のように、水柱が噴き上がった。


 同時に、水柱の時間が止まり、固まる。


 いや、アメリアは氷の柱の中に閉じ込められ、かろうじて頭と左手だけが出ている状態だった。


「なぁっ!? アンタ、氷属性だったの!?」


 驚愕するアメリアに対して、春樹は酷く平坦に答えた。


「いや、ただ、H2Oだけを作ったんだよ」




 この数か月間、春樹は水属性で強くなる方法を考えた。


 本やネットで水のことを調べ、バトル漫画やラノベを読んだ。


 そんな中、ふと疑問に思った。


 ——俺が生成する水って常温だよな。その熱はどこから来ているんだ?


 それで気が付いた。


 天剣は水分子、H2Oと一緒に、【水】として存在できるだけの熱エネルギーも作っている。


 なら、あえて水分子だけを作れば、マイナス273度、絶対零度の氷を作れるのでは、と。


 そして行き着いたのが、これだ。




「零下の水、過冷却水。水が凍るには刺激が必要なんだ。ゆっくりと冷やされた水は零下になっても凍らず、コップを指で叩いたり、別のコップに注いだ途端に凍り付く。手品のタネにも使われる科学だ」


 それを、芝生伝いに下から放つのが、春樹の秘策だ。


 元から地面が濡れていれば、相手は気づかない。


 最初に雨を降らせたのは、この仕込みだったのだ。


「フ、フン、こんなの重力で壊してやるわ」

「お前の全身を包む氷に重力掛けたら、お前自身も潰れるんじゃないのか?」

「ッッ!?」


 アメリアが悔し気に歯を食いしばると、客席には確かな動揺が広がっていく。


「おいおいトップランカーのアメリアまで無力化しちまったぞ」

「もしかして、水属性ってすごいのか?」

「いや、ないだろ、だってあいつはハズレ能力の残念ナマクラ天剣使いで」

「でも実際勝っているぞ!」


 客席の反応に心地よさを覚えながら、春樹は闇属性、ダークマター使いの鮫島に、水の弾丸を放った。


 直径十センチぐらいの小さな、けれどかなりの速度が出ている水弾に、鮫島は闇の刃をぶつけた。


 黒鉄の避雷針を苦も無く斬り裂いた、厚みのない黒い影は水弾をすり抜けた。


 けれど、水弾には何の変化もない。


 最初から液体の水を、斬れるわけもない。


 しかし鮫島の表情は崩れない。


 水の弾がバシャリと当たったからなんなのだ?


 仮に過冷却水でもこの量なら、服が氷に覆われるだけ。熱湯でも、天剣で強化された肉体に服越しなら、大したダメージにはならない。


 そう判断したのだろう。


 だが、次の瞬間、鮫島は激しい爆発力によって、数メートルも吹き飛ばされて倒れ、呼吸困難に陥った。


 今度こそ、客席が沸き上がった。


「すっげぇえええええええええええええ!」

「はぁっ!? マジかよ!? 水が爆発したぞ!」

「鮫島が一撃!? ナマクラの奴、爆発属性なんて持っていたのか?」

「いや、あいつは水属性だ、水蒸気爆発だろ?」

「水属性だからってそんなことできっかよ。なら他の水属性だってやってる!」

「おい、今のちゃんと撮ったか!? これは凄い画だぞ!」

「はい、ばっちりカメラに収めました!」

 

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