§006 「あいつは普通じゃない」
終業のチャイムが鳴ると同時に、俺は一目散に教室を後にした。
なぜかって?
そんなの更科に殺されないようにするために決まってるじゃないか。
あの殺気はプロの殺し屋の“それ”だ。
あのまま教室に残っていたら、いつ刺し殺されてもおかしくない。
要は逃げるが勝ちというやつだ。
更科希沙良……。
俺は彼女のことをよく知らない。
もちろん彼女が学校中の男どもから絶大の人気を得ているのは知っている。
実際に対峙してみて、その人気にも納得がいった。
彼女は本当に馬鹿みたいに可愛かった。
その容姿もさることながら、目元や口元から醸し出される大人の色気に、つい目で追ってしまう女の子らしい仕草。
街中ですれ違ったら誰もが振り返ってしまうぐらい更科が放つオーラは圧倒的だった。
そんな彼女だが、今日話してみて1つわかったことがある。
あいつは普通じゃない。
真性の“勘違いお姫様”だ。
だって、そうだろう。
まるで世の中の男は全員自分のことが好きであるかのような態度。
命令口調から、言葉の端々のニュアンスまでもがそれを物語っていた。
もちろん、彼女は本当に可愛いのだから自分に自信があるのはおかしいことではない。
ただ、少なくとも俺の手に負えるレベルでないことはよくわかった。
でも、パンツを見てしまったことと、更科のことを「好きじゃない」と言ってしまったことが、どうやら彼女のプライドを傷付けてしまったようで、完全に目をつけられてしまった。
いや、確かに「自信過剰」はちょっと言い過ぎたかもしれないが、実際に俺は更科のことを好きじゃないんだから仕方ないじゃないか。
そんなことを考えながら、俺はラノベのページをパラリとめくる。
ラノベを読みながら帰るのは俺の日課だ。
俺は1年生のときに3カ月ほど入院していたことがあるのだが、その期間があまりにも退屈すぎて、アニメやラノベに手を出してしまったのが、俺の人生の分岐点だったみたいだ。
いまでは俺は“アニオタ”と揶揄されても反論の余地がないくらいに、どっぷりとアニメ界にハマってしまってる。
“ヤンキー”な見た目をしながら実は“アニオタ”という設定はアニメ界ではそこまで珍しくないと思うが、ここは残念ながら現実世界だ。
そういう点では俺も“勘違いお姫様”のことを悪くは言えないなと思ってしまう。
うん。それにしても、この『青春タコ野郎シリーズ』はいつ読んでも泣ける。
俺もどうせ目をつけられるなら、こういう優しい先輩がいいな。
はぁ……俺の前にもいつかバニーガール姿の“美少女”が現れないだろうか……。
「キャ――――――――――――!!!!」
そんなくだらないことを考えていたら、どこからか女の人の悲鳴が聞こえた。
俺はビクッとして辺りを見回してみるが、悲鳴の発信源は特定できない。
確かに、俺はいまバニーガール姿の“美少女”が現れないだろうかと考えていたが、イベント発生がさすがに急すぎないだろうか神様。
まあ、この悲鳴の先にバニーガール姿の美少女がいるとは思わないが……。
でも、さすがに悲鳴を聞いて駆けつけないわけにはいかない。
声は確か後ろの方から……。
俺はクルっと踵を返すと、声が聞こえた方角に向かって走り出す。
んっ? そういえば……。
この悲鳴って……どこかで聞いたことがあるような……。
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